復活をかける2つの「レジェンド」/J1リーグ@ガンバ大阪 2-0 ジュビロ磐田

93年と94年のヴェルディ川崎。
95年の名古屋グランパス。

これまでJリーグには、いくつかの伝説的なチームが存在した。

他を圧倒する強さとともに、観衆を魅了する華麗さを備えたレジェンドチームたち。

そしてそのJの歴史上でも究極のチームと言われているのが、2002年のジュビロ磐田である。

Jリーグを席巻した「伝説のチーム」

当時のジュビロの強さは凄まじかった。

どれくらい強かったかと言うと、K-1における「最凶巨神兵」セーム・シュルト、いやもしかしたら「彼が5人いたら日本は太平洋戦争で勝っていた」と言われる男塾塾長・江田島平八と同じくらい強かっただろうか。

この年、Jリーグ史上初の前期後期完全制覇を達成したジュビロは、その成績だけでなく、サッカースタイルでも他の追随を許さない完成度を誇った。

稀代のゲームメーカー、名波浩を中心に、藤田俊哉・福西崇史・服部年宏・西紀寛で構成された5人の中盤が、台風が渦を巻くように流動的にポジションチェンジを繰り返す。

その怒涛のコンビネーションは「N-BOX」と呼ばれ、この年に史上最年少のJリーグ得点王になった高原直泰と、「ジュビロの魂」中山雅史の前線とも共鳴して、空前の攻撃サッカーを開花させたのである。

そしてそのジュビロのあと、Jを席巻したのがガンバ大阪だった。

西野朗監督のもと、2005年にリーグ初優勝を達成したガンバは、2008年にはAFCチャンピオンズリーグも制して、アジアの頂点に立つ。

遠藤保仁を中心に、明神智和、二川孝広、橋本英郎の「黄金の中盤」による魅惑のパスサッカーを体現したガンバ大阪は、かつてのジュビロと同じように、日本サッカーの目指すべき一つの完成形だと称された。

そしてこの日のゲームは、かつて生きる伝説だったその両チームの対戦だった。

しかしそこには、往年の輝きは見られなかったのである。

両チームの迎えた転換期

チームは生き物である。

人間はいつか必ず衰える。
それはサッカー選手ももちろん、例外ではない。

そしてどんな素晴らしいチームにも、いつか必ず終焉の時がやって来る。

「N-BOX」の時代をレギュラーとして体験した当時の生き残りは、西紀寛だけになってしまった。

いまのジュビロに、最強を誇ったかつての面影はない。

そしてガンバも「黄金の中盤」の4人が軒並み 30代を迎え、ひとつのサイクルの終わりの時が近づいている。

この試合の前までの順位は、ガンバが7位、ジュビロは 12位。
両雄は過去の栄光と決別し、新しい時代を築いていく転換期を迎えている。

この試合を制したのはガンバだった。

低迷こそしているけれども技術は衰えていないガンバは、時おり素晴らしいパスワークも見せて、90分を通じて主導権を握る。

結果的にはその力の差が、そのままスコアに反映される形となった。

しかしそのガンバも、圧倒的な強さを取り戻したわけではない。
両チーム共に、今後は数年をかけて再建を図っていく必要があるだろう。

ただしこの両チームは、それに向けた一つの大きな強みを持っている。

それは、ユースの育成組織である。

チームを再興させる「育成力」

宮本恒靖や稲本潤一、大黒将志などの日本代表選手を育てたガンバユースの育成能力は、広く知られるところだ。

そしてこの日の先発メンバーにも、橋本英郎・二川孝広・安田理大・平井将生・そして宇佐美貴史と、実に5人のユース出身者が名を連ねた。
それぞれが各年代の日本代表経験者でもある。

いまやガンバユースは、日本一の選手育成組織だと言っても言い過ぎではないだろう。

対するジュビロ磐田も、ガンバほどではないけども優秀な育成組織を持っている。

この日の出場メンバーでも、先発した上田康太と船谷圭祐、その船谷に代わって後半から出場した山本康裕の3人は、ジュビロ磐田ユースの出身だ。

しかし先日フル代表に選ばれた「6戦連発男」橋本や、目下Jリーグ日本人得点王の平井、未来の日本のエースと呼ばれる宇佐美たちと比べると、ジュビロの3人はそれぞれ素晴らしい選手ではあるけれども、やや小粒な感は否めない。

この「育成力」の差が、この日の両チームの差となって出たという見方もできるだろう。

しかし、現在世界で最高のサッカーを見せているFCバルセロナが、シャビやイニエスタ、メッシといったカンテラ(下部組織)出身者によって支えられているように、真に完成度の高いサッカーを目指そうと思ったら、ユースからの一貫指導が重要になってくる。
バルセロナの成功で、今後その傾向はより強まっていくだろう。

そういう意味でガンバは、日本では最もバルセロナに近い存在だとも言える。

そしてジュビロにも、その育成力を磨いて「黄金時代」を取り戻すだけのポテンシャルは、充分にあると考えていいだろう。

かつて日本サッカー界を牽引した両チーム。

現在はその栄光が失われつつあるのは確かだ。

しかし、彼らの持つ育成力は、将来へ向けての大きな希望の光となるだろう。

そしてまたいつの日か、この2チームが見せてくれたあの魅惑のサッカーが復活してくれることを、僕は密かに期待しているのである。

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