そこは一瞬にして、京都の五条大橋へと変化した。
ドイツ・ブンデスリーガに参戦した香川真司はこの日、昨シーズン6位の強豪・VfBシュツットガルトと対戦。
そこで見られたのは 173センチの小柄な日本人が、屈強なゲルマン人たちを次々と手玉に取る、痛快無比の冒険活劇だったのである。
ドイツで躍動した香川真司
香川真司は躍動した。
トップ下の位置に入り、文字通り攻撃の中心選手として、まだ数カ月前に顔を合わせたばかりのチームメイトたちを相手に自在にタクトを振るう。
「マイケル・ジョーダンやデビッド・ベッカムが着けてたから」という理由で背負うことになった 23番の番号を、シュツットガルトのファンたちは目に焼き付けたに違いない。
あらゆる局面に、香川真司は顔を出した。
ドリブル、スルーパス、トリッキーなフェイク、ミドルシュート。
裏に抜け出してシュートを狙えば、サイドを突破してクロスを上げる。
さらには守備の局面にも姿を見せる。
この日の香川に足りないのは、唯一ゴールだけだった。
香川に牽引されたドルトムントは、わずか5分で挙げた左サイドバック、マルセル・シュメルツァーの得点を皮切りに、25分、36分と立て続けにシュツットガルトのゴールを突き破る。
決壊したシュツットガルトの DF陣。
そこになだれ込むドルトムントの選手たち。
緑のピッチは、鮮やかな黄色に染まっていった。
そしてそれを牽引した急先鋒は、アーモンド型の目をした日本人だったのである。
これまで何人ものサムライたちが挑戦したブンデスリーガ。
とても不思議に思う。
日本人が成功を約束されてはいないこの難解なリーグで、香川真司はまるで水を得た魚のように、華麗な舞いを見せている。
Jリーグ時代よりもむしろ、その輝きは増しているようにすら思える。
高原直泰が必死の思いで揺らした、年間に 11のゴールネット。
しかし今の香川真司は、その気になったらいつでもその数字に追いつきそうな気配をも漂わす。
金髪の弁慶たちを手玉にとった、黒髪の「牛若丸」。
サッカーは体格でやるのではない、技術でやるものだ。
それを体現するのはディエゴ・マラドーナやリオネル・メッシだけではないことを、香川真司はドイツの観衆たちに、見事なまでに証明してみせたのである。
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