僕はこの日ほど、ダウンジャケットを着て行って良かったと思った日は無かった。
桜も満開の春。
しかし昨日までは暖かな小春日和だったのに、今日の大阪の最低気温は7度。
一転して、たいそう寒い夜になった。
そしてそれ以上に寒かったのが、この日のゲーム内容である。
思い出の代表Aマッチ
僕が最後に日本代表をスタジアムで観たのは、はるか以前にさかのぼる。
2001年に横浜で行われたコンフェデレーションズカップの決勝戦。
この大会で快進撃を見せていたトルシエジャパンが、翌年のワールドカップで優勝候補の筆頭に挙げられていたフランスに、善戦の末に0-1で破れた試合である。
この試合の雰囲気は最高だった。
暖かい春の昼下がり。
強豪フランスに善戦したゲーム内容と、ワールドカップ開催を翌年に控えた高揚感が重なり、スタジアムはとても心地良い熱気に包まれていた。
こんな雰囲気の中で試合を観たら、絶対にサッカーを好きになるだろうなあ。
僕はいつの日か、自分の子供を代表の試合に連れて行こうと心に決めたほどである。
その後に大阪に越してきた僕は、代表の試合を観る機会がめっきり減ってしまった。
ジーコジャパン時代は監督の意向もあって、試合はほとんどが関東圏での開催。
オシム監督就任以降は多少改善されたものの、それでも関西で日本代表の試合を観戦できる機会は、年に1度くらいなものであった。
そんな理由もあって9年もの時間がかかってしまったのだけども、僕はこの日、久々に日本代表の試合を観る機会に恵まれたのである。
サムライブルーとFIFAアンセム
僕にとって日本代表は特別な存在だ。
ドーハの悲劇からジョホールバルの歓喜、そして日韓ワールドカップまでを駆け抜けた当時の日本代表は、まさに僕の青春そのものだった。
そしてこの日、9年ぶりに生で聴いたFIFAアンセム。
ワールドカップで、ワールドユースで、代表の重要な場面で常に流れていたこの勇壮な音楽を直に聴いた時、「グズッ」。
僕は不覚にも涙腺が緩んでしまった。
代表の試合を生で観れる感動を、久々に思い出したのである。
ところが実際のところ、感動に浸れたのはここまでだった。
作られた代表マッチ
今回の試合は、FIFAの定める代表国際Aマッチデーに行われた試合ではない。
代表がクラブから選手を招集する強制力がないため、セルビア代表は2軍チームでの来日であった。
つまりこの試合には、2つの側面があったと考えられる。
1つは、2ヶ月後にワールドカップを控えた日本代表チームの、最終段階での新戦力発掘という側面。
もう1つは、広告代理店やスポンサー主導での、興行試合としての側面である。
つまりこの試合は、はじめから純粋な強化試合としてだけではなく、ビジネス的な意味合いも含めて組まれた試合だったのだ。
とは言っても、僕はそのこと自体を必ずしも否定はしない。
それによってこれまで出番の少なかった選手たちにチャンスが与えられたし、同時に僕のような関東圏在住以外のサッカーファンにも、代表の試合を観る機会が生まれたのである。
そしてここで上がった収益が、将来の日本サッカーの発展のために使われるのであれば、興行試合と言えども、決してネガティブな要素だけではないと思われた。
事実この日も、平日のナイトゲーム開催にも関わらず、長居スタジアムには4万6千人を超える大観衆が詰め掛けていた。
ただし、興行試合であるならば、最低限守らなければいけない鉄則があると僕は思う。
それは「観客を楽しませること」。
そしてこの試合の結果はどうであったか。
0-3の完敗である。
戦えなかった日本代表
確かにセルビアは2軍とはいえ、予想以上に激しいプレスを仕掛けてきたし、予想以上に良いチームでもあった。
しかし、セルビアの1軍はもっと良いチームのはずである。
そしてオランダ代表やドイツ代表は、さらに良いチームなはずである。
本大会ではそんなチームを相手に、日本は勝たなければならないのではなかったか?
今日のセルビアが、勝って当たり前の相手だったとは思わない。
しかし、「勝たなければ話にならない」相手ではあったはずだ。
“ワールドカップでベスト4” という目標が、単なる自己満足ではないと言うのであれば。
僕は岡田監督、選手たち、サッカー協会関係者たちに問いたい。
あなたたちはこの日のこの敗戦を、どう受け止めているのかと。
ヨーロッパの中堅国セルビアの2軍チームに、ホームでなす術も無く敗れ去り、最後にはGKまで交代されてしまう屈辱を味わった事を、恥だとは思っていないのかと。
スコアが 0-3 となり、試合も残り20分が過ぎた頃から、僕の周囲では観客が席を立ち始めた。
ロスタイムに入る頃には、出入口付近では続々と帰宅者の列ができた。
僕は、こんな日本代表を見たくはなかった。
そして試合終了後。
長居スタジアムには、ゴール裏サポーターの大ブーイングがこだましていた。
またそれと同時に、日本代表への拍手や歓声といった相反する反応が混在する、どこか奇妙な空間と化していた。
もちろん人の意見は十人十色。色々な見方があっていいと思う。
しかし僕自身は、この日の日本に拍手を贈る気分には、とてもなれなかった。
失われた “代表の誇り”
日本が喫した惨敗。
これがワールドカップの3年前であれば、ご愛嬌の花試合で片付けることもできたかもしれない。
しかし、本大会はもう2ヵ月後なのである。
海外組がいないとか、闘莉王がいないとか、中村憲剛がいないとかの問題ではない。
今の代表チームが抱えるのは、もっと根本的な問題。
あなたたち日本代表は、本気でワールドカップで勝つ気持ちがあるのか?
かつて三浦知良がフランス大会でメンバー落ちした際に「あっち(フランス)に置いてきた」と語った “代表選手としての誇り” を、もうあなた方は持ってはいないのか?
仕掛けない、打たない、体を張れない。
この代表チームには、何か大切なものが決定的に欠けていると思わざるをえない。
そしてもしもこのままの状態が続くようであれば。
非常に哀しい事ではあるけれども、
このチームにはワールドカップに出る資格も、
日本代表を名乗る資格もないと、僕は思った。
[ 関連エントリー ]