Jリーグは比較的実力の拮抗したリーグだと思う。
例えばスペインのバルセロナやレアル・マドリードのようにずば抜けたチームがあって、そこが3位以下に30ポイント近い勝ち点差をつけてぶっちぎってしまうような事は、J1リーグではほとんどないと言っていい。
前節までの順位表を見ても、1位から最下位までがほぼ勝ち点1〜2差間隔できれいに並んでいて、僅差でのなだらかな序列ができているというイメージである。
そんな実力差の小さいJリーグだけれども、それでも目下、リーグ3連覇中と他を圧倒しているチームが存在する。
言わずと知れた鹿島アントラーズである。
ただ3連覇というと圧倒的な成績ではあるけども、その3回ともが最終節で優勝の決まった、非常に僅差の勝利であった。
つまりアントラーズと比較して、他のチームが圧倒的に力が劣っていたというわけではない。
しかし、それでも3年連続で優勝を遂げてしまうところに、アントラーズの比類なき「勝負強さ」があったわけである。
そしてこの日の名古屋グランパス戦も、その勝負強さが遺憾なく発揮された一戦となった。
実力伯仲の前半戦
前半は比較的、実力伯仲の勝負となった。
グランパス、アントラーズともに何度かのチャンスを作っていたものの、互いに決めきれない展開が続く。
均衡が破れたのは前半終了間際の44分。フェリペ・ガブリエルの左からのクロスを、興梠慎三が頭で絶妙な折り返し。そこに走り込んだ野沢拓也が決めて、アントラーズが1点を先制する。
しかし同点の機会はすぐに訪れた。
後半に入ったばかりの46分、混戦からジョシュア・ケネディが決め、グランパスがあっさりと同点に追いつく。
この展開に、後半も一進一退の好勝負を期待したのは僕だけではなかったはずだ。
しかし、結果的にその思惑は大きく裏切られる。
試合を分けたのは、名古屋グランパスには無くて鹿島アントラーズにはあった、「チャンピオンのメンタリティ」だったのである。
試合を分けた「チャンピオンのメンタリティ」
同点に追いつかれたのもつかの間の53分、アントラーズはキーマンが決定的な仕事を果たす。
ゴール前でのアントラーズのボール奪取から、カウンター気味に前線に放り込まれたロングボール。
しかしこのボールに最初に追いついたのは、グランパスのDF増川隆洋だった。
増川がこれをクリアーするかと思われたその刹那、そこに猛然と走り込んできた選手がいる。
アントラーズのエースストライカー、マルキーニョスである。
191cm・93kgという巨漢の増川を、174cm・76kgのマルキーニョスが吹っ飛ばしてボールを奪うと、ゴール前に走り込んだ興梠にピタっと合うグラウンダーのクロス。これを興梠がキッチりと決めて、アントラーズが勝ち越しに成功した。
突き放されたグランパスは、その後も反撃を試みる。
しかし、次の得点はまたしてもアントラーズに訪れた。
中盤でボールを奪ってのショートカウンターから、GKと1対1となったマルキーニョスがゲット。
これで2点差。
そしてとどめは試合終了間際。椎間板ヘルニアの手術から復帰した本山雅志が、今季初出場・初ゴールとなるビューティフルゴールをゲットして、完全に試合を決定づけたのである。
アントラーズの持つ「恐怖のチャンスメイク能力」
終わってみればアントラーズが4点を奪っての大勝利。
しかし、グランパスも中盤までは互角の戦いぶりを見せていて、サッカーの質そのものに大きな差があるようには感じられなかった。
それでもこれほどの大差がついたのは、「勝負どころ」を決して逃さない、鹿島アントラーズのずば抜けた勝負強さが要因だったのではないだろうか。
得点の一つ一つを見ても、ボールを支配し、完全に崩しきって奪ったゴールというのは少なかったアントラーズ。
しかし2点目・3点目に象徴されるように、何でもないような場面からボールを奪い、それを一気にチャンスへと変えてしまう怖さをアントラーズは持っている。
チーム全体にそういった「チャンスの匂い」をかぎ分けられる力があること、そしてそれを確実にゴールに結びつけられる選手たちがいることが、鹿島アントラーズの最大の強さの秘訣ではないだろうか。
必ずしもゲームそのものを支配していなくても、一瞬にしてチャンスを作り、それを得点にしてしまう能力をアントラーズは持っている。
視点を変えれば、どれだけ膠着した展開に見える場面でも、アントラーズはそれを瞬時にチャンスへと変えてしまうことができるのである。
相手からしてみればどんな場面であっても決して油断ができないというわけで、これほど嫌な対戦相手はいないだろう。
アントラーズを待ち受ける、「4連覇への壁」
この大勝で3位へと浮上し、いよいよその本領を発揮してきたアントラーズ。
AFCチャンピオンズリーグでは16強止まりと不本意な成績に終わったものの、そのぶん中断明けのJリーグでは完全に優勝に照準を合わせてくるはずである。
しかし無類の勝負強さを誇るアントラーズとは言え、4連覇は決して簡単な道のりではない。
好調清水エスパルスをはじめとする強敵たちがそれを阻むのか?
それとも鹿島アントラーズが、前人未到の大記録を打ち立てるのだろうか?
これから2ヶ月の “ワールドカップ休み” に入るJリーグ。
しかし、再開後も僕たちを大いに楽しませてくれそうである。
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