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「黄砂に吹かれて」とは、今はキムタクの奥方になった工藤静香がアイドル時代に出したヒット曲である。

ちなみに作詞はあの中島みゆき。
蜃気楼のように去っていった男を「砂漠の旅人」になぞらえて、失恋の悲哀を歌ったムードあふれる名曲だ。

しかし「黄砂」というものが現実に我が身に降りかかった場合、こんなにタチの悪いものだとは、当時の僕は知る由もなかった。

この日の日本列島は、サーモグラフィーに例えたら西日本が真っ赤になるほどの大量の黄砂が中国から飛来した。
僕が住む大阪では街全体が黄砂に包まれて、まるで濃い霧がかかったかのよう。

外を歩けば若いご夫婦の
「あれー?なんか煙みたい?何これ?黄砂?」
「うーん?確かに視界が悪いなあ、黄砂かなあ」
なんて会話が聞こえてくる。

東日本では原発が放射能をたれ流し、西日本は黄砂まみれ。
いつの間にやら僕の知っていた日本は、とんでもなく住みにくい国になってしまったようだった。

それでもこの日は観戦を決めていた試合があった。
黄色く霞がかった街中にマスクを装着しながら、僕は神戸へと足を運んだのである。

「圧勝」を目指す優勝候補、INAC神戸レオネッサ

「ただ勝つだけではなく、圧倒的に勝って歴史をつくりたい」。

昨シーズン途中から INAC神戸レオネッサの指揮をとる星川敬監督は、リーグ開幕にあたって、初優勝のその先をも見据えた壮大な目標を掲げた。

しかし、それもあながち夢物語ではないだろう。

INACは昨シーズンの全日本女子選手権を制したチームをベースに、今シーズンはさらに大型補強を敢行。
日本代表でも中心選手として活躍する澤穂希、大野忍、近賀ゆかり、南山千明の4選手をライバルの日テレ・ベレーザから獲得すると、さらに昨年の U-20女子ワールドカップでシルバーボール賞(準 MVP)に輝いたチ・ソヨンと、クォン・ウンソムの2人の韓国人選手が加入。
昨年の「2強」だったベレーザ&レッズを抜いて、下馬評ではダントツの優勝候補に名乗りを挙げていた。

INACがその予想通りに優勝まで突っ走るのか?
それとも、ベレーザ・レッズをはじめとする他チームが阻止するのか?

それが今年のなでしこリーグの最大の焦点だと言ってもいいだろう。

そして今シーズンを考える上で、避けては通れないのが東日本大震災の影響だ。

4月上旬に予定されていたリーグ開幕は GWまで延期になって、さらにリーグの強豪だった東京電力女子サッカー部マリーゼは活動休止に追い込まれる。
リーグは9チームでの開幕となり、先週試合のなかった INACはこの日にようやく開幕を迎えることとなった。

そんな事情もあって INACの開幕の相手はいきなり、昨シーズンの全日本女子選手権決勝を戦ったライバル、浦和レッズ・レディースとなったのである。

実力伯仲の前半戦

曇天の空模様に、黄色く霞んだ空気。
デーゲームなのでナイター照明は稼動していない。
キックオフ前には被災地への1分間の黙祷が捧げられる。

華やかさとは無縁の神妙なムードの中、INACの今シーズンが幕を開けた。

昨シーズンのカップチャンピオンにして優勝候補筆頭のINAC神戸レオネッサ。
対するは、昨シーズンは無冠ながらも、その前シーズンにはリーグチャンピオンに輝いている強豪、浦和レッズ・レディース。

いきなり実現したリーグ3強の一角同士の対決は、予想に違わぬ激しい立ち上がりを見せる。

両チームとも、のっけからブレーキ無しのハイプレスの応酬。

女性は一度勝利を渇望したとき、それを達成しようというモチベーションが男性よりも強いのかもしれない。
このへんのテンションの高さは、はっきり言って下手なJリーグの試合をはるかに凌ぐ。
僕が女子サッカーの中でも一番楽しいと感じる部分だ。

こうして立ち上がりから激しいゲームとなった前半は 45分間、ほぼ互角の展開を見せた。

と言っても、両チームの見せたプレー内容には大きな違いがある。

選手のスキルレベルではおそらく上回る INAC。
しかしチームの軸が大幅に入れ替わったことで、やはりコンビネーションの部分には課題を抱えていた。

「ベレーザ組」と、従来からの「INAC組」との息が合わない。

澤、大野、近賀たちはさすがの連携を見せる場面もあったけれども、それはあくまでもベレーザ組の3人の中だけでの話。
この3人と、川澄奈穂美、高瀬愛実などの昨年の主軸選手たちとの連携がイマイチで、さらにボランチで先発した期待のチ・ソヨンは、明らかにまだチームにフィットしていなかった。

けっきょく前半、INACの攻撃は個人技と局地的コンビネーション主体の単発的なものに終始する。

それに対してレッズ・レディースは、先発メンバーのうち左サイドバックの安田有希を除く 10人が、昨シーズン以前からチームに所属するメンバー。
それだけに連携には一日の長があり、「個人技のINAC」「組織力のレッズ」という構図で前半は展開していった。

ちなみにレッズ・レディースで僕が注目したのが、10番を背負ったフォワードの吉良知夏だ。

吉良はあの 2008年のU-17女子ワールドカップで岩渕真奈とコンビを組み、日本の快進撃の原動力となった選手である。
岩渕ほどの派手さはないものの、決めるべきゴールを確実に決める本格派のストライカーで、いずれは日本代表の9番を背負うのではないかと僕は密かに期待していた。
しかしレッズ・レディースに入団した昨年は、脚の故障のためにほぼ一年を棒に振ってしまう。

その吉良選手がこの試合では先発出場を果たし、ブランクを感じさせない活躍を見せたのだ。
正確で強烈なシュート力は健在で、この日もゴールこそなかったけれども、何度も INACをヒヤリとさせる場面を生み出していた。

そんな感じで互いに見せ場をつくった前半はしかし、スコアレスのまま終了。

勝負の行方は運命の後半へと委ねられる。

後半を制した INACの「アクション」

後半、まず先手を打ったのは INACのほうだった。

ワントップに入っていた高瀬愛実に代えて、ベテランのスピードスター・米津美和を投入。
結果的にこの采配が当たる。

高瀬は昨年は日本代表 “なでしこジャパン” にも選ばれ、レギュラーとして 11月のアジア大会優勝に貢献した実力者。
しかしこの日は周囲と息が合わず、消えている時間も多かった。

星川監督はこの高瀬に代えて、後半開始から米津を左サイドに入れる。
そして前半は左サイドに入っていた川澄と、トップ下だった大野を2トップ気味に並べた。

この配置転換で、INACの前線は活性化される。

米津は持ち味の高速ドリブルで左サイドの起点となった。
そして川澄と大野はよりゴールに近いポジションで、その高い技術力を発揮するようになる。

こうして流れが変わった後半、この2トップのコンビから先制点が生まれた。

51分、ラインの裏に抜けだした川澄のシュートを GKがセーブ。
しかしそのこぼれ球に詰めていた大野が押しこんで、INACが待望の先制ゴールをゲットする。

さらに9分後の 60分、米津の左サイドからのクロスを拾った中島依美が、体を反転させながら振り向きざまのシュート。
このミドルがゴール対角に鮮やかに決まり、INACが 2-0とリードを広げた。

そしてこの2ゴールで、前半は保たれていた均衡は完全に崩れる。

「後半の後半」は、ほぼ INACのワンサイドゲーム。
徐々に運動量の落ちていったレッズに比べ、INACは終盤になっても走力が衰えない。

そのアドバンテージを活かして、特に川澄が何度もラインの裏に抜け出しては、レッズのゴールを脅かし続けた。

ちなみに INAC神戸レオネッサは、なでしこリーグ唯一の「実質的なプロチーム」だと言われている。

なでしこリーグには現在 207名の選手が登録されているけれども、その中で正規のプロ選手はわずか8名。
残りの 200人近くは、スポンサー企業で事務職をやったりだとか、関連スクールのコーチをやったりだとか、形は違えども何かしら別に仕事を持ちながら日々の練習に取り組んでいる。
当然、練習時間は夜間などの短い時間に限られてしまう。

それに対して INACの場合、プロ選手以外の選手もスポンサー企業の「広報担当」として雇用されていて、実務に関わる時間は極めて少ない。
「サッカーをすることでチームを PRするのが仕事」という考え方だ。

そのため他のチームに比べて練習に割ける時間も大幅に多く、他チームではほぼ不可能な2部練習なども積極的に取り入れている。

このことから INACは実質的なプロチームであると考えられていて、単純に資金力があるというだけでなく、この練習環境の充実ぶりが、澤などの大物選手を獲得する決め手となった。

練習量が倍ほども違うのだから、当然上達のスピードも速い。
特に仕事を持ちながらだと非常に難しいと言われているフィジカルトレーニングに時間を割けるのは大きいだろう。
この辺りが後半の運動量の差となって出てきたのではないかと僕は見ている。

しかしメンバーの質だけでなく練習環境も圧倒的ときたら、実際のところ INACの牙城を崩すのはかなり難易度の高いミッションだと言える。

INAC独走の鍵

INACはこの試合でレッズにいきなりの土をつけた。
そしてもう一方のライバル、昨シーズンの女王・ベレーザは、同日に行われた岡山湯郷とのゲームで 0-1と足元をすくわれている。

INACはまだ1試合しかこなしていないのに、ライバルの2チームは早くも黒星を喫してしまい、のっけから INACが独走態勢に入る可能性まで出てきた。
星川監督の言う「圧倒的な勝利」も、充分に現実味を帯びてきている。

僕は大阪在住なので、なでしこリーグ唯一の関西チームである INACを応援しているけれども、それでももし INACが圧勝のままシーズンを終えてしまったとしたら嬉しい反面、複雑な気持ちも残る。

女子サッカー界全体のことを考えれば、1チームだけが圧倒的に強い状態は必ずしもリーグの発展に繋がらないと思っているからだ。

似たような例としてフットサル・Fリーグの名古屋オーシャンズが挙げられる。
名古屋オーシャンズもFリーグ唯一の完全プロチームとして国内外から有力選手をかき集め、圧倒的な強さでリーグ4連覇を達成した。
しかし名古屋が強すぎるためにリーグ戦への関心は薄れ、Fリーグは発足から4年間、観客動員では横ばいが続いている。
もともと平均観客動員数は 1,000人ちょっとで、決して多いとは言えない数字なのにも関わらずだ。

そしてなでしこリーグも同じ道を辿るのではないかという一抹の不安を、僕は抱いてしまうのである。

と言ってもそれは名古屋オーシャンズや INACの責任ではないだろう。

この両チームは選手のプレー環境改善のために惜しみない投資をしているだけであって、将来的には彼らに追いつくチームが出現することが理想だ。
そうして複数のプロチーム(もしくは実質プロチーム)が優勝を争うようになったとき、初めてそのリーグは次のステージに進んだと言えるのではないだろうか。

なでしこリーグは今、その過渡期にあるのだと僕は考えている。

何にしてもリーグを盛り上げるためには、各チームの頑張りに期待するしかない。

互いに切磋琢磨して、リーグのレベルを押し上げる。

月並みだけどもそれがこの先に待つ、「女子サッカーの未来」へと、繋がっていくのではないだろうか。

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