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「ナショナルダービー」とは、その国を代表する2チームによるダービーマッチを指す。
ダービーマッチは本来、同じ街を本拠地とするチーム同士の戦いのことを言うけれども、そうったホームタウンの所在地を抜きにして、その国のフットボールをリードしてきたチーム同士によるいわば「伝統の一戦」がナショナルダービーと呼ばれるものだ。
そしてナショナルダービーは、世界各国に存在する。
イタリアの場合はユベントスとインテル・ミラノの試合が「イタリアダービー」と呼ばれるし、スペインでは FCバルセロナとレアル・マドリードの「エル・クラシコ」がそれに該当する。
そしてイングランドの場合、それはリバプールFCとマンチェスター・ユナイテッドの対戦ということになる。
この週末は、そんなイングランドのナショナルダービー、「イングランドダービー」が行われたウィークエンドとなった。
好調を見せつけたマンチェスター・ユナイテッド
かつてヨーロッパを席巻した名門2チームによるナショナルダービー。
とは言っても、両チームが現在置かれている立場には明確な差があった。
前節まで3位と好位置につけるマンチェスター・ユナイテッドに対し、リバプールは 13位と低迷。
昨年は7位でフィニッシュしてラファエル・ベニテス監督が辞任したリバプールも、今季はここまでそれを更に下回る成績。
財政難と成績の低迷で、エースのフェルナンド・トーレスやスティーブン・ジェラードの移籍が何度も噂されたけれども、ジョー・コールなどの補強もあって何とか主力を繋ぎ止めた格好だ。
新監督のロイ・ホジソンは、これまでスイス代表やフィンランド代表、イタリアのインテル・ミラノなどを率いた経験もある、国際経験豊かな監督。
昨シーズンはヨーロッパリーグでダークホースのフラムを準優勝に導くなどの実績が買われ、今回名門の再建を託された。
しかしここまでは、その成果が出ているとは言いがたいだろう。
試合は現在の実力を反映してか、序盤からマンUのペースで展開する。
この日はナニが絶好調。
そのナニのいる右サイドを起点に、マンUは次々とチャンスを創り出していく。
そして 42分、CKからディミタール・ベルバトフが頭で決めて、マンチェスター・ユナイテッドが絶好の形で1点を先制した。
後半に入ってもマンUの勢いは衰えない。
59分、ナニのクロスに合わせたのはまたもベルバトフ。
難しいコースに入ったボールをオーバーヘッドで合わせた難易度の高いプレーは、見事にボールの芯を捉え、リバプールのゴールに突き刺さったのである。
国を代表するライバルチームに、理想的な展開で2点をリードしたマンチェスター・ユナイテッド。
現在の両チームの調子を考えても、試合はこれでほぼ決したかに思われた。
しかしそこはやはりナショナルダービーだ。
イングランド屈指の名門の名に賭けて、リバプールがこのまま終わるわけにはいかなかった。
そしてその反撃の急先鋒となったのは、やはり現在のリバプールを代表する、あの3人のアタッカーだったのである。
リバプールを牽引した3人のスターたち
この日は、立ち上がりからマンUにペースを握られていたリバプール。
しかしその中でも、何度か鋭い攻撃を見せて、マンUをヒヤッとさせた場面もあった。
その中心となっていたのが大黒柱のスティーブン・ジェラードとエースストライカーのフェルナンド・トーレス、そして今季チェルシーから加入したジョー・コールの3人である。
そして2点目を奪われてから4分後の 63分、まずはそのジョー・コールが魅せた。
この日は何度も鋭い動きを見せていたジョー・コールから、フェルナンド・トーレスへ快心のスルーパスが通る。
これを受けたフェルナンド・トーレスをマンU DFが倒し、これが PKの判定に。
この PKをジェラードがきっちりと決めて、リバプールがまずは1点を返した。
そして圧巻だったのがその6分後の69分。
ボールを持ったフェルナンド・トーレスが再び倒されて、ゴール前での FKを得る。
蹴るのはまたもスティーブン・ジェラード。
しかし強シューターのジェラードを警戒して、マンUは8人で分厚い壁を作る。
ところがこの壁を打ち破るトリックを、リバプールは準備していた。
ジェラードが助走に入ったその刹那、壁の脇に入ったラウル・メイレーレスが、マンUの壁を外に釣り出すような動きを見せる。
それに釣られ、壁に隙間を開けてしまったマンU DF陣。
そしてその僅かな隙間を、ジェラードの強烈なキャノンシュートが突き破る。
このシュートはそのままマンUゴール右隅に突き刺さり、わずか6分間で、リバプールが2点のビハインドを追いついたのである。
名門が見せた意地の一発。
「ナンバーワンは俺たちだ」。
そんな叫び声が聞こえてくるかのような、見事なゴールだった。
しかし、ドラマはこれで終わらなかった。
その主役になったのは、またもこの日絶好調の「あの男」だったのである。
ダービーの主役となったディミタール・ベルバトフ
ディミタール・ベルバトフは2年前、トッテナム・ホットスパーから鳴り物入りでマンチェスター・ユナイテッドに加入したストライカーだ。
しかし、ここ2シーズンは9得点と 12得点という成績で、その期待に応えたとは言いがたい。
ところがこの日はここまで2ゴールを挙げ、2年間のうっぷんを晴らすかのような活躍を見せていた。
そしてそのベルバトフが、最後の大仕事をやってのける。
時間は、試合も残り僅かとなった 84分だった。
マンUは、この日は右サイドバックに入ったジョン・オシェイがボールをキープする。
そしてそのオシェイの上げたクロスは、ベルバトフの頭にピッタリと合い、これが決まってベルバトフがハットトリックを達成したのである。
リバプール DF陣にポッカリと空いた「隙間」を突いたようなゴール。
伝統の一戦は、あっけない形でそのフィナーレを迎えた。
けっきょくこれが決勝点となり、マンチェスター・ユナイテッドが 3-2で勝利。
ライバルのリバプールを退け、このナショナルダービーの覇者となったのである。
昨シーズンにカルロス・テベスが抜け、エースのウェイン・ルーニーにかかる負担が大きくなる中、この日は期待されていただけの活躍を見せたベルバトフ。
この物静かなストライカーは、この日の3得点で今期通算6得点と、とうとう得点ランクのトップに躍り出た。
この活躍がシーズンを通じて続くようなら、今シーズンの覇権奪回も見えてくるだろう。
対するリバプールは、この敗戦で 16位とさらに順位を下げた格好だ。
イングランドを代表する名門2チームの、明暗を分けたナショナルダービー。
シーズンが終了した時、この試合の結果が、一つの分水嶺となっているのだろうか。
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