日本のキーを握る「個」の力/FIFA U-17ワールドカップ2011@日本代表 1-0 ジャマイカ代表

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鈴木武蔵。

この名前の語感から、僕なら真っ先に思い浮かべるのは、ちょっと剣道が強そうな純和風の青年のイメージだろうか。
しかし U-17代表の鈴木武蔵は、その名前から受ける印象とは似ても似つかない。

ジャマイカ人の父と日本人の母を持ち、ジャマイカで生まれた、いわゆるハーフの選手。
ただしその体格と風貌は名前とは裏腹に、むしろジャマイカンに近いだろう。

昨年の AFC U-16選手権では登録の都合でメンバー入りしなかった日本の隠し玉。
その鈴木武蔵が U-17ワールドカップで、いよいよそのベールを脱いだ。

日本を迎える「難関のグループB」

メキシコで開幕した FIFA U-17ワールドカップ 2011。
昨年の AFC U-16選手権を勝ち抜いた日本は、この大会に3大会連続で駒を進めてきたことになる。

ただし今大会、日本の入ったグループBは、非常に厳しい組み分けとなった。

日本とともにグループBを構成する国は、フランス、アルゼンチン、そしてジャマイカ。
このうちフランスは 2001年の同大会での優勝経験を持ち、アルゼンチンは U-17での優勝こそないものの、一つ上のカテゴリーとなる U-20ワールドカップでは、史上最多の6回の優勝を誇っている。

この2チームは間違いなく優勝候補に挙げられるだろう強豪国で、日本はこの世界レベルのチームたちとしのぎを削ることになった。

ただしこの U-17ワールドカップは、フル代表のワールドカップとは異なる点がある。
今大会は 24チーム参加の大会となっており、グループリーグで3位になったとしても、他のグループの3位チームを戦績で上回れば決勝トーナメントに進める可能性があるのだ。
日本はもちろん1位、あるいは2位でのグループ通過を目指すけれども、最悪でも3位に入ってベスト 16入りを果たしたいというのが、とりあえずの現実的な目標と言っていいだろう。

そして3位以上に入るためには、3位争いの直接のライバルとなるジャマイカ戦が鍵となってくる。
今大会で日本は、緒戦でいきなりそのジャマイカと対峙する、「負けたら終わり」の大一番を迎えたのである。

日本の見せた組織力

このジャマイカ戦で日本は、鈴木武蔵と AFC U-16選手権で大活躍を見せた南野拓実という、エース級の FW2人を先発から外してきた。

放送からの情報によると、鈴木武蔵は2ヶ月前のスロバキア遠征で肋骨などを骨折する怪我を負い、南野拓実は昨年の AFC U-16選手権以降は不調に陥っているらしい。
しかし日本の中では突出した能力を持つ2人だけに、この選手起用は2戦目以降に向けての温存の意味合いもあるように僕には感じられた。

そしてこのジャマイカを相手に、日本は序盤からペースを掴むことになる。

日本は昨年の U-16でも、アジアの中ではひときわ高い完成度を誇るチームだった。
その組織力は、こと守備面においては、このワールドカップでも充分に機能する。

日本は中盤のプレスがよくかかり、ジャマイカに満足な攻撃を許さない。
そしてこのチームの最大のストロングポイントは、その堅固なセンターバックの守備にある。

日本のディフェンスラインの中央でコンビを組むのは、ともに 185cmの長身を誇る岩波拓也と植田直通の2人だ。

キャプテンでもある岩波は高い守備力もさることながら、正確なロングフィードからチャンスを創る能力も併せ持った完成度の高いディフェンダー。
一方の植田は中学時代にテコンドーで日本一に輝いたほどの圧倒的な身体能力を持ち、AFC U-16選手権でも、僕個人的にはチームの MVPだと感じたほどの大活躍を見せた。

この2人は将来、もしかしたらそのままA代表でもコンビを組んでもおかしくないほどの逸材だと個人的には思っている。
その岩波、植田のセンターバックを中心に組織的な守備を見せる日本は、試合を通じてジャマイカに大きな隙を見せることは無かった。

ただしその反面、前半の日本は攻撃面で大きな課題を残してしまう。

日本の陥った「機能不全」

組織力があり、テクニックに長けた選手を揃えた日本は、彼らの先輩たちもそうであったように、中盤での構成力では並の相手ならば圧倒するだけの力を持っている。
しかしこの試合の前半の日本は、前線に並んだアタッカーの3人が、ほとんど機能することはなかった。

前半の日本は、登録上はツートップとなる早川史哉と鈴木隆雅が両サイドに張り、その間から中盤の登録となる中島翔哉が前線に顔を見せるような戦術を執る。
キーマンは中央でトップ下、あるいはセンターフォワードのような動きを見せる中島翔哉ということになるのだけれども、いかんせん中島は相手センターバックの厳しいマークにさらされ、その持ち味を発揮することができない。

そして中央の中島が起点を創れないことも影響してか、早川、鈴木隆雅の両アタッカーも、ほとんどの時間で「消えている」ような状態が続いた。

結果的にこの3トップは機能不全に陥り、いくらボールを回せども、ジャマイカの最終ラインを脅かすことができない。
前半に関して言えば、日本の前線の迫力不足は明らかだった。

結局日本はゴールを奪えないまま、スコアレスで前半を折り返すことになる。

この日本代表チームは多くの選手が複数のポジションをこなすことができ、いわゆる「ポリパレント」な能力を持った選手たちが揃っている。
この日に先発のツートップを組んだ早川と鈴木隆雅も、U-16の時はともにサイドバックでもプレーしたほど、こなせるポジションの幅は広い。

しかしそれは裏を返せば、自身に最もフィットする「天職のポジション」を見つけられていないことも意味する。
実際、早川も鈴木隆雅もユーティリティーな能力を持つ好プレーヤーではあるけれども、世界大会でフォワードを張るには物足りない部分も多かった。

前線にも中盤にも器用な選手たちを揃えるけれども、アクの強さに欠ける日本。
本田圭佑たちが口酸っぱく言う「個の力」の面で日本が多くの課題を抱えていることが、図らずもこの 45分間で明白となってしまったのである。

しかし後半、日本は一つの交代によって、その「個」の部分を補完する方程式を見つけ出したのだ。

ベールを脱いだ「隠し玉」、鈴木武蔵

鈴木武蔵は後半開始から、鈴木隆雅に代わってピッチに立った。

183cmの堂々たる体躯。

僕は鈴木武蔵はてっきりセンターフォワードの選手だと思い込んでいたのだけれども、この日の武蔵は左のウイングのポジションに入り、サイドからチャンスメイクに絡むことになる。
そして鈴木武蔵はこの試合で、世界に向けてその存在を強烈にアピールした。

褐色の肌と強靭な肉体。
自らのルーツでもあるジャマイカを相手に世界デビューを果たすという、数奇な運命を持ったこの逸材は、スピード感溢れるドリブルで左サイドをかき回した。

丁寧にパスを繋いで崩していく日本にあっては、明らかに異色の存在。
しかしその鈴木武蔵の異能の才が、前半の日本に欠けていた「力強さ」をチームに吹きこむ。

器用だけれども個性の弱い日本代表の中で、その褐色の弾丸は鮮烈な輝きを放った。

そして鈴木武蔵に引っ張られるように勢いを増した日本が、ついにジャマイカの堅陣を破る瞬間が訪れる。

61分、ディフェンスラインで何本もパスを回した日本は、徐々にボールを前へ前へと運んでいく。
そして秋野央樹からボールを受けた松本昌也から、右サイドをオーバーラップした室屋成へとパスが出る。
室屋がこれを中央へと折り返すと、ここで松本とのワンツーが完成。
その瞬間、松本の眼前にはシュートコースが広がっていた。

松本は冷静にボールをミートすると、この決定機を確実にモノにする。

合計でゆうに 10本を越えるパスを繋いだ、まさに「日本らしい」ゴール。
これが決まって、日本がついに 1-0と均衡を破ったのである。

ただし試合はまだ 30分残っている。
それでも、リードしてからの日本は危なげなかった。

抜群のポゼッション能力で相手にボールを渡さないかと思えば、たまのピンチにもディフェンス陣が落ち着いて対処する。

結局試合はこのまま 1-0で終了。

日本が3位以内の座を大きく引き寄せる、今大会で最も重要なこの緒戦での、貴重な勝ち点3を手に入れた瞬間だった。

日本のキーを握る「個」の力

まずは理想的なスタートを切った日本代表。

しかし、彼らが続くフランス戦、アルゼンチン戦でどこまでやれるのかと考えると、一抹の不安も残る。

今回の日本は中盤に突出した選手がいない。
キーマンはおそらく岩波・植田のセンターバックコンビと、鈴木武蔵・南野拓実のフォワードコンビになるだろう。

組織力をベースに、ここに挙げたキーマンたちがどれだけ「個」の能力を発揮することができるか。
そして相手の「個」を封じることができるか。

小手先のテクニックが通用しない強豪国に対しては、おそらくそれが極めて重要なファクターになるはずだ。
そして後は、気持ちで負けない精神力の戦いになるだろう。

いずれにしても日本には捨てるものは無い。

ビビってやっても世界大会。
向かって行っても世界大会。

どうせやるのであれば思いっきりぶつかって行って、世界の中での “現在地” を、肌で感じてほしいと思う。

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