百花繚乱のフットボール・ミュージアム/プレミアリーグ@リバプール 1-1 アーセナル

今年のオフがやけに短く感じるのは、僕だけだろうか?

ワールドカップがあったせいか、気がつけばヨーロッパ各国のリーグがもう始まろうとしている。
サッカーの世界のサイクルはとても早くて、僕たちに休む間を与えてくれないのである。

そしてフランスリーグに続いて、先週末からイングランド・プレミアリーグが開幕した。
その開幕戦で、いきなりのビッグカードが実現。

リバプール対アーセナル。

一発目にこのカードを持ってくるあたりに、ちょっとしたリーグ側の思惑を感じる。
つまりこれは、僕のようなオフボケ、ワールドカップボケした人間を覚醒させる、戦いの狼煙である。
言い換えれば開戦のファンファーレ。
もっと分かりやすく言えば、オカンの「あんたいつまで寝てんの!プレミア始まっちゃうよ!」の朝イチの叱責に等しい。

とにかく世間に「プレミアリーグがもう始まるんだ!」という刺激を与えるには、うってつけの好カードなのだった。

プレミアを代表する両雄の対決

ちなみに僕にとってこの両チームは、それなりに思い入れの強いチームである。

僕がプレミアで応援しているのはリバプール。
理由は簡単、地元の横浜と同じ港町なのと、ビートルズの出身地だからだ。

でも同時に僕は、アーセン・ベンゲルの大ファンでもある。
彼が築き上げた名古屋グランパスのパスサッカーは、15年経った今でも、その記憶が色褪せることはない。
その鮮烈なフットボールの DNAは、今のアーセナルに見事に継承されていると言っていいだろう。

プレミアを代表する両チームの激突。
久しぶりに見るプレミアリーグは、ため息が出るほどハイレベルだった。

プレミアリーグは鍛え抜かれた肉体と、磨き抜かれた技を持つ超人たちのミュージアムである。
その魅力はワールドカップの携えている、万国博覧会的なカラフルさやイベント性ともまた違う。
常設展ならではの、観るものを長年飽きさせない、隙のない完成度。

プレミアリーグを観るたびに、僕は毎年のように思ってしまう。
「なにを食べたら、こんなに上手くなるんだろう?」と。

新ルール「ホーム・グロウン・ルール」の影響は?

ところで今シーズンから、プレミアリーグでは一つの大きなルール改正がなされた。

「ホーム・グロウン・ルール」と呼ばれるこの新ルールは、国内クラブで育った若手選手を一定数保有させることを義務付けたルールだ。

具体的に言うと 22歳以上の「シニア」の選手が 25名までと制限され、そのうち最低8名は、21歳の誕生日までに最低3年間をイングランドおよびウェールズのクラブで過ごした「英国産」の選手である必要がある、というもの。

このルールの適用には、ビッグクラブが選手を買い漁ることへの牽制の意味と同時に、国内の若手育成の狙いも込められていると推測される。

思えば先のワールドカップで、イングランド代表は惨敗を喫した。

僕も含めて優勝候補に押す声もあったチームだけれども、蓋を開けてみれば全くの期待はずれ。
準々決勝で敗れた相手のドイツと比べても組織力の違いは歴然で、カペッロ監督の采配にも疑問が残った。
ただ、ゴールキーパーやセンターバック、サイドバック、アンカーといったポジションで、とにかく選手層の薄さが目についたのも事実だ。

その遠因として外国人偏重のプレミアリーグが関係しているというのは、もうずっと前から言われ続けていることである。

ホーム・グロウン・ルールは、この状況に一石を投じるものになるのだろうか?

このルールが何とも遠まわしな内容になってしまっている背景には、EU法においては、EU内外国人選手の人数制限をかけられないという事情がある。
そうやって産み出された苦肉の策。

ただ個人的には、これでプレミアのバランス感覚が多少なりとも回復してくれるのでは、と期待もしている。

僕はベンゲルの大ファンだと書いたけれども、それでも一つだけ好きになれない部分がある。
それはイングランド人選手をあまりにも起用しないこと。

やっているサッカーは素晴らしいけれども、僕がイングランド人で、生粋のアーセナルファンだったとしたらどう思うだろうか。
応援しているクラブは強いし面白い。でも外国人選手がほとんどで、お陰でむしろ代表チームが弱体化していると考えたら、ちょっと複雑な気分である。

ホーム・グロウン・ルールが施行されてもアーセナルのイングランド人比率はそう変わっていないので(若くからプレーしている外国人選手が多いから)すぐにはあまり変化は無いのかもしれないけど、ベンゲルも今後はテオ・ウォルコットやジャック・ウィルシャーのような英国産の若手を、多少は積極的に起用するようになってくれることを願う。

ちなみにその点では、リバプールは頑張っている。

この日のスタメンでもスティーヴン・ジェラード、ジョー・コール、ジェイミー・キャラガー、グレン・ジョンソンと4人のイングランド代表が名を連ねた。
監督も今年からはイングランド人のロイ・ホジソンである。

マイケル・オーウェン、キャラガー、ジェラード以降にユースチームからこれといった選手が育っていないのが気がかりだけど、今後も代表の強化に貢献して欲しいものである。

百花繚乱のフットボールの世界

試合自体は開幕戦にふさわしいドラマチックなものだった。

全体的に押し気味に進めたのはアウェーのアーセナル。
リバプールは期待の新戦力、ジョー・コールが前半終了間際にレッドカードで退場。
しかし、先制したのはそのリバプールだった。
後半1分のダヴィド・エンゴグのゴールで、ホームチームが予想外のアドバンテージを得る。

そのまま逃げ切りを図ったリバプールは、思惑通り90分間を無失点で過ごす。
ところが試合終了直前、それまで好セーブを連発していた守護神のホセ・マヌエル・レイナが、まさかのミスからオウンゴール。
けっきょく両雄が、勝ち点1を分け合う形となった。

リバプールファンとしては残念な結果だったけれども、内容の濃さには充分満足できた好ゲームだったと、個人的には思った。

世界3大リーグに数えられ、実力的には世界一とも言われるプレミアリーグ。

その、世界をリードするリーグが相変わらず攻撃的で楽しいサッカーを見せてくれるのは、サッカーファンとしては至上の喜びである。

ところでもう8月も半ば。
いつまでもワールドカップ、ワールドカップと言ってるのは日本人くらい、もしかしたら僕くらいなもんだろうか。
フットボール界の時計の針は、確実に動き出している。

そこにはワールドカップの影は無い。
けれども、いつでもフットボールの世界は百花繚乱。
世界中で見応えのある好ゲーム、好プレーを連発して、僕たちを魅了し続けてくれているのである。

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