移籍にまつわるエトセトラ

松井大輔の所属するグルノーブルの、2部リーグ降格が決定した。
松井を見ていると、つくづく移籍は難しいものだなと思う。
昨シーズン、ルマンでの活躍から鳴り物入りで名門サンテティエンヌに入団した松井。
しかしここでは結果を残せず、1シーズンでグルノーブルに移籍をしてきた。
しかしグルノーブルもチーム自体が弱小で、開幕から連敗記録を作るなど大低迷。
最下位を独走し、6試合を残しての降格が決定した。
おそらくシーズン終了後に、松井はグルノーブルを去るだろう。
しかしまた、松井の現在のキャリアがあるのも移籍のお陰でもあった。
6年前に、当時としては珍しかった2部リーグ(ルマン)に移籍した松井はメキメキと頭角を現し、チームはその年に1部昇格を果たす。
昇格後はさらに、1部リーグの強豪へと躍進していくチームの中にあって、松井はレギュラーポジションをガッチリ確保して印象深い活躍を見せる。
並行して日本代表でも足場を固めていった。
松井の場合興味深いのは、これが全てフランス国内での移籍で起こっていることである。
つまり、慣れ親しんだ国の中での移籍でも、これだけの誤算が生じるということだ。
また、松井よりもさらに酷い失敗例もある。
松井と同じグルノーブルに所属する伊藤翔は、中京大中京高校時代に「高校ナンバーワン」と称された、将来を嘱望されたストライカーだった。
卒業後にJリーグを経験することなく、いきなりグルノーブルとプロ契約。
活躍が期待されたものの、結局その後の4シーズンで出場機会はほとんど無い。
同い歳の乾貴士が出場機会を求めてマリノスからセレッソへ移籍をし、そこで日本代表候補にまで出世したのとは対照的である。
グラスゴー・セルティックの水野晃樹も明らかな失敗例だろう。
ジェフ時代はイビチャ・オシム監督の薫陶を受け、日本代表デビューも果たしたタレントがセルティックに移籍して2年以上が経つけれど、いまだに試合出場はおろかベンチ入りもままならない状況が続いている。
移籍は恋愛と同じで、実際にやってみないと分からない部分も多いのだろう。
しかし僕が不思議なのは、伊藤や水野は何故、試合に出れもしないチームに固執するのか、ということである。
選手は生き物である。
プレーし続けなくては鮮度が落ちる。
成長できない事はおろか、実力を低下させてしまう危険性もはらんでいる。
海外のチームに所属する夢が叶ったから、簡単に離れたくない。
海外での生活に憧れていた。
練習でも上達はできる…。
彼らの中に様々な理由とエクスキューズがあり、それがチームに執着する原因となっているのだろうか。
しかし、試合に出れない選手に価値があるのか?
伊藤も水野も、世代別の日本代表からもフル代表からも、全くお声が掛からなくなってしまった。
つまり彼らの選手としての価値が、その程度のものでしか無くなってしまったということだ。
サッカー選手の現役時代は短い。
このままでは気がつけば、選手としてのピークを、ひたすら練習に明け暮れる日々で消化してしまうのではないか。
今シーズン、中村俊輔や小野伸二、稲本潤一といった、海外で実績のある日本人選手たちが立て続けにJリーグのチームに移籍を果たした。
これは一つには、2ヵ月後に迫ったワールドカップが影響しているのは間違いないところだろう。
選手にとって、試合に出てコンディションを調整すること、プレーぶりを披露する事が最大のアピールになることを、このレベルの選手達は熟知している。
もちろんJリーグだからと言って簡単に結果を出せるわけではないけれども、慣れ親しんだ日本のサッカーなら、順応に比較的時間が掛からないのは確かだろう。
実際に、この3人は今シーズンも素晴らしい活躍を見せている。
伊藤翔や水野晃樹には、選手としての自分の立ち位置をもう一度見つめ直して欲しいように思う。
よく言われることだけど、「選手はプレーしてなんぼ」ではないか。
そして僕たちサッカーファンが観たいのも海外チームでベンチを温める彼らではなく、それがどこの国であっても、クラブや代表で躍動する彼らの姿なのだから。

[ 関連エントリー ]

トップページへ戻る