レッズの「ロジック」に打ち勝った、マリノスの「個人技」/Jリーグ@浦和レッズ 2-3 横浜マリノス

彼らは、なぜ負けたのか理解できなかったのではないだろうか。

浦和レッズのことである。

前節まで3位の浦和レッズがホームに横浜マリノスを迎えたこの試合は、終始ゲームを支配したレッズが、逆に敗れ去るという波乱の幕切れとなった。

第7節にレッズが 3-0 で川崎フロンターレを下した試合の記事で、僕はレッズについて「今季観たどのチームよりも強さを感じた」と書いた。
その印象はこのマリノス戦の後も変わっていない。

しかし、浦和レッズは敗れた。

強豪レッズを下したのは、組織力では劣るマリノスの選手たちの、「個人の力」だったのである。

マリノスを圧倒したレッズの組織力

この試合で先制したのはマリノスのほうだった。
立ち上がりの6分に渡辺千真のゴールが決まり、早々とリードを奪う。

しかしレッズも20分に柏木陽介のゴールで追いつくと、その後はレッズがマリノスを押し込む時間帯が続いた。

ところが前半終了間際、劣勢のマリノスがカウンターの一発から、再度リードに成功する。

しかし喜びもつかの間の後半立ち上がり49分、レッズがエジミウソンのゴールで再び同点に追いついた。

立ち上がりからゲーム内容で圧倒していたのはレッズのほうだった。
それはここまでのゴール内容を見ても明白である。

ここまで 2-2 の同点ではあったけれども、マリノスの2得点は渡辺千真の「ヨーロッパクラス」のスーパーミドルシュートと、GKからのロングボールをレッズDFが処理にもたつく隙に兵藤慎剛が決めた2点である。
それに対してレッズの2得点は、チームとしてのコンビネーションから生まれたものだった。

特に1点目の柏木のゴールは、宇賀神友弥のパスから左サイドを突破した田中達也がファーサイドへクロスを送り、それをポンテがヘッドで折り返して柏木が決めるという、マリノスのDF陣を完全に揺さぶって崩し切った形から生まれたビューティフルゴールである。

マリノスのゴールが「個人技」とちょっとの「運」から生まれているのに対して、レッズの得点は完全にチーム全体の組織力から生まれていた。これらのゴールに象徴されるように、質の高いサッカーをやっていたのは明らかにレッズのほうだった。

だから僕は正直言うと、レッズが 2-2 に追いついた時点で、マリノスにはもう勝ち目は無いと考えてしまっていたのである。

しかし、2度あることは3度ある。

3点目を決めたのはまたしてもマリノス。
しかも、またも山瀬功治の執念のドリブル突破から渡辺千真が決めた、「個人の力」によるゴールだったのだ。

レッズの「ロジック」を上回った、マリノスの「個人技」

サッカーがフィギュアスケートのような採点競技だったとしたら、この試合は間違いなくレッズの勝ちのはずだった。
それだけレッズは質の高いサッカーを実践していた。

マリノスも必死で対抗しようとはしていたものの、レッズの完成度は明らかに一枚上だった。
レッズは例えるならば、フィールド全体を使って、選手全員がそこに参加しているようなサッカーである。
それに比べるとマリノスのサッカーは、より小さいエリアで少ない人数だけが絡んできているようなサッカーだった。
どちらが良いサッカーをしていたかは、一目瞭然である。

しかし、勝ったのはマリノスのほうだった。
「勝負に負けて試合に勝つ」という言葉があるけれども、この日のマリノスがまさにそれだった。

机上の理論で言えば、この日は完全にマリノスの負け試合である。
しかし、そんなサッカーの「ロジック」を、渡辺千真や中村俊輔らを中心としたマリノスが、「個人技」で制圧してしまったわけである。

フォルカー・フィンケ監督が浦和レッズに持ち込んだサッカーは素晴らしい物だと思う。
攻守にわたって数的優位をつくる「人もボールも動くサッカー」を見事に実践しているし、加えてレッズは選手個々のレベルも高い。
一見、浦和レッズに死角は無いようにも思える。

しかし、レッズは現時点でJリーグの暫定4位に甘んじてしまっている。

求められる「真のリーダー」

今のレッズに欠けてしまっているものは、いったい何なのだろうか?

この試合のレッズは、プレー内容でマリノスを圧倒しながらも、3点を奪われて勝利を逃した。
こういう負け方をするチームの場合、僕が考える「足りないもの」は一つである。

それは「リーダー」の不在。

常勝チームと言われるようなチームには、必ずと言っていいほど、苦しい場面でチームを引き締める「リーダー」が存在している。
どんなチームでも年間を通じて見れば苦しい時期、苦しい試合というのが必ずある。
そんな場面でチームを鼓舞し、精神的支柱となれるリーダーの有無が、際どい勝負をものにできるかどうかを左右することは珍しくない。

かつてのジュビロ磐田には中山雅史やドゥンガ、名波浩のようなリーダーがいたし、近年の鹿島アントラーズにも小笠原満男や中田浩二らのリーダーが存在する。

しかしいまのレッズには、そんな存在が見当たらないのである。
これこそが、浦和レッズが実力を結果に結びつけきれていない最大の原因ではないかと、僕は考えている。

いまのレッズのサッカーは素晴らしい。
しかし、勝利のためにはそれだけでは不十分である。

レッズの最後のピースを埋められる「真のリーダー」は、シーズン終了までに現れるのだろうか?

その一点が今年のレッズの命運を左右するのではないか。

僕には、そんな予感がしてならない。

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