Photo by nerdegutt

初めて観た瞬間に、度肝を抜かれる選手というのがいる。

一目観ただけで、明らかに只者ではないと分かる選手。
単なる天才的な選手の枠を超えた、規格外の才能。
スーパースターのオーラを纏って生まれて来た、正真正銘のフットボールの申し子。

キャリアの絶頂期にそういった存在になる選手は、世界的に見ても何年かに1人は出現すると言っていいだろう。
リオネル・メッシ、クリスティアーノ・ロナウド、ジネディーヌ・ジダン…。

しかし、「まだほとんど無名」という時点から、そんなプレーを見せられる選手というのは数えるほどしかいない。

僕個人の思い出で言うと、そういった選手にめぐり逢ったのはこれまでで2人だけだった。

真の “怪物” 、ロナウド

1人はブラジルの怪物、ロナウドだ。

彼を初めて観たのは1994年、ロナウドがまだ17歳だった頃。
当時所属していたクルゼイロの一員として来日し、ジュビロ磐田と行ったプレシーズンマッチでのプレー。

ちなみにJリーグブームに湧いていたその頃は、こんなプレシーズンマッチが普通に地上波で放映されていたのである。
当時のロナウドはワールドカップアメリカ大会でブラジル代表入りする前で、国際的には無名の若手選手の1人に過ぎなかった。

そんな17歳が、ジュビロを相手にハットトリックを達成する。

そこで披露された、異次元のテクニックとスピード、そしてパワー。

なんだこいつは、化け物か??

僕はひと目でロナウドのプレーに釘付けになった。

ジュビロのDF3人ほどに囲まれながらも、振り向きざまにその全員を弾き飛ばして弾丸シュートを突き刺したプレーは、今でも鮮明に脳裏に焼き付いている。

そしてその後にロナウドは、世界のスーパースターへの階段を駆け昇っていくのである。

ではもう1人はいったい誰か。
それは、何と日本人だった。

その名前は岩渕真奈。

現在17歳の、女子サッカー選手だ。

岩渕真奈とU-17ワールドカップ

10月・11月の南半球は初夏である。
晴天のニュージーランドは真夏を迎える前の、強さと柔らかさが入り混じった日差しに包まれていた。

そしてその光の中で、ひときわ輝いた一人の少女がいる。

2008年にニュージーランドで行われた、第1回 FIFA U-17女子ワールドカップ。
CSでこの大会が放映されることを知って、僕は日本の試合にチャンネルを合わせた。

といってもU-17のしかも女子である。
知っている選手は一人もいない。

僕がこの試合を観ようと思ったのは、世界大会で、しかも日本が出場しているからという、単なる興味本位に過ぎなかった。

そして、日本のグループリーグ初戦の相手はアメリカ。

女子サッカー界でアメリカと言えば、同年8月の北京オリンピックでも金メダルに輝いた、世界で1・2位を争う強豪国だ。
U-17のチームはよく知らないけれども、その実績からして、日本が勝つ見込みはかなり薄いと考えるのが普通の見方だった。

試合前の国歌斉唱。
胸に手を当てる、日本の10番の姿が映し出される。

フジの青嶋アナウンサーの「さあこちら、注目の岩渕」とのコメントがそこに重ねられた。

ふーん、日本ではこの子が中心選手なんだ。

僕はその時までは、その10番が「日本の中ではいい選手」という感じなんだろうなと考えていた。

国内では目立つ存在だけど、世界に出れば並の選手。
これまでの多くの「日本代表のエース」たちと同様に、この岩渕という選手も、そのレベルの選手なのだろうとタカをくくっていたのである。

しかし試合が始まってすぐ、僕は自分の浅はかさを懺悔する事になる。

歴史的勝利を挙げたヤングなでしこ

ちなみに、この大会の日本代表は素晴らしいチームだった。

吉田弘監督に率いられた「ヤングなでしこ」は、個々の高いテクニックと洗練されたパスワークで爆発的な攻撃力を誇り、大会屈指の完成度の高いサッカーを披露していた。
選手個人個人を見ても、FWの吉良知夏、MF嶋田千秋、DF岸川奈津希といった能力の高い選手をセンターラインに揃えた好チームだったと言える。

しかしこのアメリカ戦、ピッチ上の両チームを合わせた22人の中で、「明らかに」突出している一人の選手がいたのだ。

ひときわ小柄な体格ながら、まるで一人だけ男子の選手のような切れ味で、高速プレーを連発する少女。

それが日本の10番、岩渕真奈だった。

この試合の日本は、開始3分でアメリカに先制を許したものの、31分に岩渕のゴールで同点に追いつく。

後半に再度リードを許したけれども、その後に再び2点を奪って逆転勝利。

世界屈指の強豪アメリカに、日本が勝ってしまったのである。

アメリカに勝った。

これは女子サッカーを多少でも知る人間からすれば、まさに「快挙」と言ってよかった。

そしてその中心にいたのが、岩渕真奈である。

同点のゴールを決め、得意の高速ドリブルと裏に抜け出す動き、トリッキーなプレーで、アメリカのDF陣をズタズタに切り裂いたのだ。

凄すぎる。日本の女子に、こんな選手が現れたのか。

僕が受けた衝撃は、15年程前に観たロナウドと同等のものだった。

岩渕真奈をロナウドに例えるのは大げさだろうか?
しかしその試合を観ていた人たちならば、きっと納得してもらえるはずである。

それくらいに、この大会での岩渕は鮮烈な輝きを放っていたのだ。

日本の快進撃と、旅の終焉

歴史的勝利の後も日本の快進撃は止まらない。

第2戦はヨーロッパの強豪フランスを相手に、何と 7-1 の大勝利。
第3戦のパラグアイ戦は主力を温存しながらも、こちらも 7-2 の圧勝。

グループリーグを圧倒的な強さで通過した日本は、完全に大会の台風の目になっていた。
そして、その中心にいたのが岩渕真奈である。

岩渕に率いられたヤングなでしこは、その勢いを駆って3連勝でグループを突破すると、決勝トーナメント1回戦でイングランドと対戦する。

この試合も、立ち上がりは順調だった。
開始8分に吉良知夏のゴールで先制。
前半終了間際に同点に追いつかれるも、内容ではイングランドを圧倒していた日本。

そして後半37分、エースが決定的な仕事を果たす。

左サイドの裏のスペースに抜け出した岩渕真奈がドリブルでゴール前に切れ込み、そのままシュートを突き刺して値千金の勝ち越し点をゲット。
残りは10分。これで勝負はありかと思われた。

しかし、後半ロスタイム。

それまでも、日本の弱点であるGKの頭上を執拗に狙ってきたイングランドのロングシュートが決まり、日本は土壇場で同点を許してしまう。

そして延長戦でも勝負は決まらず、試合の行方はPK戦へ。

結果、このPK戦でイングランドに敗れ、大会屈指の好チームだった日本は、ベスト8で姿を消すこととなってしまったのである。

岩渕真奈、天からの贈り物

ヤングなでしこの冒険は終わった。
しかし、この物語には続きがある。

決勝戦の後に発表された、大会MVP。
そこには、日本の「岩渕真奈」の名前があった。

ベスト8で敗退したチームからMVPが選ばれる異例の選出。
しかも岩渕は当時はまだ15歳。
本来であれば2年後の大会に出場する年齢の選手である。

その岩渕が、世界大会の最優秀選手に選ばれたのだ。

これは男女をあわせて、日本サッカー界では史上初の、歴史的快挙だった。
それほどまでに、岩渕のプレーは世界的なレベルで見ても突出していたのである。

岩渕真奈の身長は153cmだ。
女子の中でも、かなり小柄なほうだと言っていいだろう。

しかしその体格のハンデをもろともせず、スピードとテクニックでDFを切り裂いていく高速ドリブルが持ち味。
そしてその最大の魅力は、常に “ゴールに直結する” プレーを目指す、彼女のサッカースタイルにある。

本田圭佑がよく口にしている「危険なプレー」というものを既に体得しているのが、岩渕の凄みだ。

彼女のプレーは、観るものを魅了する。

ボールを持った瞬間に「何かをやってくれるのではないか」、岩渕のサッカーは、周囲にそう思わせるような “ワクワク感” に満ちている。

この大会でも日本のピンチの場面では、僕はいつも「岩渕に回せ!」と心の中で叫んでいた。
岩渕ならば何とかしてくれる、どんな苦しい場面でもそんな期待感を抱かせる「スーパースターのオーラ」を、彼女は既に身に纏っていたのである。

そしてそんな岩渕に魅了されたのは、日本のファンだけではなかったようだ。
FIFAが公式サイトに掲載した同大会の記事には

“Japan’s Mana from Heaven”

との見出しで岩渕が紹介された。

日本語に訳すと、「天国から舞い降りた日本の “マナ”」。

マナとはもちろん岩渕のファーストネームだけれども、同時に旧約聖書に現れる「神から贈られた奇跡の食べ物」の名前でもあるそうだ。

つまり、『岩渕真奈は天から日本に贈られた奇跡の選手だ』という、まさにこれ以上無いほどの最大級の賛辞であった。

岩渕真奈、そして未来へ

もはや伝説となったその大会から、1年半が経つ。

岩渕真奈は2ヶ月前にフル代表の「なでしこジャパン」にもデビューを果たし、今後は間違いなく、なでしこの中心選手になっていくだろう。

そして今週の日曜日には、日本の女子サッカーのトップリーグであるなでしこリーグが開幕。
日テレ・ベレーザで10番を背負う岩渕は、開幕戦でも開始6分にゴールを奪い、早速その責務を果たしてみせた。

女子サッカー界を取り巻く環境は、いまだに良好なものとは言えない。
岩渕の所属するベレーザも、昨年には一時、チーム解散の噂も流れた。

今はまだ女子高生の岩渕も、今後はプレーでもピッチの外でも、色々な壁に当たるかもしれない。
小柄な体格が災いし、トップレベルで期待されるほどの選手になれない可能性もあるだろう。

しかし、あの初夏のニュージーランドの鮮烈な記憶。

僕はあれほど輝いていた日本人選手を、後にも先にも観たことがない。

だから僕は今後も、彼女を応援し続けたいと思う。

そして岩渕真奈という選手が、これからも幸せなキャリアを送ってくれることを、心から願うのである。

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