阪神ダービー、勝利の女神を振り向かせた「執念の差」/J1リーグ@ガンバ大阪 2-4 ヴィッセル神戸


Photo by Hyougushi

『阪神』と聞いたとき、大半の人があの “虎縞の野球チーム” を思い出すだろう。

しかしこの阪神という言葉、もともとはそのプロ野球チームを保有する電鉄会社の名前である。

そしてその会社名の由来となったのが、「大阪」「神戸」という関西の2大都市ということになる。

大阪と神戸、その違いをもたらす文化的背景

関西圏以外に住んでいる人からすれば、「関西」のイメージは、ほぼ「大阪」のイメージとイコールになるのだろう。

つまり「お笑い」「たこ焼き」「通天閣」「太陽の塔」みたいな、何かとインパクトの強い「コテコテの街」=「関西」、というイメージだ。
実際、大阪という街は、ほぼそういうイメージの通りの街だと言っても間違いではないと思う。

ただし「関西」という大きなくくりで考えた場合には、そういったステレオタイプで一刀両断にはできない部分も出てくる。

関西というと大阪以外にも「京都」や「神戸」という代表的な都市がある。

そしてこの京都や神戸は、大阪とはまた違った雰囲気を持つ街なのだ。

特に神戸は、関西の中でもハイソな人たちが多いとして知られている街だ。

コテコテ・ベタベタなドヤ街のイメージが強い大阪に対して、神戸の街は関西では、海や洋風建築や夜景スポットが密集した「オシャレな街」としてイメージされている。

神戸出身の人たちは、もちろん関西人特有のノリの良さはあるけれども、同時にどこか気品が感じられる人が多い(気がする)。
まあ兵庫県出身の藤原紀香のイメージが、だいたい神戸のイメージとイコールだと考えて差し支え無いだろう…たぶん。

そしてそういう理由もあってか、神戸の人たちからは近隣の同じ大都市ではあっても、大阪に対するライバル心というものがあまり感じられないように思う。
むしろ、神戸は大阪を大して気にしていないと言ってもいいだろう。

「金持ち喧嘩せず」という言葉があるけれども、そんな感じで神戸の人たちも、大阪は自分たちとはまた異質の存在だと見ているような雰囲気がある。

そしてそんな文化的な背景も、Jリーグの「阪神ダービー」がイマイチ盛り上がらない理由なのだろうか。

でも僕は、いつかこのダービーマッチが盛り上がってくれる日を、密かに期待していたりもするのだけれど。

主導権を握ったガンバ大阪

今回のガンバ大阪とヴィッセル神戸の「阪神ダービー」は、両チームがまったく対照的な順位に位置した状態で幕を開けた。

前節まで3位で優勝を視野に入れるガンバに対して、ヴィッセルはJ2降格圏内の 16位。

「絶対に負けられない」という意味ではどちらのチームにも違いはないけれども、その意味合いには大きな差があった。

しかし試合の序盤、まずそのモチベーションの高さを見せつけたのはヴィッセル神戸のほうだった。

実力上位のホームチーム、ガンバ大阪に対して、気合いの入った攻守で押し気味にゲームをスタートさせたヴィッセル神戸。

両チームのホームタウンの持つ雰囲気とは対照的に、華麗で洗練されたサッカーをするガンバに対して、泥臭いスタイルのヴィッセルの持つ「気持ち」がまずは上回った立ち上がりとなった。

しかしそんな気合いが、必ずしも実らないのもサッカーである。

先制点が生まれたのは 22分。
挙げたのは、押し込まれていたガンバ大阪のほうだったのだ。

ショートカウンターから平井将生が持ち上がり、左サイドに上がった宇佐美貴史にパスが渡る。
ここまでの時間帯はほとんど消えていた宇佐美貴史だったけれども、このワンチャンスにその天才性を存分に見せつけた。

宇佐美はこのパスを受けると、右足インサイドでダイレクトにボールをすくい上げる。

ループ気味にヴィッセルのゴールマウスへと飛んだシュートは美しい放物線を描き、ゴール右上サイドネットに吸い込まれていったのである。

この難易度の高いシュートを、いとも簡単に決めてしまうサッカーセンス。

宇佐美貴史のビューティフルゴールで、ガンバが予定通りの先制点を手に入れた。

これで勢いに乗ったガンバは、得意のポゼッションサッカーでゲームを支配する時間帯を迎える。

対するヴィッセル神戸は、ボールをゴール前へと運ぶことすらままならない。

両チームの実力差を考えれば、この先制点で、勝負は大きくガンバの勝利へと傾いたかと思われた。

しかし劣勢のヴィッセルもこのあと、一度のチャンスを物にする。

35分、左サイドでボールを持ったボッティから、前線に正確なロングパスが入る。

このボールに反応した吉田孝行の頭がこれをピタリととらえると、吉田はこの後方からの難しいボールを、見事にガンバのゴールへと流し込んだのである。

あまりにも綺麗に決まったファインゴール。
僕の憶測だけども、たぶんちょっぴりラッキーな部分もあったのではないかと思う。

しかし何にしてもヴィッセルはこのゴールで、劣勢を跳ね返して同点に追いつくことに成功した。

ただし、そこは試合巧者のガンバ大阪。

その同点ゴールから間もなく、ガンバは再びヴィッセルを突き放すことになる。

41分、ガンバの左サイドで迎えたフリーキック。

遠藤保仁の右足から放たれたキックは正確な軌道を描き、ファーサイドの中澤聡太の頭を捉える。
そして中澤が中央に折り返したボールに、走りこんでいたのはイ・グノだった。

イ・グノがこれを、身体を投げ出すように頭で決めて、ガンバが再び 2-1とリードした。

強豪のガンバに許した2度のリード。

普通に考えればここで、ヴィッセルの命運は8割方尽きたと言っても良かっただろう。

しかし手負いのヴィッセル神戸は、ここから驚異的な巻き返しを見せるのである。

ヴィッセル神戸が見せた驚異的な巻き返し

ヴィッセルの反撃の狼煙が上がったのは、後半開始からわずか1分あまりの出来事だった。

47分、コーナーキックのチャンスから、ヴィッセルの DF河本裕之が打点の高いヘディングで押し込んで 2-2の同点。

ヴィッセルのこの試合にかける執念が、少ないチャンスで2度のビハインドを追いつくという幸運をもたらしたのだと、僕は思った。

しかしヴィッセルの勢いは、まだこれだけでは収まらなかったのである。

続く 57分、ヴィッセル神戸に逆転弾が生まれる。

そしてこれは同時に、クラブに新しいスターが誕生した瞬間でもあった。

右サイドで、この日は攻守に活躍を見せていたサイドバック、石櫃洋祐が突破を見せる。

ガンバ DF陣の包囲網を突破した石櫃は、中央にグラウンダーのクロス。

この処理をガンバ DF陣がもたついたところで、ボールが流れた先に待っていたのが、ヴィッセル神戸の小川慶治朗だった。

小川慶治朗は、かつて「プラチナ世代」と呼ばれていた世代の一員である。
昨年の U-17ワールドカップにも、宇佐美貴史らとともに2試合に出場している。

兵庫県出身で、ヴィッセル神戸Jr.ユースからヴィッセル神戸ユースへと進んだ生え抜き選手。
その小川は今シーズンから、高校3年生ながらトップチームへと昇格を果たしていた。

この試合で、今季9試合目の出場となった小川慶治朗。

目の前で同い年の宇佐美にゴールを決められて、心中期するところもあったと思う。
しかし前半までの小川は左サイドにポジショニングすることが多く、トイメンの元日本代表・加地亮に、ほぼ完璧に封じ込まれてしまっていた。

しかし後半から中央にポジションを移した小川慶治朗は、突如水を得た魚のように躍動を見せる。

次々と攻撃の局面に絡むようになった矢先に、このビッグチャンスが待っていた。

そして小川が、この石櫃からのクロスを冷静に決めて、ヴィッセル神戸が 2-3と逆転に成功したのである。

これは小川慶治朗にとっては、嬉しい自身のJリーグ初ゴールにもなった。

その後はガンバ大阪も、明神智和・二川孝広を投入して反撃に転じる。
しかしパスは回せども、なかなかヴィッセル神戸の最終ラインを崩すことができない。

ヴィッセルの守備もバイタルエリアのカバーが甘く、チャンスも何度かあったけれども、ガンバもこれを活かしきることができなかった。

そしてロスタイム直前の 90分、試合を決定づける1点が生まれる。

安田理大のパスミスからカウンターを浴びたガンバ。
ヴィッセルの田中英雄がドリブルでこれを持ち上がると、ボッティに丁寧なラストパスが渡る。

ボッティがこれを冷静に決めて、ヴィッセルが 2-4と勝負を決めた。

そしてヴィッセルがこのスコアのまま逃げ切りに成功して、貴重すぎる勝ち点3を手に入れたのである。

勝利の女神を振り向かせた「神戸の執念」

試合後、ガンバ大阪の西野朗監督は「今季最悪。」と吐き捨て、「そのうち点が取れるとでも思ってたんだろうか」と、選手たちのモチベーション管理の甘さを嘆いた。

この敗戦の結果、リーグ残り6試合で、首位の名古屋グランパスとの勝ち点差が 11に開いたとあっては、それも無理もないと言ったところだろうか。

対するヴィッセル神戸は、この勝利で勝ち点を 26へと伸ばす。

まだ順位は 16位のままだけれども、14位の FC東京、15位の大宮アルディージャ(消化は1試合少ない)に勝ち点2差と迫り、ピタリと追走することに成功。

17位の京都サンガ、18位の湘南ベルマーレとの勝ち点差が 10あって、13位のベガルタ仙台の勝ち点が 34なのを考えると、降格争いの最後の1枠が、ほぼ神戸・大宮・東京の3チームに絞られてきたと言ってもいいだろう。

明暗を分けた格好になった阪神ダービー。

しかし本来の実力的にはガンバが上だったことは、この試合を観ても明らかだった。

それでも勝負を分けたのは、この試合にかける両チームの「執念の差」。

より「勝ちたい」という気持ちを強く持ったチームに、勝利の女神が微笑んだ一戦だった。

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