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TSG1899ホッフェンハイムは、近年のブンデスリーガで注目を集めるチームの一つだ。
創立はその名の通り1899年。
ただし近年に至るまでは大きな実績に乏しく、注目を集めるようになったのは、創立から 100年以上を経た 2000年代のことだった。
それもそのはず、ホッフェンハイムがホームタウンとするジンスハイムのホッフェンハイム地区は、人口わずか3250人の小さな村に過ぎないからである。
そんなホッフェンハイムに転機が訪れたのは 1990年。
ヨーロッパ最大級と言われるソフトウェア会社「SAP」のオーナー、ディートマー・ホップが、当時ドイツ8部だったホッフェンハイムのパトロンとなる。
ここから、ホッフェンハイムの躍進が始まった。
躍進する新興勢力、ホッフェンハイム
ホッフェンハイムはチェルシーやマンチェスター・シティのように、金満オーナーが金に物を言わせて強化したチームという印象があるけれども、実態はちょっと違う。
実際に「ドイツのチェルシー」と呼ばれることもあるそうだけど、ホップはこれを快く思ってはいないそうだ。
もちろんパトロンの資金力がベースにあるのは間違いないところだけども、もともとホップは、ブンデスリーガ1部を目指してはいなかった。
ホップの目標はブンデスリーガ3部で有望な若手を育成して、地元に貢献できればそれで良し、と考えていたのである。
よってホップは、その資金力を大物選手の獲得ではなく、クラブの設備投資と若手選手の育成につぎ込んだ。
そして 2001、ホッフェンハイムは実際にブンデスリーガ3部に昇格を果たす。
しかし、想定していた地元の他クラブとの提携が暗礁に乗り上げたことで、ホップは方針を変更。
クラブを1部に昇格させて、新しいスポーツクラブ像を提唱しようと考えた。
そして監督に、VfBシュトゥットガルトやシャルケ04を率いた知将ラルフ・ラングニックを招聘。
2008年、チームはついに1部に昇格を果たす。
そして 08/09シーズンには一時ブンデスリーガで首位に立つなど、旋風を巻き起こしたことは記憶に新しい。
新戦力の獲得よりも若手の育成やハード面の充実、スカウティングのデータバンク導入などに投資をするクラブの方針は、ホップの狙い通り、ドイツでも指折りのモダンなクラブ像として注目を集めている。
そして香川真司の所属するボルシア・ドルトムントが今回対戦したのが、このホッフェンハイムだった。
ドルトムントを苦しめたホッフェンハイム
前節まで首位に立っていたボルシア・ドルトムントと、4位だったホッフェンハイムとの上位対決。
ゲームはその期待に違わぬ、ハイレベルな内容の好ゲームとなった。
激しい立ち上がりを見せた試合は 10分、早々に動く。
ホッフェンハイムの左サイドバック、ルイス・グスタヴォの突破から FWのデンバ・バが押しこんで、アウェーのホッフェンハイムが先制。
しかし直後の 14分、ドルトムントも同点に追いつくチャンスを得る。
ルーズボールを香川真司が競り合いに行ったところ、ホッフェンハイムの DFイサク・ヴォルサーがハンドを冒して、ドルトムントに PKが与えられた。
キッカーは名手、ヌリ・シャヒン。
シャヒンがこの PKをキッチリ決めてゴールゲット…と思った矢先、キックの前に味方選手がペナルティエリア内に入ったとして、この PKは蹴り直しとなってしまう。
そして2本目のキック。
これをホッフェンハイムの GKトム・シュタルケがファインセーブして、ドルトムントはビッグチャンスを逃してしまった。
そして結果的にこれが、試合の趨勢を大きく左右することになる。
その後はホッフェンハイムの堅いディフェンスに苦しめられるドルトムント。
試合後に香川真司も舌を巻いた激しいプレスがドルトムントを襲い、黄色い軍団はなかなかいい形を創れない。
以前の記事でも黒人選手をテーマに書いたことがあるけれども、偶然か否か、ホッフェンハイムも黒人選手の多いチーム。
チームカラーもブルーで、その身体能力を活かしたスタイルは、あのチェルシーを彷彿とさせる。
その高い運動能力と組織的なディフェンスに、ドルトムントは苦戦を強いられた。
0-1のまま進んでいく試合。
ゲームは終盤を迎え、ドルトムントは次第に追い詰められていく。
セットプレーではGKのロマン・ヴァイデンフェラーまで攻撃参加する捨て身の猛攻を見せるドルトムントだけれども、ホッフェンハイムの牙城を崩せない。
敗戦が濃厚になった後半ロスタイム。
しかし勝利の女神は、まだドルトムントを見捨ててはいなかった。
交代出場で入ったアントニオ・ダシルバが倒されて、ドルトムントはゴール前正面からの FKを得る。
キックの構えに入るのは、黄金の左足を持つヌリ・シャヒン。
誰もがシャヒンの足から放たれる放物線を想像したその刹那、セットされたボールをミートしたのは、シャヒンではなくダシルバの左足だった。
鋭い弾道を描いたボールはホッフェンハイムのゴール右上隅に突き刺さり、ボルシア・ドルトムントに劇的な同点ゴールが生まれたのである。
ドルトムントの手にした「勝利に等しい引き分け」
まるで勝ったかのように狂喜乱舞するドルトムントの関係者とサポーター。
ユルゲン・クロップ監督は、相変わらずド派手なガッツポーズを見せて、喜びを全身で表現した。
試合後にクロップ監督が語ったように、まさに「勝利に等しい引き分け」。
ドルトムントは劇的な形で、この難しい試合の幕を下ろすことに成功したのである。
ドルトムントにとっては、非常に苦しい展開を強いられたこのゲーム。
香川真司も時おり鋭い動きを見せてはいたけれども、なかなか決定機に絡めない試合展開だった。
しかし長いシーズン、こういう試合は必ず訪れるだろう。
その難局を、勝ち点1を拾いながら切り抜けたことは大きい。
ドルトムントの手にした貴重な「勝ち点1」。
しかしその積み重ねの先にきっと、悲願の “優勝” は待っているのだ。
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