一昔前まで、「サッカー不毛の地」と言えば大阪だった。
僕は大阪に住んでいるけれども、大阪といえば何と言っても阪神タイガースの人気が根強い。
この虎ジマの野球チームは、本拠地があるのは兵庫県は西宮市なのにも関わらず、「阪神」という球団名の恩恵を受けてか、本来ならあまり関係ないはずの大阪・神戸という2大都市圏のファンの囲い込みに成功した。
ちなみに僕の周りでも熱狂的トラキチを含めて、阪神ファンを公言している人が6〜7人はいる。
大した数じゃないように聞こえるけれど、「ガンバファン」「セレッソファン」を公言する人はそれぞれ1人ずつくらいしか知り合いにいないので、やっぱりけっこう驚異的な数字だと感じている。
そしてそんな阪神人気に押されてか、大阪、そして関西全域は長らく「サッカー不毛の地」と呼ばれ続けてきたのだ。
しかしそんな大阪のイメージが、いつの間にやら変わろうとしている。
「サッカー不毛の地」ではなくなった大阪
僕は大阪に来て6年になるけれども、はじめのうちは周りで「サッカーファン」を名乗る人は数名のサッカー経験者だけだった。
しかしここ数年で、やたらと「実はサッカーファンなんです」という、サッカー未経験の人と知り合うことが増えてきた気がする。
たまたまなのかもしれないけども、その一言では片付けられないものも感じる。
公園に行けば当たり前のように、サッカーに興じる若者や子どもたちを見かけるようになった。
ワールドカップともなれば、町中の至るところでサッカーの話題を耳にする。
あと、数年前には考えられなかったことだけど、サッカーをやっている小学生くらいの女の子たちの姿も頻繁に見かけるようになった。
堺市には超大型サッカー施設のナショナルトレーニングセンターがオープンしたし、長居スタジアムの横には「金鳥スタジアム」というインパクトある名前を持ったサッカー(球技)専用スタジアムが誕生した。
それらの背景としては、大阪をホームにするガンバ・セレッソ両チームの活躍がやはり大きいだろう。
この2チームが日本代表選手を多く輩出し、優勝争いをするような強豪になったことから、大阪でもジワジワとサッカーが注目されてきて、「サッカー = カッコいいもの」と認識されるようになってきたんではないだろうか。
気がつけば、大阪は「サッカー不毛の地」とは呼ばれなくなっていた。
そしてこの日のグアテマラ戦は、そんな大阪で行われた一戦だったのである。
新シームのお披露目試合
グアテマラと聞いて、「ああ、メキシコの南に隣接する人口 1,400万人の中堅国、公用語はスペイン語で、首都はグアテマラシティね」。
とサラリと即答できる人はあんまりいないだろう。
最近、豪雨による災害の影響で望まれない形でニュースになってしまったけれども、それまではこの国がどこにあるのかも、知らない人が大半だったのではないだろうか。
グアテマラ代表も FIFAランキング 119位ということで、そのサッカー文化もほとんど知られていない。
僕もかろうじて、「そういえばアメリカの MLSに、誰かグアテマラ代表の選手がいたような…」くらいの知識しか持ちあわせていなかった。
そんなグアテマラ代表が、新生日本代表の2戦目の相手に選ばれた。
日本がはるか格下のチームと対戦することで、強化面で得るものはほとんどないだろう。
誤解を恐れずに言えば、この試合の対戦相手は、どこが相手でも大差なかったのではないだろうか。
マッチメイクからも察せられるとおり、この試合の目的はやはり「興行」だったのだと僕は思っている。
新監督にザッケローニこそ決定したけれども、ビザ発給の関係で、実際に選手選考と指揮を行ったのは原ヒロミ代行監督。
日本もまだチームとしての体裁が整っていない中で行われた、「新チームのお披露目」としての意味合いが非常に濃い一戦だった。
ただしパラグアイ戦の記事にも書いたように、僕はその事自体を全く否定はしないけれども。
選手の宝庫となってきた関西
ところでこの試合は僕の住む大阪で開催された。
日頃から「サッカーの発展のためには、会場に足を運ぶのが一番大切だ」と主張している僕としては、興行試合だろうがなんだろうが、地元で行われる代表戦に足を運ばないわけにはいかない。
というわけで、この日は仕事を早く切り上げて、いざ、長居へ!
長居で代表戦を観るのは、4月のセルビア戦以来。
まさか大阪で、1年に2回も代表戦が観れるとは思っていなかった。
この2連戦は横浜(関東)と大阪(関西)で1試合ずつ開催されたところを見ても、国内の2大都市圏で代表戦を実施して、ワールドカップの盛り上がりを全国的に継続させたいという、協会側の思惑が感じられる。
そしてこの日のスタメンも、それを色濃く反映させたものとなった。
グアテマラ戰の先発は 11人中、関西出身者が本田圭佑・橋本英郎(大阪)、香川真司(兵庫)、乾貴士(滋賀)、楢崎正剛(奈良)、駒野友一(和歌山)、の6人と、実に過半数を占めた。
「西日本出身」というくくりで考えれば更に長友佑都(愛媛)、槙野智章(広島)、岩政大樹(山口)も含まれるから、何と9人になる。
パラグアイ戦からスタメンがガラッと変わったことを見ても、関西のファンに地元のヒーローたちをお披露目しようという協会側の意図がそこには感じられた。
しかもサブに入っていた岡崎慎司(兵庫)や、この日はメンバーに入っていなかった松井大輔(京都)、稲本潤一(大阪)、さらには新世代の平井将生、宇佐美貴史(大阪)らの存在も考えれば、関西人だけで代表が1チーム作れてしまいそうである。
関西がすでに「サッカー不毛の地」ではないことが、そこからは伺えた。
「ゴール裏」の持つ魔力
ちなみに僕はいつも、試合がよく見えるようにバックかメインスタンドのチケットを買うんだけど、この日はちょっとした勘違いがあって、ゴール裏のチケットを買ってしまった。
そんなわけで、代表戦では初めてのゴール裏観戦である。
この日は仕事の都合もあって、スタジアムに到着したのはキックオフ直前。
着いてみてビビった。
地鳴りの如き大歓声。
長居スタジアムの北側ゴール裏は、すさまじく盛り上がっていたのだ。
ワールドカップの熱気は、どうやら大阪でも全く冷め止んではいなかったようである。
会場全体も、ほぼ満員となる 44,541人の大観衆で埋めつくされていた。
試合そのものは、現時点では充分に満足のいくものだった。
1点は失ったけれども見事な勝利。
森本のゴールは2本ともファインゴールだったし、関西出身の本田圭佑や香川真司も積極的なプレーを見せ、期待に違わぬ活躍ぶりを見せていた。
会場は当然、大盛り上がり。
ワンプレーごとに、青いユニを着たサポーターたちの「ワー!」「キャー!」「うおー!」という歓声がこだまする。
プレーが切れたときでも休まずに、手拍子とチャントを繰り返す。
僕は普段はスタンド席で静かに試合を観る派なので気がつかなかったけれども、ゴール裏というのは確かに、病みつきになる要素がありそうだ。
一種のトランス状態とでも言おうか、周りの目も気にせずに、大の大人が声を上げて応援してしまいたくなるような磁場がそこにはある。
この日も僕と同じように、会社帰りに1人2人で駆けつけたサラリーマン風の方がチラホラ来場されてたけども、10分・15分もすれば、その人たちもサポーターと一緒になって「お〜おっおっおっおー、おっおおー、おおっおお〜!」と歌い出したりしてしまう。1人なのに。
「1人で来てはるのに勇気あるなあ」、と最初は他人事ととらえていた僕も、時間が経つにつれてムズムズしてくるから不思議だ。
後半になるころには、僕も一緒になって「お〜おっおっおっおー、おっおおー、おおっおお〜!」と歌い出していたのは言うまでもない。1人なのに。
う〜んゴル裏の魔力、おそるべし!!
サッカーのもたらした「笑顔」
試合自体は日本が 2-1で勝利を収めた。
競技として細かく見れば、ツッコミどころはいくらでも見つかる試合だっただろう。
DFは何度も裏を取られていたし、パスのコンビネーションにも課題が多かった。
ただ僕は、この試合に限っては個人的には、そういう見方をしなくてもいいのかな、とも思っている。
僕はサッカーファンになって 17年になるけれども、もちろんサッカーの評論家でも専門家でもない。
これでご飯を食べてるわけでもないから、ライターとも全く違う。
ブログを書いてるからブロガーとは言えると思うけども、それも書き始めてまだ半年で、自分自身としてはブロガーだという意識も実はあんまり明確には持っていなかったりもする。
しいて言えば、僕は単なる「サッカー馬鹿」だ。
だから僕がサッカーに求めているものは、至極単純なものである。
たまには小難しいことも書くけども、僕がサッカーに一番求めているものは、「感動」とか「興奮」といった、非常に曖昧で抽象的で在りきたりなものだ。
でも僕自身は、自分の場合はそれでいいのだろうなと思っている。
そしてこの日に長居を埋めた大観衆も、たぶんそのうちの半分以上の人たちは、戦術云々には興味がない人たちだったような気がする。
彼らはただ楽しみたくて、会場に足を運んでいたんではないだろうか。
でも僕は、それはそれでもいいのだろうと感じている。
サッカーは、まず何より楽しむものだと思っているからだ。
ゴール裏のトランス状態の中で、僕は昔たまに行っていたクラブ(踊るほう)の風景を思い出した。
もしくは、音楽のライブにも近いかもしれない。
もっと言ってしまえば、盆踊りにも似ているような気がする。
人間は、他人との一体感を求めている部分がどこかにあるのだろう。
そして音楽がその触媒となって、さらに歌や踊りという形で体現される。
応援歌があって、多くの人に囲まれて、みんなで一つのチームを応援するサッカーというものは、その一体感を求めるには最高のツールだ。
この日のゴール裏の観客たちは、サラリーマンもカップルも高校生たちも、みんな例外なく笑顔で、とても楽しそうだった。
その光景を眺めていたら、それ以上に大切な事は、実は無いんじゃないかという気にもなってくる。
地元のスターたちが間近で見れて、みんなが一緒に盛り上がれて、そして試合にも勝った。
4万人の大観衆は、それだけで大満足だったろう。
だから僕は、この試合に点数をつけるのであれば 100点満点をつけたい。
試合後のスタジアム周辺には、家路につくサポーターたちが列をなしていた。
彼らはみんな、一様に笑顔だった。
帰りの御堂筋線の中では、青のユニフォーム姿の人たちが、またまた笑顔でサッカー談義に花を咲かせる。
僕は大阪で、こういう風景を見れたことが嬉しかった。
サッカーは娯楽だ。
でも娯楽は娯楽でも、これ以上ないほど素晴らしい娯楽だと僕は思っている。
この日に初めてサッカー観戦をした人がいたとしたら、僕は胸をはってこう言うだろう。
「ね、サッカーって面白いでしょう?」
そう、サッカーは面白い。
面白くって楽しくって、たまらなく愛おしい。
この日の試合には、そんなサッカーの楽しさが詰まっていた。
そしてそんな愛すべきサッカーが、みんなを笑顔にしたことが、僕にはたまらなく嬉しかったのである。
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