Photo by -ratamahatta-
僕は久しぶりに、ここまでの興奮を覚えた。
アンダー世代でこれほど強い日本代表を見たのは、いつ以来のことだろうか。
そこには輝かしい未来を予見させる若きサムライたちの、憎らしいほどの強さと逞しさがあったのである。
日本にとっての “鬼門”、AFC U-16選手権
ウズベキスタンで行わている AFC U-16選手権。
ジュニアユース世代のアジアチャンピオンを決めるこの大会は、同時に来年行われる U-17ワールドカップの予選も兼ねている。
今大会でベスト4に入ったチームが、来年のワールドカップの出場権を得るというレギュレーションだ。
しかしこの大会に、一抹の不安を感じていたのは僕だけではないだろう。
つい先日の AFC U-19選手権での日本の惨敗っぷりが、その不安の根源である。
ただでさえ日本はこれまで、このAFC U-16選手権を苦手としている。
これまで優勝したのは、小野伸二や稲本潤一を擁した 94年大会と、柿谷曜一朗や水沼宏太が牽引した 06年大会の2回。
しかし宇佐美貴史や高木善朗を擁し「プラチナ世代」ともてはやされた前回の 08年大会は、準決勝で敗退してギリギリで世界大会への切符を手にした格好だった。
それだけならまだしも、日本は 95年以降の8大会のうち4回にわたって、U-17ワールドカップへの出場権を逃している。
日本にとっては苦戦を強いられ続けている大会なのだ。
そこにさらに、兄貴分の U-19の惨敗の記憶が重なる。
今年の U-16の試合を観るのはこれが初めてだったけれども、期待と同時に、あの苦々しい記憶が蘇る不安も抱えながらのスタートとなったのである。
しかし蓋を開けてみれば、僕のそんな不安は見事なまでに吹き飛ばされてしまった。
日本の見せた大勝劇
日本は強かった。
序盤こそ両チームが激しいプレスをかけ合う展開で始まった試合は 15分、フリーキックからのオウンゴールで日本が先制する。
ここから日本は、一気に勢いづいていく。
直後の 18分、中盤のボール奪取からパスを受けた日本の 10番、早川史哉がワンタッチで浮き球のスルーパス。
これに抜けだしたエースストライカー、南野拓実が冷静にゴールキーパーの脇を抜いて、2-0と突き放す。
33分には PK失敗というアクシデントもあったけれども、直後の 35分、高い位置からのプレスでボールを奪った堀米悠斗からFWの神田夢実へパスが渡る。
神田がここからダイレクトでループシュートを放つと、この芸術的なゴールが決まって 3-0。
後半に入っても日本の勢いは止まらない。
後半開始からわずかに 30秒。
この日は大活躍だったセンターバック、植田直通の正確なロングフィードがベトナム DFラインの裏に通り、これに抜け出した早川史哉が決めて 4-0。
65分にはカウンターから交代出場した松本昌也→南野とつなぎ、南野が DF2人とゴールーキーパまでかわす見事なドリブル突破からゴールを奪って 5-0とする。
終盤になってもプレスの勢いの衰えない日本。
その後も再三の決定的チャンスを迎えるものの、ベトナムゴールキーパーの神憑り的なセーブもあってなかなか追加点を奪えない。
しかし試合終了間際の 89分、左サイドを突破したサイトバック、鈴木隆雅から交代出場した石毛秀樹にパスが渡り、石毛がゴールキーパーとの1対1を確実に決めて 6-0。
この大勝劇を締めくくったのである。
衝撃的な強さを見せた日本代表
U-16日本代表がこの日に見せた強さは、衝撃的と言っていいものだった。
中盤の激しいプレス、小気味良いパス回し、局面を打開する個人技。
終盤に決定機を外しまくったことを除けば、ほぼ完璧な戦いぶりだったと言っていいだろう。
U-19の惨敗を目の当たりにした直後だっただけに、この強さに僕は強烈なインパクトを感じた。
チームのキーマンはFWの南野拓実、MF早川史哉と楠美圭史、DFの植田直通あたりになるのだろうけど、実際のところ全ての選手が素晴らしかった。
個人的には、いい意味で完璧に予想を裏切られた格好である。
そしてさらに嬉しいのが、ベトナムも決して悪いチームだったわけではないことだ。
むしろこれまでのベトナムのレベルから考えれば、今年のチームはかなり完成度の高いチームだったのではないだろうか。
進境著しいベトナムの成長ぶりが感じられる、好チームだったと言ってもいいと思う。
しかし今回は、日本が強すぎた。
好チームだったベトナムを序盤から力でねじ伏せ、6点を強奪。
内容的にも文句なし。
技術・戦術・フィジカル・メンタルの全てが充実しているようにも思えた。
我ながら、たった1試合でそこまで言うか?という感じだけれども、それくらいのインパクトを、この日の日本代表からは感じたのである。
若きサムライたちの最高の船出
こうなると大会の今後にも、俄然期待をせずにはいられない。
ちなみに日本は今大会、本来ならエース級となるストライカーの鈴木武蔵という選手を欠いている。
日本人とジャマイカ人のハーフで、183センチの体躯、褐色の肌を持つ鈴木武蔵は一見しただけで規格外のスケールを感じさせるけれども、登録上の関係から今回のAFC U-16選手権には出場の許可が下りなかった。
U-16世代では一部の国の年齢詐称疑惑が問題となっていたけれども、その対策として骨の「年輪」のようなものを撮影する「骨年齢検査」というものを実施している。
その検査の関係上、今大会の1次予選に参加していなかった選手は、10/24以降に生まれた選手にしか追加登録が認められないということだ。
ちょっとややこしいけれども、とにかくそういうやむなき事情で鈴木は今回のメンバーには入っていない。
しかし気が早いけれども、ベストメンバーが揃った時のこのチームが、世界でどんな戦いを見せるのかをぜひ観てみたい気もする。
このチームは、それくらいの可能性を感じさせるチームである。
もちろん、この世代のチームの好不調の波が激しいのは、いつの時代でも共通する課題だ。
今回が良かったからと言って、次もいい試合ができるという保証はない。
しかしそれでもこの U-16日本代表が、最高の船出を飾ったことに間違いはないだろう。
これは日本の若武者たちの、大いなる冒険の始まりになるのだろうか。
そしてもし、この航海が順調に続くのであれば。
若きサムライたちは僕たちに、最高に楽しい夢を見させてくれるに違いない。
[ 関連エントリー ]