男子のサッカー界ではUEFAチャンピオンズリーグ、FIFAワールドカップとビッグイベントが目白押しである。
しかしその影で、女子サッカー日本代表も重要な大会に臨んでいる。
現在、中国で行われているのが女子サッカーのアジアカップ。
この大会に我らが「なでしこジャパン」が参戦し、この日に初戦を戦った。
このアジアカップはもちろんアジアのチャンピオンを決める大会なのだけれども、それと同時に3位までに入賞したチームには来年のFIFA女子ワールドカップの出場権も与えられる、ワールドカップ予選としての役割も兼ねている。
ワールドカップは、女子サッカー界ではオリンピックと並んで重要な世界大会である。
それだけに、その予選を兼ねたこのアジアカップも、なでしこジャパンにとって「絶対に負けられない」極めて重要な大会なのであった。
アジアの女子サッカーの勢力図
グループリーグの初戦、日本はミャンマーと対戦し 8-0 という好スタートを切った。
点差だけを見れば文句なしの大勝。
しかし内容は、手放しで褒められるようなものでもなかったと僕は感じた。
まず前提として、女子の場合は男子に比べてサッカーの普及が進んでいないため(それでも他競技に比べるとかなり普及しているんだけども、男子と比べるとという意味で)、チーム間での戦力格差が大きい。
アジアにおいて男子では強敵となるアラブ勢も、イスラム教文化の影響もあって女子サッカーは盛んとは言えない。
そういう事情もあって、アジアで日本のライバルと言えるようなチームは北朝鮮、中国、韓国、オーストラリアあたりに絞られてしまうのだ。
このアジアカップもわずか8チームの参加ながらも、それでも東南アジア勢のタイ、ベトナム、ミャンマーの3チームは力が大きく劣ると予想され、実質的にはアウトサイダーだと見られている。
この日に日本が大勝した相手は、そのうちの1つミャンマーであった。
なでしこジャパンに見られた課題
実際の試合を観ても、ミャンマーのレベルは低かった。
と言ってももちろん僕みたいな素人に比べれば充分うまいんだけれども、それでもアマチュアで、たぶん多くが趣味の延長でサッカーをやっているような選手たちである。プロ選手も多い日本に比べれば技術・戦術の差は歴然だった。
その相手に日本は8点を取って快勝したわけだけども、日本の側にも多くの課題が散見したように僕には思えた。
一番気になったのは、ゴール前でのプレーの精度の低さと、全体的な判断の遅さである。
せっかく両サイドから切り崩しておきながら、最後のクロスがきっちりと合わない。あるいはシュートをミスする。
そして中盤でボールを持っても、ボールをいったん足元で止めてからパス→止めてからパス→の連続で、ガッツり引いて守っているミャンマーをなかなか崩せないような場面も目立った。
女子は当然のことながら、男子に比べればスピード・パワーの面では劣ってしまうのはやむを得ない。
しかし、プレーの精度や判断力の部分では、トレーニング次第で男子に引けをとらないだけのレベルにアップさせることは可能なはずである。
また欧米のチームに比べて、フィジカル面で大きく劣る日本女子代表が世界でメダルを狙おうと思ったら、これらの部分を磨き上げて勝負していくことは避けては通れないはずだ。
ミャンマーとの実力差があり過ぎて集中力を欠いた部分もあったとは思われるものの、それでも全体として工夫に乏しい単調なパス回しと、ゴール前でのプレーの精度の低さには、少し今後に向けての不安が感じられた。
これが単なる僕の杞憂に過ぎないことを願っているけども…。
ただ、その中でも確実に違いを見せていた2人のプレーヤーがいる。
今やなでしこジャパンの2枚看板とも言える新旧両エース、澤穂希と宮間あやである。
日本の誇る2人のスーパースター、澤穂希と宮間あや
ともにアメリカのプロサッカーWPSでプレーする2人だけれども、この日の代表でのプレーを観ても、明らかに「別格」の存在感を放っていた。
2人揃ってスーパーミドルシュートを決めて得点もマークしていたけれども、それ以外の場面でも正確なボールコントロールとパスでゲームメイクするなど、2人で中盤を支配する、「女王」の風格ただようプレーを見せていたように思う。
中でも特に感心したのがプレーの「緩急のつけ方」である。
ミャンマーがかなり引いて守っていたため、中盤でスペースのある日本はどうしてもプレーに余裕が出すぎて、逆に単調なパス回しになってしまう場面が目についた。
しかし澤と宮間がボールを持つと、ここに絶妙にワンタッチのパスなどを絡めてくるのだ。
ゆっくりのんびりポーンポーンとボールを回しているところに、急にワンタッチで「ズパッ」というボールが入ってくるのである。
また、時にはサイドチェンジで展開に変化をつけるなどの視野の広さも見せていた。明らかにここでリズムに変化ができていたように思う。
そしてミャンマーのように引いて守ってくる相手に対しては、単調に攻めているだけではなかなか突破口は開けない。
パス回しのリズムに変化を加えたり、時には強引にミドルシュートを狙ったりして相手の守備網にほころびを作るようなプレーが求められる。
この日の澤と宮間のプレーは、この点においてパーフェクトに近かったように思えた。
僕なんかが言うのもおこがましいけれども、本当に「サッカーを知っているな」という印象である。
技術だけでなくインテリジェンスあふれるそのプレーからは、2人が世界でも有数のプレーヤーである理由がよく分かった。
日本が誇るこの2人のワールドクラスのMFは、間違いなく今大会でも日本の生命線になってくるだろう。
なでしこジャパン、アジアの頂点へ向けて
初戦のミャンマー戦を白星で飾ったなでしこジャパン。
しかし、本当の戦いはこれからである。
2日後にはタイ戦、さらにその2日後にはグループリーグ最大の山場となる北朝鮮戦が待っている(しかし高校サッカーばりのこのハードスケジュール、何とかならなかったんだろうか?選手たちが不憫すぎるぞ…)。
アジアの5強の中で3位以内に入り、ワールドカップの出場権を得ることは、この大会で日本に課せられた至上命題である。
まだ課題は見られるものの、澤・宮間を中心に、大会を通じてそれを克服していってほしいと思う。
そして大会が終わる頃には、なでしこたちの満面の笑顔が見れることを期待したい。
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