今週のJリーグはちょっと特殊である。
先日の月曜日にワールドカップに臨む日本代表メンバーが発表されたけれども、この土日に行われるJリーグはメンバー発表後の最初のゲームであり、それと同時に、ワールドカップ前の最後のゲームでもあった。
この試合も当然の事ながら、その「ワールドカップの影響」を大きく受けるゲームとなったのである。
好プレーを見せていた「ワールドカップ当選組」
今回対戦した両チームのうち、ワールドカップの日本代表に選ばれたのは清水エスパルスの岡崎慎司・FC東京の長友佑都・今野泰幸の3人である。
この3人はワールドカップという目標が明確になったことで、高いモチベーションで試合に臨んでいたように思う。
特に大活躍だったのは長友佑都だ。
右サイドバックの位置に入り、守備ではエスパルスのキーマン・藤本淳吾の突破を封じ込めていた。
また2点ビハインドで迎えた後半85分には、エスパルスGK西部洋平がパンチングしたこぼれ球を拾い、ゴール右隅「ここしかない」場所へ豪快に蹴り込むスーパーボレーシュートを決めて反撃の口火をきる。
さらに2分後には、自らのボール奪取から同点弾をお膳立て。
まさに、心身ともにベストコンディションにあることを伺わせたプレーであった。
残る2人、今野泰幸と岡崎慎司は、お互いにマッチアップすることが多かった。
今日の試合で2人に優劣をつけるとしたら、持ち前の粘り強いディフェンスで岡崎を抑えこんでいた今野に軍配が上がるだろうか。
岡崎も前線からの精力的なディフェンスで存在感を見せてはいたものの、ストライカーとして最も求められる、ゴールに絡む仕事はできずじまい。
今季ここまで5ゴールで得点ランク6位タイの位置につけてはいるものの、ワールドカップに向けてさらなる奮起を期待したいところである。
インパクトを残せなかった「落選組」
ではそのワールドカップメンバーに選ばれた3人に対し、バックアップメンバーに選ばれた選手を含む「落選組」の出来はどうだったのだろうか。
該当するのはエスパルスの小野伸二、FC東京の石川直宏、徳永悠平、森重真人、平山相太らになると思うけれども、いずれも悪い出来ではなかったものの、大きなインパクトは残せなかったように僕には感じられた。
小野伸二は1点目のアシストとなるFKを蹴って結果を残したけれども、全体的には体調不良が災いして運動量が少なく、今季これまでの試合ほどのプレーは見せられないまま後半57分にベンチへ退いた。
FC東京勢は石川、平山らが時折光るプレーを見せてはいたけれども、ともにゴールという結果に結びつけることはできなかった。
個人的には石川と平山の代表落選は残念である。
2人とも「スピード」と「高さ」という特徴的な武器を持ち、使い方によっては代表でも大きな戦力になると思っていたからだ。
平山相太はこの試合でも積極的にドリブル突破やミドルシュートなどのゴールに直結するプレーを狙い、何度か惜しいシュートも放っていた。
しかし今季ここまで2得点という数字は、センターフォワードとしては確かに物足りないものがある。
特に、開幕戦を除いて大事な場面で決めきれないシーンが目立っているような気がする。
フォワードに最も求められる「結果」という意味では、この試合を含めて満足いく数字を残せていないことから、落選もやむなしといったところだろうか。
平山が4年後のワールドカップでピッチに立とうと思ったら、この部分の課題を克服していかなければいけないだろう。
世界に挑戦する長友佑都
このゲームではワールドカップメンバー当選組のモチベーションが、落選組のそれを幾分上回っていたように僕には感じられた。
両者に実力差はほとんど無いと思うのだけれども、微妙なモチベーションの違いが、このゲームの結果にも現れていたのではないだろうか。
特に長友は、ワールドカップ後の海外移籍が噂されている。
実際に、代表でも同僚だった香川真司がドイツのボルシア・ドルトムントへの移籍が決定。内田篤人も同じくドイツのシャルケ04への移籍が確実視されている。
そして、それに長友が続く可能性も極めて高いと見られている。
つまり長友にとっては、この試合がJリーグでの最後の試合になる可能性があったのだ。
おのずと本人のモチベーションも高まっていたことは想像に難くない。
世界大会での長友といえば、僕は北京オリンピックでのアメリカ戦を思い出す。
3戦全敗に終わったこの大会だったけれども、印象的だったのはこのアメリカ戦での失点シーンである。
アメリカの右サイドバックのウィンがオーバーラップし、日本の左サイドを守っていた長友がマークに付く。
しかしウィンはスピードで長友をぶっちぎると、そのままグラウンダーのクロス。
それを中に詰めていた選手に決められ、結局これが決勝点となり日本が 0-1 で敗れたゲームだ。
アメリカといえば「サッカー不毛の地」と言われるけれども、その反面スポーツの超大国でもある。
だからアメリカには、技術は低くてもアスリート能力がハンパなく高い選手が多い。
ウィンは世界的には無名の選手に過ぎなかったけれども、それでもこのシーンでは、日本国内ではスピードとフィジカルの強さで知られる長友をスピードで凌駕してアシストを決めたのである。
長友はこのプレーで、世界の広さを体感したのではないだろうか。
あれから2年、長友佑都は間違いなくさらにスケールアップした選手へと成長を遂げている。
今度は南アフリカの舞台で、オランダのロッベンやカメルーンのエトーなどの世界最高クラスの選手たちを相手に、どれだけ自分の力が通用するのかを試してきて欲しいと思う。
ワールドカップへ向けてのそれぞれの戦い
長友・今野・岡崎の3選手は、この試合を最後にワールドカップへ向けた代表合宿へと参加。いよいよ本格的にワールドカップモードへと突入する。
石川と徳永はバックアップメンバーとして、万が一の場合のためのコンディション調整に全力を尽くすだろう。
そしてその他の選手たちにとっては、ここからが4年後へ向けての戦いの始まりである。
今回選ばれなかった選手たちには、是非とも自らの課題を克服し、4年後のリベンジを果たしてもらいたいと思う。
ある者にとっては開かれ、ある者にとっては閉じられたワールドカップへの扉。
しかし、チャンスは全ての選手に平等に訪れる。
永遠に閉ざされたままの扉は存在しない。
ワールドカップが終わればまた、次のワールドカップへの扉が開かれるのである。
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