Photo by Franco Folini
今シーズンのブンデスリーガには、旋風を巻き起こしているチームが2つある。
前節まで首位に立っていた 1.FSVマインツ05と、香川真司が所属する、前節まで2位のボルシア・ドルトムント。
昨年はそれぞれ9位と5位だった両チームが、今シーズンは大躍進。
9試合で早くも3位以下に7ポイント以上の差をつけて、マッチレースの様相を呈してきている。
そしてその両チームが、ついに今節、直接対決する時がやってきた。
ともに決してスター選手を揃えているわけではない両チーム。
その躍進の秘密を探ると、そこには「ユルゲン・クロップ」という1人のキーマンの名前が挙がってくるのである。
ドルトムント躍進のキーマン、ユルゲン・クロップ監督
ユルゲン・クロップは 1967年生まれの 43歳。
日本では、香川真司を発掘したボルシア・ドルトムントの監督として知られている。
青年監督のクロップは、ドイツ国内でも将来を嘱望される指導者の一人だ。
ドルトムントの試合を観ていると、ゴールの後にはいつもクロップ監督の、全身で喜びを表現したド派手なガッツポーズが飛び込んでくる。
そしてあれはどうもパフォーマンスではなくて、ユルゲン・クロップという監督の生来のキャラクターのようなのだ。
33歳で現役を引退し、すぐに指導者への道を歩み始めたユルゲン・クロップは、若いながらも既に 10年の監督歴を誇る。
選手としては決して代表クラスではなかったクロップは、そのキャリア同様の飾り気のない気さくな性格で知られる、ドイツサッカー界の名物キャラクターでもある。
そのキャラはとにかく親しみやすく、明朗快活。
日本語に訳せば「◯◯でさあ〜、」「◯◯じゃん!」みたいなくだけた言葉遣いで話したかと思えば、その反面、高度な戦術理論もスラスラと語ったりもする。
地元開催の 06年ワールドカップでは、ユニークかつ専門性の高い戦術論が大ウケで、テレビの解説者として引っ張りだこだったらしい。
なるほど、試合中の姿を見ていればそれもうなずける。
理論だけでなくモチベーターとしての能力も併せ持った、選手の良き「兄貴分」。
それがユルゲン・クロップという監督なのだ。
そんなクロップ監督のノリが伝染してか、ドルトムントのロッカールームからは笑い声が絶えない。
雰囲気は底抜けに明るく、それがチームの好調の一因にもなっているのだろう。
そしてそのユルゲン・クロップ監督が、選手・監督時代を通じて 18年を過ごしたクラブが、なにを隠そう今回対戦する 1.FSVマインツ05だったのだ。
ブンデスリーガに旋風を巻き起こす、1.FSVマインツ05
マインツ05のホームタウン、マインツは、ドイツ南西部に位置する人口約 20万人の地方都市。
マインツ05の創立は 1905年。
長らくブンデスリーガ2部に属していたチームに 1990年、ユルゲン・クロップが FWとして入団してきた。
選手としては大きな実績を残せなかったクロップだったけれども、2001年に現役を引退するまでマインツでプレー。
引退直後のシーズンからマインツの監督に就任すると、すぐにその指導者としての手腕を発揮することになる。
就任3年目の 03/04シーズンには2部で3位となって、クラブ創立 100年目にして初となる、ブンデスリーガ1部昇格を達成。
チームはそこから3シーズン、ブンデスリーガ1部でプレー。
スター選手はいないものの、クロップが植えつけた組織力と走力をベースにしたチームは、ブンデス1部でも確かな存在感を示した。
クロップは再び2部に降格したのちの 07/08シーズンまで、実に7年間チームの指揮をとる。
そしてその直後の 08/09シーズンから、クロップはボルシア・ドルトムントの監督に就任するのである。
クロップが去ったあとのマインツはと言えば、後任のヨルン・アンデルソン監督のもと、08/09シーズンに再び1部リーグ昇格を果たした。
しかしアンデルソンは物議をかもす言動が目立ち、翌 09/10シーズン開幕直前に解任される。
そしてその後を引き継いだのが、当時若干 36歳の青年監督、トーマス・トゥヘルだったのだ。
マインツをブレイクさせた若き知将、トーマス・トゥヘル
トーマス・トゥヘルは 2005年からマインツ05の U-19チームを指揮していた指導者で、ユルゲン・クロップとはいわば「師弟関係」にあたる。
トゥヘルもクロップ同様、選手としてはこれといった実績はなかった。
1部リーグでプレーした経験はなく、膝の怪我の影響で、24歳の若さで引退を余儀なくされてしまう。
そこから指導者への道を歩き始めたトゥヘルは、26歳の頃に VfBシュトゥットガルトの U-15の監督に就任すると、育成年代の指導者として頭角を現すようになった。
そして 1.FSVマインツ05の U-19を指導していた 2008年、ユースチームをドイツチャンピオンに導いた手腕が評価されて、トップチームの監督に抜擢されることとなる。
就任初年度に9位と、昇格したばかりのチームをAクラス入りさせる成績を残したトーマス・トゥヘルの手腕は、2年目となった今シーズンに爆発した。
無名選手たちの集まった雑草チームでありながら、開幕から7連勝と猛ダッシュを見せたマインツ05。
トーマス・トゥヘルの名前は、一躍ヨーロッパ中に知られるところとなったのである。
トゥヘルの指導方法はユニークそのもの。
ミニゲームでオフサイドルールを取り払ったり、縦長のピッチで練習したり、ゴールを4つ用意してゲームを行ったりもする。
イビチャ・オシムにも通じるようなその独特の練習方法は無名選手たちの潜在能力を開花させ、今シーズンの快進撃へと繋がったのだった。
そしてマインツ05がボルシア・ドルトムントをホームに迎えたこの一戦は、単なる首位攻防戦というだけではなく、ユルゲン・クロップの古巣対決、クロップとトゥヘルの師弟対決でもあり、ブンデスリーガで最も偉大な若手監督を決める因縁の対決にもなった。
白熱の首位攻防戦
そんなプライドを賭けた一戦は、意外にもアウェーのチャレンジャー、ドルトムントが押し気味な立ち上がりを見せる。
ドルトムントはルーカス・バリオス、マリオ・ゲッツェ、香川真司らが次々と決定的チャンスを掴んでは、マインツのゴールに襲いかかる。
これらはマインツのゴールキーパー、クリスティアン・ヴェトクロのファインセーブに阻まれたけれども、序盤から得点の予感を感じさせる展開となった。
そして 26分、ドルトムントに先制点が生まれる。
香川真司のパスカットからショートカウンターを仕掛けたドルトムントは、そこからパスを繋ぐと、最後はマリオ・ゲッツェがゲット。
アウェーのドルトムントが、まずは 0-1とリードした。
両チームのプレースタイルは、さすがに似ている部分も感じられる。
特にディフェンスに関しては、両チームともプレスが速く、攻守の切り替えのスピードが速い。
ただし攻撃に関しては、そのスタイルは対照的だったと言ってもいい。
巧みにショートパスを繋いでプレスをかいくぐるドルトムントに対して、長いボールを主体にして、ワイドな揺さぶりをかけてくるスタイルのマインツ05。
ただしこのロングボール戦術は、ボルシア・ドルトムントの誇る2枚のセンターバック、ネヴェン・スボティッチとマッツ・フンメルスのディフェンスの餌食になっていた。
しかしマインツの徹底したロングボール戦術が、一瞬、日の目をみる時がやってくる。
後半に入った 47分、ロングフィードをマインツの FW、アダム・シャライがヘディングで競り合う。
このこぼれ球を拾ったのが、チュニジア代表のFW、サミ・アラギだった。
この日はカウンターの急先鋒としてマインツの攻撃を牽引していたアラギは、ボールを拾うと左サイドをドリブル突破。
そして中央のシャライにラストパスを返すと、ボールを受けたシャライが倒されて、マインツに PKが与えられたのである。
マインツのシンプルな戦術が実った瞬間。
これで勝負は、振出しに戻ったかに思われた。
しかしマインツのキッカー、ユージェン・ポランスキの放った PKは、ドルトムントの GK、ロマン・ヴァイデンフェラーの横っ飛びにファインセーブされてしまう。
同点の最大のチャンスを逃し、意気消沈するマインツイレブン。
逆にドルトムントは、これでさらに勢いづいた。
そして 67分、カウンターから持ち上がったマリオ・ゲッツェのスルーパスに抜け出したルーカス・バリオスが、ゴールキーパーと1対1に。
そのままキーパーもかわしたバリオスがこれをキッチリ決めて、ドルトムントが 0-2と突き放すことに成功。
試合はけっきょくこのスコアのまま、タイムアップの時を迎えることとなった。
「ブンデスリーガ頂上決戦」を制したボルシア・ドルトムント
因縁のライバル対決を制して、自力で首位の座をもぎ取ったボルシア・ドルトムント。
この日の試合に限れば、まさに首位にふさわしい戦いぶりだったと言えるだろう。
結果だけでなくプレーの内容でも、ドルトムントはドイツ随一のレベルの高さを見せつけていた。
そして香川真司も、この日は切れ味鋭いプレーを見せていた。
的確なパス、巧みなボールキープに加えて、シュートでも惜しい場面を演出していた香川真司。
この日の主役はバリオスとゲッツェに譲ったけれども、チームの攻撃の要として機能していたと思う。
もはやドルトムントに欠かせない、キーマンの1人になったと言って間違いないだろう。
首位決戦を制したドルトムントの勢いは、止まる気配を見せない。
あと2ヶ月これが続けば、ドルトムントには「冬の王者」、”ヘルプスト・マイスター” の座が待っている。
そしてその先にはいよいよ、悲願の8年ぶりの『王座』が見えてくるはずだ。
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