覚醒を始めた「リアルモンスター」、宇佐美貴史/Jリーグ@鹿島アントラーズ 2-1 ガンバ大阪

Jリーグが創設された頃から今日までに限っても、日本には数多くの「天才」「怪物」と呼ばれる選手たちが出現した。

礒貝洋光、菊原志郎、名波浩、小倉隆史、前園真聖、上野良治、財前宣之、中村俊輔、小野伸二、玉乃淳、平山相太、森本貴幸、柿谷曜一朗。

ざっと思いつくだけでもこれだけの名前が挙がる。実際にはさらに多いだろう。
彼らは皆10代なかばで注目を集め、将来は代表の中心選手となって日本をしょって立つと期待された、ズバ抜けた才能の持ち主たちである。

しかし結果的に、この中で期待されたほどの存在へと成長したのは、ごく僅かな人数に過ぎない。

消えていった天才たち

天才たちはなぜ伸び悩んだのか。
小倉のように大怪我が原因でキャリアを棒に振ってしまった例もあるものの、そのほとんどは実際にはメンタルの部分での挫折が原因である。

若い頃に活躍できていた自分のイメージに囚われ、その後の努力を怠ってしまったケース。
あるいは自己のプレースタイルにこだわり過ぎ、例えばフィジカルを軽視してフィジカルトレーニングをしない、ゴールを狙わずにパスに固執するなど、プレーヤーとして非常に偏った方向へ走ってしまったケース。
こういった事が理由で、持てる才能を開花させることなくキャリアを終えた例は、本当に星の数ほど存在すると言っていいだろう。

そして今、日本サッカー界の生んだ天才たちの系譜に名を連ねる最新作が、ガンバ大阪の宇佐美貴史である。

17歳の怪物、宇佐美貴史

宇佐美のこれまでの経歴は以前にも書かせていただいた

ユース年代ではずば抜けた実績を誇り、16歳でプロになった「怪物」であるけれど、2週間前の清水エスパルス戦では、まだ色々なプレーをうまくこなそうとし過ぎて、プレーに無駄があると僕は感じていた。

ドリブルをはじめ、シュート、パスにも抜きん出たセンスを持つ宇佐美が、並の才能ではないことに疑いの余地はない。
しかし、器用な選手ほど器用にやろうとし過ぎて、けっきょく効果的なプレーに繋がらないというパターンは多い。
まだ若い宇佐美には、プレーの選択にシンプルでない部分が多かった。
普通であればそういうプレーの癖が抜けるまでには、少し時間がかかるだろうなと僕は考えていたのである。

ところが宇佐美貴史は、そんな僕の予想を簡単に裏切ったのだ。

ガンバ大阪が鹿島アントラーズと対戦したこの試合、宇佐美は先発で出場し、87分までプレーした。

この日の宇佐美は、2週間前とはまるで別人のようだった。
そのプレーからは、迷いが全く無くなっていたのである。

この日の宇佐美はとにかく勝負を仕掛けた。
ボールを持てば、まずドリブルでDFを抜きにかかった。
2人ほどに囲まれてもその間を強引に突破しようと試み、足をかけられても倒れずに前進しようとした。
そしてボールの無い時には常にDFラインの裏を狙った。

何度かオフサイドになりながらも相手ゴール前に抜け出すことにチャレンジし、そしてパスが渡った時には積極果敢にシュートを狙った。
時にはヘディングシュートまで見せながらも、貪欲にゴールを狙う姿勢を貫いたのである。

そこにはエスパルス戦で見せていた、どこか「綺麗なサッカー」をやろうとしていた宇佐美の姿は無かった。
無駄なプレーを排除し、泥臭く、貪欲に、ゴールに直結する、相手にとって最も危険なプレーを90分近く見せ続けた宇佐美。

けっきょくその努力は得点には結びつかなかったものの、この日の宇佐美は明らかに2週間前よりも相手の脅威になっていたはずである。

不運だったのは、この日の相手がディフェンディングチャンピオンの鹿島アントラーズだったということだった。
並の相手であれば、この日の宇佐美なら1点2点を奪っていても全くおかしくはない出来だった。

そして僕が何より驚いたのは、宇佐美が自らの課題を、こちらの予想をはるかに上回るほどの短期間で修正してきたことである。

失われる才能の輝き

天才肌の選手たちは才能があるばかりに、自分のスタイルにこだわりを持ちすぎてしまう傾向が強い。
そしてそれによって、せっかくの才能を潰してしまう例もある。

かつて「読売の天才少年」と呼ばれ、宇佐美と同じ16歳で日本リーグにデビューした菊原志郎。
彼は引退後に自らのキャリアを振り返り、

「フィジカルを鍛えることを色々な人にアドバイスされたけど、自分は理屈っぽい性格で耳を貸そうとしなかった。フィジカルよりも長所のテクニックを磨くことで対抗しようと思っていた。」

と語っていた。

菊原は21歳で日本代表にも選ばれるものの、フィジカルの弱点が仇となって年齢を重ねるごとにクラブでも代表でも出場機会を失い、けっきょく大きな実績を残せないまま、その才能からすればあまりに早くに引退をする結果となってしまった。

末恐ろしい吸収力

しかし宇佐美は、自分のスタイルを修正する柔軟性を持っていた。

以前から持っていたスタイルに戻したという部分もあっただろうけど、いずれにせよ、彼は極めて短い期間で自分のプレーを整理し、非常に危険なアタッカーへと変身を遂げたのである。

ここまで短期間でプレーが変貌する選手を、僕はあまり見たことがない。
恐るべき吸収力。
もし宇佐美がこの調子で進化を続けていくことができたとすれば、これは末恐ろしい才能だと言えるだろう。

天才たちは自分のスタイルにこだわりを持ち、変化を嫌う。
しかし宇佐美はそれを厭わない。

この試合で見せた進化が偶然でなかったとしたら、宇佐美貴史は間違いなくただの天才ではない。
並外れたクラスの天才である。

ゲーム自体は、僕の応援するガンバ大阪が敗れてしまったのだけれど、この日の宇佐美を見れたことは、僕にとっては敗戦を帳消しにするほどの収穫だった。

覚醒を始めたリアルモンスター。

宇佐美貴史の描く成長曲線からは、今後も目が離せない。

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