「史上最高のフットボーラー」。
僕がディエゴ・マラドーナをリアルタイムで観たのは、後にも先にも 94年のワールドカップ・アメリカ大会だけである。
コカイン使用による長期出場停止を受けていたマラドーナは、この大会の予選からアルゼンチン代表に復帰。
本大会時には 33歳と全盛期を過ぎていた上に、ドーピング容疑でわずか2試合で大会から姿を消す事になったものの、それでも史上最高のサッカー選手の鮮烈なプレーは、今でもこの脳裏に焼き付いている。
マラドーナの若かりし頃のプレーは、後追いで DVDや YouTubeで観た。
当時のディフェンダーたちの、今なら赤紙ものの荒々しいタックルを物ともせず、完璧なボールコントロールとボディバランスで重戦車のように突進し、左足のキャノンシュートを突き刺すその姿は、ひと言で例えるなら「超人」だった。
ダイジェスト映像とは言え、サッカーの神・マラドーナの凄みは、そこから十二分に感じ取ることができたと言える。
その後、アルゼンチンには何人もの「マラドーナ二世」が出現する。
アリエル・オルテガ、ファン・ロマン・リケルメ、ハビエル・サビオラ、カルロス・テベス…。
しかし彼らは結局、神・ディエゴの棲む聖域に、足を踏み入れることは許されなかった。
ところが現在、一人の若者が、ついにその神殿の扉を開けようとしている。
メッシ、ディエゴの聖域へ
UEFAチャンピオンズリーグ準々決勝、バルセロナ x アーセナル戦。
僕は戦前に、この対戦をドリームマッチと呼んでいた。
ところが蓋を開けてみればどうか。
1stレグも 2ndレグも、そこで見られたのは、ただひたすらバルセロナの圧倒的な強さだけである。
この2ndレグでも1点を先制されたものの、それ除いては、立ち上がりから試合終了まで一方的にバルサがゲームを支配した。
そしてその急先鋒となったのが、リオネル・メッシである。
今のメッシを、いったい誰が止められるのか?
この試合でもメッシは4得点と大爆発。
これで今季公式戦、4回目のハットトリックを達成。
今シーズンのこの大活躍に、世界中のマスコミがまことしやかに囁き始めた。
「メッシはマラドーナに肩を並べたのではないか?」
メッシと対戦したスペインリーグの監督たちの中には、堂々と「メッシはマラドーナを超えた」と断言する者まで現れた。
メッシは本当に、マラドーナと同じ次元に並び立ったのだろうか?
僕はマラドーナの全盛期をリアルタイムでは知らない。
だから本来はあまり無責任なことは言えない。
しかし今回ばかりは、無責任を承知で言わせてもらいたいと思う。
映像で見る限り、今のメッシのプレーは、マラドーナのそれに匹敵すると思われる。
それほど超人的なプレーを、リオネル・メッシは僕たちに見せつけてくれていると感じる。
しかしである。
それをもって、メッシがマラドーナに肩を並べたかと言うと、それは否だろう。
メッシ本人も認めているように、真の “レジェンド” になるためには、まだ彼にはひとつのピースが足りない。
メッシが「神の領域」に達するために、唯一足りないもの。
それはワールドカップのタイトル。
末恐ろしい22歳は、監督となったマラドーナとともに、南アフリカの地でこの世界最大のタイトルを勝ち取ることができるのだろうか?
そして僕たちはこの7月に、”伝説” が生まれる瞬間の、生き証人になることができるのだろうか。
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