なでしこの喫した「完敗劇」/FIFA女子ワールドカップ@日本女子代表 0-2 イングランド女子代表

Sunday After the RainSunday After the Rain / spratmackrel

カンパイ〜、いまぁ〜、きぃ〜みぃ〜はぁ〜じぃ〜んせぇいのぉ〜!お〜お〜きぃなぁ〜ぶぅ〜たぁ〜いぃにぃ〜たぁ〜ちぃ〜…

と、長渕剛でなくとも、この試合の後には熱唱したくなったことだろう。

ただし、この場合の「カンパイ」は、「乾杯」ではなく「完敗」の字を当てる。

正直、男子の試合を含めても近年稀に見るほどの完敗劇。
それが、この女子ワールドカップ2011・イングランド戦で、なでしこジャパンが演じたゲームだった。

難しい決断を迫られた第3戦

ところで今回の女子ワールドカップは男子の U-17ワールドカップと時期的に重なっていることもあって、当ブログの更新も試合に追いついていけてなかったりする。

だからリアル世界ではもう決勝トーナメント1回戦が終了しているんだけれども、とりあえずそのへんは置いておいて、KYを承知でこのグループリーグ最終戦・イングランド戦をここで振り返ってみたい。

緒戦のニュージーランド戦と続くメキシコ戦に連勝し、2試合終了時点で既にグループリーグ突破を決めていたなでしこジャパン。

そしてこの第3戦イングランド戦は、勝つか引き分けなら日本が1位通過、負ければ2位通過が決まるという、グループリーグの最終順位を決定する一戦となった。

イングランドは女子サッカー界においては、世界の強豪よりも一段落ちる「準強豪」的なポジションのチームである。

最新の FIFA女子ランキングでは 10位。
これだけ見ると4位の日本より格下ともとれるけれども、日本がこれまでの対戦でイングランドよりも良い戦績を収めてきたわけではない。

日本とイングランドは4年前のワールドカップでもグループリーグ緒戦で対戦していて、この時は 2-2の引き分け。
ただし3戦を通じての成績では、グループ2位となったイングランドに対して日本は3位に終わり、順位で日本を上回ったイングランドがベスト8へと駒を進めた。

実力的に言えば、今回も決して日本が楽観できるような相手ではなかった。

ちなみにこの試合、僕は佐々木則夫監督がどんなスターティングメンバーを組んでくるのかに注目していた。

消化試合ではないけれども、仮に負けてもグループリーグ突破が決まっている3戦目。
「勝ってグループ1位通過」が理想だけれども、日本がここまでの2戦で全く同じスタメンを組んできていることを考えると、あえてここでサブのメンバーを試すのもありだと僕は考えていた。

そうすれば主力の体力を回復させて決勝トーナメントにフレッシュな状態で臨めるし、サブのメンバーのモチベーションも保たれる。

それに現在スタメンで出ている選手とサブの選手との間に、それほど大きな力の差があるとも思えなかった。
特に前2戦で光るプレーを見せた川澄奈穂美と岩渕真奈、ここまでメキシコ戦で7分間プレーしただけだけれども実力的に遜色はないと考えられる宇津木瑠美あたりは、スタメンで試してくれないかなーとほのかに期待していたのである。

しかし僕のその期待は裏切られ、佐々木則夫監督はこの第3戦でも、これまでの2戦と全く同じスタメンを組んできた。

これはつまり、第3戦も「必勝」を期してグループを1位で通過するのだという、佐々木監督の強い意志の現れなのだろうと僕は解釈した。

試合はまず第一に「勝つため」にやるものだから、それはそれでいい。
しかしベストメンバーを組んできた以上は、何が何でも1位通過を決めなければいけない。
絶対に負けは許されない ーー。

ところがなでしこジャパンはあろうことか、この勝利を義務付けられた試合で、完敗を喫してしまったのである。

女子サッカー界に吹いた新風、なでしこジャパン

女子サッカーの世界で、日本代表は異色の存在だ。

男子の世界ほどサッカー文化が成熟していない女子サッカーでは、とにかくフィジカルの差が成績に顕著に現れる傾向が強い。
女子の世界で強豪と言われるチームはアメリカ、ドイツ、少し前までならここにスウェーデンやノルウェーが加わり、いずれも名前を聞いただけでもフィジカルが強そうなチームばかりが並ぶ。

とにかく圧倒的な体格差を武器に、米国や北欧のチームが幅を利かせてきたのが女子サッカー界の勢力地図だった。

しかし 2000年代に入ると、そんな女子サッカー界にも変化の波が押し寄せる。
その旗頭となったのが、ブラジルと日本である。

ブラジルは FIFA世界最優秀選手賞を5年連続で受賞しているスーパースター、マルタを擁し、北米と欧州が主流だった女子サッカーの世界に新風を吹き込んだ。

そのスタイルは欧州勢とはまた違ったドリブルと個人技を主体とするもので、ブラジルはこれまでワールドカップとオリンピックでの優勝経験はないものの、両大会で通算3度の準優勝を経験している。
次に世界大会で初優勝を飾るチームの、筆頭候補とも言える存在だ。

そして日本は、2008年の北京オリンピックで初の世界大会ベスト4に入った新興チーム。
しかしそのサッカースタイルは、フィジカルを全面に打ち出した米国や欧州勢とも、個人技主体のブラジルともまた違う。

日本代表 “なでしこジャパン” のスタイルは組織力をベースにしたパスサッカーで、女子の世界にはそれまでほとんど存在しなかったその美しいスタイルは、北京オリンピックで世界を驚かせることになった。

そして今回のワールドカップでも、第2戦のメキシコ戦で日本は、そのパスサッカーを存分に披露する。

その勢いを駆って臨んだこのイングランド戦。

しかしここで日本は、イングランドの「フィジカルの壁」の前に屈することになった。

日本が喫した完敗劇

ほとんどの場合、「その国の女子サッカーのスタイル」は、「その国の男子サッカーのスタイル」に類似していると考えていい。

男子でも基本的にフィジカル主体のスタイルを持つイングランドは、女子サッカーでもドイツやスウェーデンと同様に、フィジカル重視の国の系譜に属するチームだ。

そして日本は、こういうスタイルのチームを苦手としている。

この大会の緒戦で日本が対戦したニュージーランドもイングランドと似たようなスタイルを持つチームだったけれども、格下と見られたこのニュージーランドにも、日本は 2-1と苦戦を強いられた。

それは日本の得意とする「パスサッカー」と「中盤でのプレッシング」が、「ゴール前に壁を築き」「ロングボールを多用する」フィジカル主体のサッカーの前にはあまり効果的でないことが理由として挙げられる。

そしてこの試合で対戦したイングランドも、まさにそんな日本が苦手とする通りのサッカーを展開してきた。

ちなみに今大会のイングランドは、おそらく日本をよく研究してきていた。

FIFAランキングで上位に位置するチームであり、グループリーグ最大のライバルでもあるので当然と言えば当然なのだけれども、その日本対策の前に、なでしこジャパンは大いに苦しめられることになる。

まずディフェンスにおいてイングランドは、無理に前がかりにボールを奪いに行くのではなく、後方にしっかりとブロックを築く戦術をとってきた。

それも1枚ではなく、中盤と最終ラインでの2層構造のブロック。
さらにディフェンス時の選手同士の距離感が良く、日本はパスコースをうまく消されてしまう。

パスサッカーが持ち味のなでしこジャパンにとっては、その最大の武器を封じられたような格好になってしまった。

それでもこういう場合、例えばドリブルで局面を打開できる選手を起用したり、サイドバックが執拗にオーバーラップして両サイドを崩したり、センターフォワードがポストプレイで落としたボールから2列目がミドルシュートを狙ったり、などの方法で状況を打開することが考えられる。

しかしなでしこジャパンは、そのどの方法もとることはなかった。

国内ではドリブラーで鳴らす大野忍や安藤梢も、イングランドの大柄なディフェンダーと対峙した場合には、個人で局面を打開できるほどのスピードが無い。

また両サイドバックもこの日はイングランドのサイドアタックを警戒したのか、オーバーラップする場面はほとんど見られなかった。

さらにセンターフォワードの永里優季もボールの収まりがイマイチだった上、2列目の宮間あやや大野忍にも、なかなか強引にシュートを打つような姿勢は見られない。

結果的にパスサッカーに固執するような形になってしまったなでしこジャパン。
しかしそのパスサッカーも、バルセロナのように「どんな堅陣でもこじ開ける」と言えるほどの完成度には達していない。

結果的に日本は、パスコースを探しながらも出しどころを消され、苦し紛れにロングボールを蹴り込むような、極めて中途半端なサッカーを展開するようになってしまったのだ。

しかし、これぞまさにイングランドの思うツボだった。

守備のブロックで日本のボールを網にかけたイングランドは、そこからシンプルに前線へと放りこんでくる攻撃を見せる。

そして前半 15分。

イングランドのロングフィードをフォワードのエレン・ホワイトにダイレクトで合わされると、ホワイトの放ったループシュートが、飛び出していた GK海堀あゆみの頭上を越えてそのままゴールイン。

何ともあっけない形で、日本はイングランドに先制点を許してしまう。

その後は反撃に出る日本。
しかしたまに訪れる決定機にもゴール前での精度を欠き、得点の匂いを感じさせられない。

そして後半に入った 66分。

イングランドの左サイドからアーリークロス気味のボールを入れられると、中央で待っていたレイチェル・ヤンキーがワントラップで日本のマークをかわし、飛び出した GK海堀の頭上を浮かせるシュートを決めて 0-2。
日本が再び、痛い失点を許してしまった。

その後も反撃に転じるものの、ゴールの遠い日本。

結局試合は 0-2のままタイムアップ。

日本は痛恨の敗戦を喫し、2位でのグループリーグ突破が決定。

そして決勝トーナメント1回戦で、開催国の優勝候補・ドイツと当たることになってしまったのである。

采配に残る疑問

必勝を期した試合での完敗劇。

結果論になってしまうけれども、日本にとっては主力を疲弊させた上に勝ち点を逃し、開催国との対戦が決まってしまった試合となった。
ハッキリ言って、非常に得る部分の少なかった「ただ負けただけ」のゲームだったと言わざるを得ない。

僕は基本的に、敗戦を特定の個人だとか審判だとかのせいにするのはあまり好きではないほうなのだけれども、それでも今回は言いたい。

残念ながらこの試合の敗因は、明らかに監督の采配ミスだった。

前2戦と変わらないスタメンで臨んだことが既にミスの始まりだったように思えるけれども、試合中の交代はさらに不可解だ。

前半から明らかに自分たちのサッカーができていなかったにも関わらず、最初の交代カードを切ったのは後半 10分以上を過ぎた 56分。
さらに2枚目、3枚目の交代は、2点目を奪われてからおよそ 10分が経過した 75分と 82分。
このタイミングは、あまりにも遅すぎではなかっただろうか。

また、そのカードを切る順番にも疑問が残る。

佐々木監督がこの試合で投入した選手の順番は、1人目が丸山桂里奈、続いて岩渕真奈、最後に川澄奈穂美。

3人とも大まかに言えばスピードとテクニックに長けたドリブラータイプなので、タイプの違いと言うよりは純粋にこの3人の能力を比較した場合の序列が、佐々木監督の中ではこの順番なのかと推測する。
しかし、仮に僕が(素人目線で)順位をつけるとしたら、この真逆になるだろう。

丸山は緒戦のニュージーランド戦と、大会前の壮行試合となった韓国戦でのプレーを観たけれども、これといったインパクトは感じられなかった。

対する岩渕はニュージーランド戦、川澄はメキシコ戦で、それぞれ好プレーを披露している。

特に川澄奈穂美の最近のキレっぷりには目を引かれるものがある。
なでしこリーグでは目下、チームメイトの大野忍と並ぶ6得点で得点ランキングトップ。
しかも大野よりも重要なシーンで得点を挙げている印象が強い。

僕は INAC神戸を応援しているので今シーズン何試合かそのプレーを観ているけれども、川澄のスピードとテクニック、裏へ抜け出す動き、そして得点感覚には、国内リーグでは群を抜いたものがある。

正直なところ現在の実力では、僕がイチオシの岩渕真奈よりも上だろう。
代表の中でも、グループリーグ3試合を通じてあまり効果的なプレーを見せられていなかった安藤梢よりは大いに可能性が感じられる選手のように思う。
個人的には、なぜスタメンで起用されないのか理解できないくらいだ。

しかしベンチにこれほどの選手が控えているにも関わらず、満足な形で起用しなかった挙げ句、敗戦を喫してしまった日本。

僕は佐々木則夫監督の采配に疑問を感じずにはいられなかった。

佐々木則夫監督となでしこジャパン

とは言っても、僕個人的に佐々木監督が嫌いなわけでは全くなく、むしろそのキャラクターには好感を持っている。

女子サッカーの指導者というのは難しいもので、男子よりも感情的な生き物である(らしい)女子選手は、ちょっとしたことでも「あの娘ばっかり贔屓されてる!」と不貞腐れたりするものなのだ、と元なでしこジャパン・現在は解説者の川上直子さんが言っていた。

そんな女子選手たちをまとめるために佐々木監督は、心理学を勉強するなど地道な努力を積んだそうだ。
その甲斐もあって、今ではほとんどの選手から「ノリちゃん」「ノリさん」と親しまれる存在になった。

余談だけれども僕が昨年の秋に伊賀になでしこリーグの試合を観に行った時も、スタジアムの通路でバッタリ出くわした佐々木監督にうちのむすこがぶつかりそうになった際、ニヤリと笑って受け流してくれた。
素顔の佐々木監督は、そんなナイスガイでもある。

そして、そんな佐々木監督の人柄があってのなでしこジャパンなのだ、ということも決して否定はできないだろう。

それでもこのイングランド戦に関しては、監督の采配に大いに疑問が残ってしまった。

そしてこの敗戦を受けて、日本は疲弊しきったメンバーで優勝候補ドイツとのアウェーゲームを戦わなくてはならないという、絶体絶命の窮地に立たされてしまったのである。

…と、この時点でドイツとの対戦を絶望視していた人は、僕だけではなかっただろう。

それでも、サッカーはやってみなければ分からない。

そんな当たり前のことを、僕は次の試合で、改めて痛感させられることになるのである。

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