エル・クラシコ、『銀河系』を制した『異次元軍団』/リーガ・エスパニョーラ@FCバルセロナ 5-0 レアル・マドリード

Barcelona Sagrada FamiliaBarcelona Sagrada Familia / Wolfgang Staudt

『シンジ、ラレ、ナーイ!!!』

この日、もしカンプ・ノウに元日本ハムファイターズのトレイ・ヒルマン監督がいたら、こう叫んでいたことだろう。

サッカー界に伝統の対決(=クラシコ)は数あれど、世界中の注目を一身に集めるクラシコは一つしか無い。

スペイン最強を決める、天下分け目の決戦『エル・クラシコ』。

そんなクラシコの今シーズン最初の対決はしかし、なんと 5-0という大差がついた。

ほとんどのフットボールファンが予想しなかったであろう圧勝劇で、その幕を閉じたのである。

ドリームチーム vs 銀河系軍団

僕が初めて観たエル・クラシコは 1994年1月、FCバルセロナがレアル・マドリードを、奇しくも同じ 5-0のスコアで下した試合だった。

当時のバルセロナはクラブのレジェンド、ヨハン・クライフが指揮をとり、ワールドカップアメリカ大会 MVPになるロマーリオや、同ワールドカップ得点王のフリスト・ストイチコフらを擁して『ドリームチーム』と呼ばれた時代。

そしてその当時の主力の一人だったジョゼップ・グアルディオラが監督となった 08/09シーズンに、バルセロナは前人未到の6冠を達成して『ドリームチームの再来』と評された。

そのグアルディオラが就任してからの2シーズンで、バルセロナはこのエル・クラシコで負けなしの4連勝。

特に一昨シーズン終盤の対戦では、レアルの本拠地、サンチャゴ・ベルナベウで迎えた “優勝争いの賭かった直接対決” をバルセロナが 2-6で制して、「バルサ強し」を印象づけるゲームとなった。

しかし今シーズン、その光景が繰り返されると予想していた人は、かなり少なかったのではないだろうか。

今季のレアルはこれまでとは違う。

昨シーズンにインテルを率いてヨーロッパチャンピオンに輝いた名将、ジョゼ・モウリーニョを招聘したレアル・マドリードは、今季のリーガ・エスパニョーラで前節まで無敗の快進撃。
バルセロナを抑えて、リーガの首位に立っていた。

そして UEFAチャンピオンズリーグでも、現在イタリア・セリエAで首位を走る ACミランを力でねじ伏せて、5試合を終えて4勝1分け0敗の勝ち点 13と独走している。

「モウリーニョのレアルは強い」。

今シーズンのレアルであれば、最強バルサを止められるのではないか。

戦前は多くのフットボールファンが、そう感じていたように思う。

しかし現実は、全く予想に反する展開となった。

レアルを圧倒したバルセロナのポゼッションフットボール

バルセロナはこの試合の立ち上がりから、自慢の超絶ポゼッションフットボールを爆発させる。

レアルの組織立ったプレスを物ともせず中盤を制圧すると、早くも 10分にはアンドレス・イニエスタの突破からシャビ・エルナンデスが決めて先制ゴール。

その後もバルサの勢いは止まらず、18分にはペドロ・ロドリゲス、55分にはダビド・ビジャ、58分に再びビジャが決めて、60分足らずで 4-0と試合を支配した。
そして後半ロスタイムには、ジェフレン・スアレスがダメ押しの5点目を決めて、レアルにとどめの一撃を見舞ったのである。

スコアは 5-0。

しかも内容ではそれ以上とも言っていいような一方的な展開で、バルセロナがエル・クラシコの今シーズン最初の覇者となった。

心の隙を生んだ「銀河系のプライド」

しかしモウリーニョ率いるレアル・マドリードがまさか 5-0で負けるとは、誰が予想しただろうか。

僕が驚いたのは、最近のレアルの好調ぶりもさる事ながら、世界で唯一「バルサ対策」を完璧に成功させた指揮官が、他ならぬモウリーニョだったからである。

昨季のチャンピオンズリーグ準決勝で、無敵と思われたバルセロナを止めたのは、モウリーニョ率いるインテル・ミラノだった。

個々の力量とチームの完成度でバルセロナにわずかに劣るインテルは、それを自覚して、徹底した「バルセロナ・シフト」を敷く。

とにかくゴール前でディフェンスを固めて、バルセロナのポゼッションを無力化させるプレーに徹した。

そしてその徹底した戦術が功を奏して、見事にインテルはホームで 3-1の勝利を挙げたのである。

しかし今回、レアルはインテルのような戦術はとってこなかった。

それは『銀河系軍団』と呼ばれるレアルが、インテルと違って個々の力量でもバルセロナに引けを取らないという自負を持っていたからだろうか。
イタリアのインテルのように「カテナチオ文化」を持ち合わせていなかったことも、理由として挙げられるのかもしれない。

いずれにしてもレアルはインテルのように「チャレンジャー」に徹することができなかった。

もちろん現在のレアルの力であれば、そう考えることは全く不思議なことではない。

真っ向勝負をかけてもバルセロナと対等に戦う実力がある。
多くの人がそう考えていたように、レアルの選手たちにもそんな自負があったのではないかと推測する。

しかし全くの結果論だけれども、その「油断」とも言えないようなごく小さな「心の隙」が、この勝負の行方を分けた。

レアル・マドリードが捨てきれなかった「銀河系のプライド」と、バルセロナが持っていた、想像を上回るほどの「異次元」の強さ。

そこから生まれたギャップが、この 5-0というアンビリーバブルな点差を生んでしまったのではないかと、僕は思った。

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