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ウズベキスタンで行われている AFC U-16選手権。
来年の U-17ワールドカップの予選を兼ねるこの大会は、優勝までには6試合を戦う必要がある。
ただし、その6試合の中で「最も重要な1試合」は明白で、その重要性は突出していると言っていいだろう。
ワールドカップへの出場権が与えられるのは、ベスト4に進んだ4チーム。
つまり、ベスト4進出をかけた『決勝トーナメント1回戦』こそが、開幕戦も決勝戦も比べものにならないほどの、圧倒的に重要度の高いゲームになってくるのだ。
そして日本を始めとするアジアの強豪各国は、この決勝トーナメント1回戦を強く意識したチームマネジメントを、グループリーグでも実践してきたのだった。
日本が迎えた難局
日本は開幕からの2試合を2連勝で飾って、既にグループ2位以内を確定して決勝トーナメント進出を決めていた。
ちなみに初戦のベトナム戦から第2戦の東ティモール戦にかけてスタメンを大きく変更した日本は、グループリーグ最終戦となるこのオーストラリア戦でも、1戦目とも2戦目とも全く違うスタメンを組んできた。
3試合の全てにスタメン出場したのは、ディフェンスの要となるセンターバックの植田直通ただ1人。
ここまで3ゴールを挙げているエースストライカーの南野拓実も 10番の早川史哉も、2試合フル出場の疲れに加えて、イエローカードを1枚もらっていることもあってか、このオーストラリア戦はベンチから見守ることとなった。
正直なところこれだけメンバーが入れ替わると、どの試合のスタメンがベストメンバーなのかがよく分からなくなってくるほどである。
まあ試合内容を考えれば、やっぱり初戦の 11人がベストということになるんだろうけど…。
とりあえず日本がここまで徹底したターンオーバー制を敷いてきた背景には、次に控える決勝トーナメント1回戦の影響があるのだろう。
第2戦とこの第3戦の布陣からは目先の「勝利」よりも、決戦に向けてまずカードをもらわない、怪我をさせない、疲労をためさせない、というリスクマネジメントを重視した吉武博文の意図が伺えたような気がした。
そして対戦相手のオーストラリアも、日本と同じく既に決勝トーナメント進出を決めている。
そういう事情もあってオーストラリアも、同じスタメンで戦った初戦・第2戦とはうって変わって、この日本戦では前2試合からスタメンを5人入れ替える、大幅なターンオーバーを実践してきた。
グループリーグの頂上決戦でもあったこの試合はそういう事情から、「控えメンバーを中心としながらも勝利を目指す」という、何とも複雑な性質の試合となってしまったのである。
日本代表、優勢の末のスコアレスドロー
試合は立ち上がりから、日本が優勢のゲーム内容で展開した。
序盤で特に光ったのは、第2戦でも途中出場で好リズムをもたらした菅嶋弘希。
この東京ヴェルディジュニアユース所属の中学3年生は、持ち前のテクニックとスピード、ボディバランスで何度か DFラインの裏に抜け出しては決定的チャンスを創り出す。
中にはオフサイドになったけれども、あわやゴールかという惜しいシーンもあった。
試合全体を通して押し気味の日本は、守備面でもオーストラリアに攻撃の形を作らせない。
ロングボール主体のオーストラリアは単調な攻撃に終始して、後半は多少チャンスを作ったけれども、それでも日本のゴールを脅かす場面はわずかだった。
とは言っても、日本もそれほどいい攻撃ができていたわけではない。
タシケントのパフタコール・マルカジイ・スタジアムの芝生は、アリエン・ロッベンも真っ青のハゲ放題。
ところどころに土も顔を覗かせて、ボコボコで最悪のピッチ状態である。
大会に入ってからグラウンドを酷使したこともあって、ピッチコンディションは試合を追うごとに酷いものになっていた。
日本はそのグラウンド状態に足を引っ張られて、なかなか得意のパス回しを披露できない。
試合が進むごとに、徐々に不得手なロングボールでの攻撃が増えていく。
さらに、何故だかやたらと笛を吹いて試合を止める審判の影響もあってか、なかなか良いリズムで攻撃の形を作れない両チーム。
試合はけっきょく大きな見どころもないまま、スコアレスドローで終了という結果に終わった。
命運を分けた「1点の重み」
試合後、かつてはジェフユナイテッド市原でも指揮を執ったオーストラリアのヤン・フェルシュライエン監督は、日本に主導権を握られた難しい試合だったことを認めつつも、僅差での1位通過を決めたことを喜んだ。
逆に日本の吉武監督は、勝ち点でも得失点差でも並び、わずかに総得点1の差で2位となっとことに、落胆の色を隠さない。
そしてこの結果、運命を分ける決勝トーナメント1回戦の対戦相手が決まった。
1位通過のオーストラリアの相手は UAE。
先の AFC U-19選手権でも日本が苦しめられたのは記憶に新しい、近年メキメキと力をつけてきている中東の難敵だ。
ただし、日本の相手はさらに難しいチームになってしまった。
その相手はイラク。
単に UAEよりも良い成績でグループを突破したというだけでなく、僕はイラクのメンタリティに一種の脅威を感じている。
イラクと言えば、2003年から続いたイラク戦争の生々しい記憶がいまだに残る。
いったんはアメリカの圧勝で終結した戦争も、その後のイラク国内での治安悪化や無数のテロの発生の影響から、アメリカ軍は戦闘を継続。
この 2010年の8月に、ようやくオバマ大統領によって正式に戦争終結の宣言が出された。
そしてその間、10万人近くの民間人が戦争やテロの犠牲者になったとも言われている。
そんな国内情勢では、サッカーなどやっている場合ではないだろうというのが僕たち日本人の一般的な感覚かと思う。
しかし実際はそんな混乱のさ中、イラク代表は 2004年のアテネオリンピックで4位に入り、2007年のアジアカップでは優勝という好成績を残した。
どちらも全く予想されていなかった快進撃で、それはまさに快挙と言っていい勝利だった。
現在では国内リーグも再開し、復興への道を歩みつつあるイラク。
しかし治安が完全に回復したわけでもなければ、戦争前のようにサッカーに打ち込める環境を取り戻したわけでもないだろう。
それでもこういった「逆境」が選手たちを奮起させることもあることは、アテネ五輪やアジアカップでのイラク自身が既に証明している。
今大会でもグループを1位で通過してきたイラクは、かなりの強敵であると僕は考えている。
特に選手たちのハングリー精神、メンタルの強さは、日本の選手たちをさらに上回るものがあるだろう。
イラクはグループ最終戦こそメンバーを落として UAEに敗れたけれども、日本にとっては UAEよりも、遥かに難しい相手だと思っていいのではないだろうか。
結果的にオーストラリアとの命運を分けることになった「1点の重み」。
しかしもちろん、勝負はまだ決まってはいない。
ワールドカップ出場をかけた決戦は月曜日。
日本代表はここで、その真価を問われることになる。
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