エル・クラシコの光と影 vol.2/リーガ・エスパニョーラ@レアル・マドリード 0-2 バルセロナ

エル・クラシコの光と影 vol.1より続く)
レアル・マドリードは言わずと知れた「銀河系軍団」である。
世界を代表するスーパースターたちが、この試合でもメンバーに名を連ねていた。
ちなみにレアルの選手たち個人の出来という意味では、この試合も決して悪い出来ではなかったように思う。
リオネル・メッシは今でこそディエゴ・マラドーナという「歴史上の人物」と比較されるようになったものの、昨シーズンまでメッシと比較され続けていたのはクリスティアーノ・ロナウドであった。
しかし昨年のUEFAチャンピオンズリーグ決勝で、クリスティアーノ・ロナウド率いるマンチェスター・ユナイテッドがメッシのバルセロナに敗れたことで、”世界一の選手” の称号はメッシの手に渡る。
さらに今シーズン、レアルに移籍したものの本領を発揮しきれないクリスティアーノ・ロナウドに対して、メッシは昨シーズン以上のパフォーマンスを見せ、現在の両者の評価は明暗が別れてしまった。
クリスティアーノ・ロナウドからしてみれば面白くないだろう。
2年前にはチャンピオンズリーグのタイトルを獲得し、バロンドールとFIFA年間最優秀選手賞を受賞して “世界一のフットボーラー” と謳われた男には、否定はしつつもメッシに対する強烈なライバル心があるだろうと推測する。
そんなモチベーションがあったからかどうかは分からないけれども、この日のクリスティアーノ・ロナウドは立ち上がりからキレキレのプレーを見せるていた。
持ち前の高速ドリブルをはじめとしたスーパープレーを連発し、この日のプレーに限って言えばメッシを上回っていたようにも見えた。
またロナウドだけでなく、GKイケル・カシージャスもいくつかのスーパーセーブを披露していた。
彼の頑張りがなければ、おそらくメッシはこの試合でもハットトリックを達成していただろう。
しかしそれでもチームとしての完成度で言えば、バルサとレアルの間には、かなり大きな隔たりがあったと言わざるを得ない。
この日のバルサは完璧な出来とは言えなかったものの、それでも相変わらずハイレベルな連携を見せていたのに対し、レアルは個人技に頼ったプレーに終始した。
バルサがどんな場面からでもチャンスを作り出せるのに対し、速攻からしか好機を演出できないレアル。
その差が 2-0 という結果に直結したと言っていいと思う。
では、その差は一体どこから来るのか。
僕がこの日のゲームを観て、バルサで光っていたと思う選手の名前を挙げるならば次のようになる。
2アシストを決めたシャビ・エルナンデス。それぞれ1ゴールのリオネル・メッシとペドロ・ロドリゲス。
ビッグセーブを連発したビクトル・バルデス。そしてクリスティアーノ・ロナウドに完璧な対応を見せていたジェラール・ピケ。
この全員が、バルサの下部組織である「カンテラ」出身の選手たちだ。
さらに、このゲームでも好プレーを見せていたカルロス・プジョル、セルヒオ・ブスケッツ、アンドレス・イニエスタらも含めれば、レギュラークラスの実に半分以上が、カンテラ出身の選手たちで固められていることになる。
現在のバルセロナというチームの完成度は、世界的に見ても群を抜いている。
それどころか「史上最高」という形容が全く大げさでないほど、サッカー史上でもおそらく最高の完成度を誇るチームなのではないだろうか。
特に昨シーズンのバルサは本当に凄かった。
超高速のパス回しを、1タッチ、2タッチで5本、6本、時には10本ほども繋いでしまう。
観ている僕たちでさえも、そのスピードに全く追いつけない。
あれほどのスピードの中で、いったいいつ、次のパスコースを考える時間があるのか不思議でしょうがなかった。
しかも彼らはそれを、屈強な世界クラスのDFのプレッシャーを受けながら、ほとんどミス無くこなしてしまうのである。
もはや人間業とは思えなかった。
レアルとは違った意味で「銀河系から来た集団」だと思えたほどである。
あれほどのパスワークを産むキーワードは、やはり「カンテラ」にあると僕は思う。
まるで目隠しをしてもパス回しができるんではないかと思わせるほどのコンビネーション。
1・2シーズン一緒にプレーしたところで、あれほどのコンビネーションが生み出せるとはとても思えない。
幼い頃から叩き込まれた「バルサのリズム」、その哲学が、血液のように体中に浸透しているからこそ、バルサのカンテラ出身の選手たちは、あれほど高次元の連携プレーを見せられるのではないだろうか。
選手を育成して、理想のチームを創り上げる。
まさに今のバルセロナは、その理想を実現していると言っていい。
世界中のクラブチームのロールモデルとなる存在だと言っていいだろう。
レアルがこのチームを倒そうと思うのなら、何100億円、何1000億円をかけて選手を買い漁っても足りないのではないか。
フランク・リベリーやウェイン・ルーニーを連れてきたところで、バルセロナほどのコンビネーションを構築できるとは思えない。
来シーズン以降のレアルに勝ち目があるとすれば、バルセロナというチーム自体を買い取ってしまうか、ジョゼ・モウリーニョのような稀代の名監督を連れてきて、バルサとは全く違うアプローチでチームを作るより他に無いように思う。
しかし、長期的に見れば策はあるのではないか。
バルサのように、カンテラから優れた選手たちを育成して、若い頃から同じサッカー哲学を植えつける。
気がつけばレアルのカンテラ出身で、トップチームで結果を出している選手は “ミスター・レアル” ラウル・ゴンザレスとイケル・カシージャス、グティ、アルバロ・アルベロアくらいしか見当たらなくなってしまった。
しかもラウルとグティは今シーズン限りでの退団が噂されている。
レアル・マドリードが再生するためには、銀河系のスターに頼る補強をやめ、カンテラから自前のスターを育成する方針にシフトする必要があるように思う。
クリスティアーノ・ロナウドやカカーのようなスーパースターを獲得すること自体が悪いことだとは思わない。
しかし、チームの軸はあくまでも長くチームに在籍する選手を据えるべきではないだろうか。
バルサにおいてシャビやイニエスタがそういった存在であるように。
また、若手の育成はチームの強化という意味だけでなく、次の世代のスターを発掘するという意味合いも込められている。
ラウルなき後、チームの象徴となれる選手。
レアルのようなチームにはそういった選手が必要だ。
「白い巨人」が再び眠りから目を覚ますには、そんな長期的な取り組みが必要なのではないだろうか。
世界のサッカー界を盛り上げる意味でも、レアル・マドリードの奮起に期待したい。

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