今回ばかりは、個人的に試合そのものは2の次になってしまった。
日本が 0-2 で敗れたということよりも、大会直前の親善マッチでコートジボワールがディディエ・ドログバを失ったことと、日本代表が今野泰幸を失ったこと。
この2つのショッキングな出来事が、僕にとっては非常に重くのしかかった一戦となってしまったのである。
大きすぎる損失となったドログバの負傷
敵将のズベン・ゴラン・エリクソン監督も語ったとおり、田中マルクス闘莉王のドログバに対するプレーは故意ではなかったと思う。
つまりこれは試合中のアクシデントであって、そういう意味では、プレーそのものに限って言えば致し方ない部分もあったのかなという気もする。
ただ、これが公式戦ではなく単なるテストマッチであるということ。そしてワールドカップ開幕を1週間後に控えた試合であることを考えれば、闘莉王にはもっと冷静なプレーを心がけて欲しかったのも事実だ。
おそらくこのプレーの伏線には、その直前のオウンゴールがあったのだろう。
闘莉王からしてみれば、イングランド戦から続く2試合連続のオウンゴールということで屈辱感を味わっていたこともきっかけとしてあったのだろうと思う(ちなみにイングランド戦の2発も含め、日本はこれで3点連続してオウンゴールでの失点という、ある意味ギネスものの記録である)。
その失策を取り返そうと、闘莉王が必要以上に気負ったプレーを見せてしまったことが、今回のアクシデントに繋がった。
そういう事情は分かるのだけども、それでも闘莉王のプレーは決して褒められたものではない。
TPOを考えれば、あの場面であれほど激しいプレーに行く必要はなかったはずである。
そして闘莉王が故障させた相手が、アフリカ大陸でも1、2を争うスーパースターのドログバであったことがまた最悪だった。
ドログバはアフリカで初めて開催されるワールドカップで、世界中から活躍を期待されていた選手である。
しかもドログバは現在32歳で、これが最後のワールドカップになる可能性も高い。本人もこの大会には並々ならぬ意欲を注いでいたようだ。
その選手を故障で失ってしまうことは、コートジボワール国民だけでなく世界中のサッカーファンにとってバッドニュースだとしか言いようがない。
僕もドログバのプレーを楽しみにしていただけに、彼が本当にワールドカップでプレーできないようであれば非常に残念である。
不幸中の幸いというか、ドログバの負傷箇所は脚ではなく腕だったため、手術によって本大会に間に合う可能性は残されているらしい。
それでも100%のプレーを発揮するのは難しいかもしれないけれども、世界有数のストライカーだけに、その姿を南アフリカのピッチの上で観れることを切に願っている。
日本が払った、今野という代償
ドログバの負傷はしかし、コートジボワールにとっての損失というだけでは済まされなかった。
あまり考えたくはないけれども、日本はその報復に近い形で1人の選手を失うこととなる。
後半65分、今野泰幸はアルーナ・ディンダンの後方からのタックルを受け、負傷退場に追い込まれた。
ディンダンのタックルは、ボールを持った今野に対して、死角となる後方から両足で挟み込むという悪質なものだった。選手生命を脅かす可能性もある危険極まりないプレーで、本来ならレッドカードでもおかしくないファウルである。
ただ、ディンダンのこのプレーには、おそらく闘莉王のドログバに対するプレーが伏線としてあったのではないかと推測する。もちろん、だからと言って許されるプレーではないけれども、心情としては理解できなくもない。少なくとも日本は、自分たちの軽率なプレーからその種を撒いてしまったことは認めなくてはいけないだろう。
今野は右ひざ内側の靭帯損傷と診断されたようで、容態によっては彼の手からもワールドカップの舞台が滑り落ちてしまう可能性がある。
27歳にして初めてつかんだワールドカップの切符。今野の無念は察するに余りある。
力で日本を封じ込めたコートジボワール
この2つの負傷退場で、試合自体への僕の興味は大きく失われてしまった。
それでも内容に触れさせてもらうと、とりあえず日本はコートジボワールの圧力の前にねじ伏せられたという印象が強い。
コートジボワールは強かった。
先日観たカメルーンと比べても、実力は1ランク上だと言っても過言ではないだろう。
攻撃はカメルーンよりも明らかに組織立っていて、パスの繋ぎも格段にうまかった。
そして個人能力の高さは言うに及ばず。サロモン・カルーやジェルヴィーニョがいったんドリブルを始めると、日本DF陣は2人・3人で囲んでもそれを止められず、完全に翻弄されるような場面も目立った。
ドログバを前半 16分というあまりに早い時間帯に失ったため破壊力は低下してしまったものの、もしベストメンバーが揃えば、そのアタック力は全ての対戦国にとって大きな脅威となるだろう。
またDF面でも、コートジボワールは堅牢だった。トゥーレ兄弟やディディエ・ゾコラは非常に効いていたし、時間帯によっては流す時間もあったものの、ツボにはまった時にはプレスも強力だった。
前任者のヴァヒド・ハリルホジッチ監督と現在のエリクソン監督が、高い組織力を植えつけた効果が見事に現れているように思えた。
アフリカ開催というアドバンテージも考えれば、コートジボワールは本大会でも上位に進出できるだけの実力を備えているのではないだろうか。
それだけに、エースのドログバの負傷離脱は残念でならない。
日本はそのコートジボワールの前に、ほとんどいい形を作らせてもらえなかった。
テストマッチということもあってチンチンにやられたという事はなかったけれども、それでも得点はおろかシュートすらほとんど打たせてもらえなかった。
時間帯によってはパスはある程度回せたし、守備も大きな破綻を見せる場面は少なかったけれども、それでも相手ゴール前ではガチっと抑え込まれ、セットプレーからキッチリ2点を奪われた。
重要な部分は完全にコントロールされていたという印象である。
サッカー選手に求められる「品格」とは
この敗戦で、日本はけっきょく「強化試合で4連敗」という不名誉な記録を作って本大会へと臨むことになった。
しかし敗戦以上に痛かったのが、今野の負傷離脱とドログバを故障させてしまったことの影響によって、イングランド戦でせっかく上向いたムードが再び低下してしまったことである。
それほどまでに、何とも後味の悪い敗戦だったと言えるだろう。
いずれにしても、そのきっかけを作ってしまった闘莉王には猛省をお願いしたい。
オウンゴールについてではなく、本番前のテストマッチで、スパーリングパートナーであるコートジボワールの選手を負傷させてしまったことに対してである。
悪気はなかったとは言え、起こってしまったことに対しては選手としての責任の取り方というものがあるはずだ。
つまり、負傷させてしまった相手に対して謝罪の意を伝えるという、最低限の誠意は見せて欲しいなと僕は思うのだ。
現時点で闘莉王は、公式に謝罪の意を示してはいないようである。
それはもちろん、故障させてしまった相手がドログバであってもなくても関係はない。
サッカーの母国イングランドには、次のような有名な格言がある。
“サッカーは少年を大人にし、大人を紳士にする”
ピッチの上は戦場であったとしても、ひとたびピッチを離れれば、選手たちには紳士であってほしいと思う。
それが、国を代表するサッカー選手に求められる、 “品格” だと思うからである。
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