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地下鉄とデスクワークの毎日で忘れてしまいがちなんだけど、気がつけばもうすっかり夏だ。
この日の大阪駅で浴衣のギャルをちらほら見かけたのは、大阪名物の夏祭り “天神祭” があったからだと、僕はあとから気がついた。

なでしこジャパンが燃えに燃えたドイツの夏は、「お祭り」と言うにはちょっと熱すぎたかもしれない。

あれから一週間。

今までならあり得なかったくらいの頻度でなでしこたちがテレビに出演し、ニュースにもならなかったような出来事が大々的に報じられる。

女子サッカーを取り巻く風景はこの夏を境に、まるっきり変わってしまった。

ガタン、ゴトンと揺れるJRが満席なのはいつものことだけど、地下鉄海岸線の車内に見える光景は、これまでとはまるで違っていた。

「覚悟はしてたけど、今日は凄いことになりそうだなぁ。」

心の中でつぶやきながら、僕は気がついたのだ。

そうか、今日は女子サッカーにとっても、「お祭りの日」になるんだろうなぁ、と。

記録を塗り替えたINAC神戸レオネッサ

17,812人。

この日、ホームズスタジアム神戸を埋めた観客の数は、その前の節(448人)のおよそ40倍にものぼった。

とは言っても前節の会場は、本来のホームスタジアムではない三木市の三木総合防災公園。
神戸の中心街から電車とタクシーで1時間ほどかかる立地に加え、相手は下位に低迷する伊賀FCだったので、これがINAC神戸レオネッサの普段の集客力なのだと思われてしまうのもちょっと気の毒ではある。

今季のINAC神戸のホームゲーム3試合の平均観客動員数は911人。

「448人と、大して変わらんやん!」というツッコミもあるかもしれないけれど、いちおうその平均値と比べると、この日の観客数は約20倍ということになる。

どっちにしてもINACにとっては驚異的な観客数。
なでしこリーグの歴史を振り返ってもダントツの史上最高記録となる観客が、この日のホームズスタジアムには詰めかけたのだ。

ちなみにINAC神戸レオネッサは、「あいなっく・こうべ・れおねっさ」と読む。
僕は最初「いなっく」かと思っていたのだけれど、「い〜な、イナックス」のCMでお馴染みのトイレとかを作っているメーカーとは、もちろん何の関係もない。

INACとは “International Athletic Club” の略で、神戸を拠点とする総合スポーツクラブの名称だ。
そしてその中でもトップチームにあたる女子サッカーチームが「レオネッサ」なのである。

ところでレオネッサとは、イタリア語で「メスのライオン」を意味する言葉で、チームのマスコットもメスライオンの「ライムちゃん」である。
会場では「何あの着ぐるみ〜??サル〜〜??」とか言われていたけれど、モンチッチでは断じてないらしい…………似てるけど。

そのINACがいま日本中の注目を集めているのは、言うまでもなくなでしこジャパンのワールドカップ優勝がきっかけだった。

そして中でも日本のエース・澤穂希をはじめ7人の代表選手を抱えるINAC神戸に、一夜にして熱い視線が注がれることになったのである。

再来した「サッカーブーム」

僕がINACのホームゲームを観るのはこの試合で4回目になる。

これまでの3回はだいたい試合開始ギリギリに到着していたんだけど、それでもスタンドは基本ガラガラで、メインスタンドど真ん中の見やすい席を簡単に確保できるのが、まぁ今までは当たり前だったのだ。

ところがこの日は試合開始1時間前に到着したにも関わらず、メインスタンドは既にギュウギュウのすし詰め状態。

何とか空いている席に滑り込んだけど、とても同じ会場で同じチームの試合を観ているとは思えないほどの環境の激変ぶりに、嬉しさ半分、戸惑い半分というのが正直なところだった。

会場付近にはめざましテレビの遠藤アナやミヤネ屋のミヤネさんが出没し、すっかり有名人になったなでしこジャパンの佐々木則夫監督の姿が見えるやいなや、会場がザワザワとざわめき立つ。
そして練習に姿を現した代表選手たちには、まるでアイドルに向けられるかのような黄色い歓声が飛んだ。

女子サッカー界に突然訪れた「祭り」の風景は、それ以前を知る者としては何とも不思議な空間に映ったのである。

その光景はまるで、18年前のJリーグ・ブームを再現しているかのようだった。

ジェフを圧倒したINAC

そして時間はいよいよキックオフ。

前節まで1位のINAC神戸と、3位のジェフ・レディースという対戦カード。

ただしリーグではなかば独走態勢に入っているINACにとって、3位のジェフもまったく敵ではなかった。
INACは立ち上がりから一方的にボールを支配して、次々と決定機を創りだしていく。

この日のINACでは、何と言っても大野忍が素晴らしかった。

ワールドカップではやや不調で、「個人としては納得のいかない大会だった」と振り返っていた大野だけれども、この試合ではワールドカップのうっぷんを晴らすかのような出色の出来を披露する。

巧みなボールキープから鋭いドリブル突破、スルーパスを連発し、まさに「10番」にふさわしいプレーぶり。
この大野のプレーを観て、「女子サッカーもやるじゃないか」と感じた人も多かったのではないだろうか。

一方の澤穂希は、この日は疲れもあってか攻撃参加は控え目。
それでもそのぶん守備では、ワールドカップと変わらない見事なボール奪取を随所に見せる。

この大野、澤を中心に、川澄奈穂美、中島依美、チ・ソヨンといったテクニシャンたちがハーモニーを奏で、ジェフを一方的に押し込んでいくINAC。
そのワンランク上のスピード感に、序盤のジェフはただただ戸惑い続けるような展開が続いた。

しかし圧倒的に押し込みながら、INACはなかなかゴールを奪うことができない。

ジェフは試合を通じてゴールキーパーの船田麻友が好セーブを連発。
それもあってINACのチャンスは得点に結びつかず、ヤキモキするような時間帯が続く。

このまま大観衆の前で、INACは “しょっぱい試合” を演じてしまうのか!?

そんな心配が現実味を帯びてきたころ、INACにようやく先制点の時が訪れた。

35分、ジェフのディフェンダーのバックパスをカットした大野忍が、そのままゴールキーパーをかわしてゴールゲット。
まずは INACが 1-1と先制に成功する。

続いて 57分。
INACの左サイドバック、高良亮子から左サイド前方のスペースに走りこんだ川澄奈穂美へとボールが通る。
ここから川澄が上げたグラウンダーのクロスに、またも合わせたのは大野忍。

大野は巧みなトラップでディフェンダー1人を抜き去ると、右足インサイドですくい上げるようなシュートを見事に決めて、2-0とジェフを突き放した。

2点差とされたジェフはたまらず、この日は先発から外れていた日本代表の丸山桂里奈を投入する。

丸山、そして深澤里沙を中心に何とかチャンスを創ろうと奮闘したジェフだったけれども、なかなか決定機は生まれない。

結局 2-0のまま、INACが危なげない戦いぶりで逃げ切りに成功したゲームとなった。

川澄奈穂美の持つ “スター性”

ゲーム内容的には、INACのゴールラッシュが生まれていてもおかしくはなかった試合。
正直なところ多少の不完全燃焼感が残ったけれども、それでも代表選手たちのコンディションが回復しきっていない中、INACはとりあえず「勝利」という最低限のノルマを達成した。

ちなみにこの試合で、ゲームと同じくらい盛り上がったのが試合後の代表選手たちからの挨拶である。

INACでワールドカップメンバーだった川澄奈穂美、近賀ゆかり、高瀬愛実、海堀あゆみ、大野忍、澤穂希、田中明日菜の7人が、会場のファンにそれぞれ世界一を報告。
溌剌とした7人のスピーチに、会場にはほのぼのとしたムードが漂った。

しょっぱくなりかけた試合の後味がスッキリと中和され、場内は彼女たちの魅力によって、すっかり爽やかな「お祭り」の空間へと変化する。
この挨拶のお陰で笑顔で帰れたというファンも、きっと少なくなかったのではないだろうか。

ちなみにこのスピーチで澤穂希以上に目立っていたのが川澄奈穂美である。

ワールドカップの活躍ですっかり有名人になってしまった川澄は、生え抜きということもあってチームではキャプテンを務めている。
そしてこの日もキャプテンらしく、明るくハキハキとしたスピーチを見せていた。

「川澄選手、またこれで人気が上がりそうだなー」とか思いつつこれを見守ったけれど、これだけの大観衆が集まった場所でしっかりと自分たちの魅力をアピールしてくれたことは、今後のリピーターづくりという意味でも大きな意味を持つだろう。

地上波で放映されて高視聴率を記録したスウェーデン戦での大活躍のときにも感じたけれど、川澄奈穂美はやっぱり何かを「持っている」。

最後にスポンサーのフジバンビから記念品を渡されたときには、
「皆さーん、黒糖ドーナツ棒をご存知ですかー!?」「インターネットの検索ランキングにも入ってしまうくらい、とっても美味しいお菓子なので、ぜひ…買ってくださーーい!!」
と宣伝もしっかりこなした川澄キャプテン。

思わずキョンキョンの「ベンザエースを、買ってください(古っ!!)。」を思い出したけれども、これをあの満面の笑顔で嫌味なく言ってしまえるのは、天性の才能だと言ってもいいだろう。

川澄が今後、INACでも日本代表でも広告塔になり得るスター性の持ち主であることが、ここでまた再認識できたように思った。

女子サッカーに生まれた「新たなハードル」

この試合の観客数 17,812人は、(同じ神戸をホームタウンとする)ヴィッセル神戸の今季ここまでの平均観客数 13,080人を超え、まさにJ1クラスの動員数となった。

裏を返せばJリーグ基準では「普通」の数字なのだけれども、女子サッカーでは完全にケタ違いの数字である。

当ブログでも何度か触れてきたように、女子サッカーを取り巻く環境の劣悪さはこれまでもファンの間では常識となっていたけれども、今回のワールドカップの優勝をきっかけにメディアでも広く紹介されることになった。

それだけに、川澄奈穂美の「たくさんの方がなでしこリーグに来てくださって、世界一を獲ったとき以上に嬉しく感じています。」という言葉はリップサービスではないと思う。
彼女たちは観客400人のリーグ戦と、観客50,000人のワールドカップの両方を知っている。
サッカー選手にとって多くの観衆の前でプレーすることがどれだけ幸せなことかを、川澄は身をもって体験しているからだ。

そして女子サッカーのいちファンとしては、こうしてメディアで取り上げられることで、少しでも女子サッカーを取り巻く環境が良くなってくれることを切に願っている。

幸い、なでしこジャパンの活躍の影響で、なでしこリーグの各チームにはスポンサー契約の問い合わせが殺到しているらしい。
この日に神戸以外の2会場で行われた試合もそれぞれ 3,000人を超える観客動員を記録して、なでしこたちの新たな門出はまずは大成功に終わった。

ただし長い不遇の時代を知る彼女たちは、このフィーバーが永遠に続くものではないことを充分理解している。

「北京五輪の時も、注目されたのは一瞬だけでした。それを持続させるためにも、自分たちがしっかり結果を残さなければいけないと思います。」

17,812人という新記録は、同時になでしこリーグにとっての新たなハードルにもなった。

澤穂希が危惧したように、このお祭りが一瞬の打ち上げ花火で終わるのか。
それとも女子サッカーの環境が、劇的に変化する起爆剤となるのか。

それはやっぱり、今後の彼女たちにかかっているのである。

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