岡崎慎司は言わずと知れた、現日本代表のエースストライカーである。
昨年度は代表Aマッチ16試合で15得点という驚異的な数字をたたき出し、国際サッカー歴史統計連盟の選ぶ「世界の得点王」に選ばれた。
しかし岡崎は、いわゆるサッカーエリートはではない。
身長は174cm、50メートル走のタイムは6秒8。
なんと驚くことに、これは高校時代の僕とほとんど同じスペックである。
ちなみに僕は当時ラグビー部に所属していたけど、もちろん全国レベルでプレーしていたような選手でも何でもなかった。
つまり現日本代表のエースは、身体能力的には全くの「凡人」なのである。
そんな岡崎慎司を特集したドキュメンタリー「スポーツ大陸」が先日NHKで放映されていた。
岡崎慎司、日本代表への道のり
岡崎慎司は兵庫県宝塚市出身。
兵庫が全国に誇る強豪、滝川二高を卒業している。
高校時代は1年生でレギュラーを獲得し、1年次と2年次の2年連続で高校選手権ベスト4進出に貢献。
3年次には主将も務めた。
この経歴は特筆に値するだろう。
しかし、当時の岡崎はユース代表に選ばれることも無く、数多くいる「準トップクラス」の選手のひとりに過ぎなかった。
高校卒業後、清水エスパルスに入団した岡崎への1年目の評価は惨惨なものだった。
長谷川健太監督は当時の岡崎を「8人フォワードがいた中の8番目」と評し、「体も小さいし足も遅い。正直フォワードでは無理だろうな、という印象だった」と語っている。
2年目にはサイドバックなどにコンバートされた岡崎。
しかし腐らずに練習を続けることによって課題を克服、3年目からはMFとして試合出場の機会を増やしていく。
この年に5得点を挙げて結果を出した岡崎は、翌年には晴れてFWへと再コンバート。
ここでも活躍してレギュラーの座を奪うと、北京五輪の代表にも選出された。
北京では残念ながら無得点に終わったものの、その悔しさをバネにJリーグで発奮。
この年の得点数を10得点の大台に乗せ、その活躍が認められて、念願の日本代表に選出されることになる。
岡崎慎司の3つの武器
岡崎慎司は身体能力に恵まれていない。
そういったハンデを持つ選手は、それを補うだけの何かしらの「武器」を持たなければ生き残ることはできない。
僕が思うに、岡崎慎司の武器は大きく3つある。
一つはダイビングヘッド。
触れる距離にボールが飛んでくれば、相手のスパイクが当たろうが何だろうが頭から飛び込んでいく。
ヘディングの精度も高い。
これは小学校時代に所属した少年チームで叩き込まれたスタイルで、現在の岡崎の基盤となっている。
二つ目はDFラインの裏へ抜ける動き。
決して突破力のある選手ではない岡崎が得点を量産するようになったのは、この部分に磨きを掛けたことが大きい。
そして三つ目は負けん気である。
身体能力が低くドリブルの天才でも無い岡崎が日本代表にまで昇りつめたのは、何と言ってもハートの強さによる部分が大だろう。
サムライに憧れる岡崎は、その面構えからして他と違っている。
そして僕は、そんな岡崎慎司のスタイルが好きである。
岡崎慎司はプレースタイルも、キャラクターも、そして最近は風貌までも、何から何まで似てきたように思う。
自身のアイドルでもある中山雅史に。
岡崎慎司の持つ “エースの条件”
カズが代表のエースストライカーとして君臨して以降、そのポジションは中山、城彰二、柳沢敦、高原直泰らが重責を担ってきた。
彼らのほとんどは高校時代から全国に名を轟かせるサッカーエリートだったのに対して、岡崎の才能はいたって凡庸なものだった。
それでも岡崎はいま、彼らと同じポジションに立っている。
岡崎の突出した武器の四つ目を挙げるとしたら「強運」になるだろうか。
中山も日本人のワールドカップ初ゴールやギネス記録となる4試合連続ハットトリックなどを決め、数々の信じられないゴールを挙げる無類の勝負強さを持っていた。
岡崎も昨年は世界の得点王に輝くほどゴールを量産し、ワールドカップ予選でも重要なゴールを挙げている。
僕が岡崎の強運ぶりを感じた象徴的な場面がある。
昨年6月のワールドカップアジア最終予選のウズベキスタン戦。
このゲームで岡崎は決勝ゴールを挙げる。
この試合、中村憲剛のスルーパスから裏へ抜け出した岡崎がシュートを放つ。
これはGKに弾かれるものの、そのこぼれ球が再び岡崎の元へ。
それを自らダイビングヘッドで決めた1点である。
まさに岡崎慎司の特徴がすべて詰まったような泥臭いゴール。
この1点を守りきった日本が勝利し、この勝利で4大会連続のワールドカップ出場を決めた。
こんな重要な場面でこんなゴールを決められる事が、岡崎が何かを「持っている」選手であることを物語っていると僕は思った。
試合中の風貌からは想像できないほど、ピッチの外では天然のいじられキャラである岡崎。
バスの中でカラオケに興じる後輩たちに、注意をしたくてもできないほどシャイで不器用、でも憎めない男。
彼の存在がチームに明るい空気を持ち込んでいる。強運の秘訣はこんなところにもあるのだろうか。
世界へ挑む “サムライスピリッツ”
岡崎慎司は天才ではない。
むしろ凡人に近い、日本代表のエースストライカー。
しかし彼のプレーには、本当の凡人では持ち得ない、強い「魂」が込められている。
憧れの中山雅史がやったように、岡崎もワールドカップで印象的な輝きを放つことができるのか。
それは彼が、自らの持つ “サムライスピリッツ” を、世界の舞台でどれだけ発揮できるかにかかっているだろう。
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