「このチームは、まるでバルセロナのようです」。
地元メキシコのテレビ中継の中で、U-17日本代表はこのように形容されていたらしい。
確かに、シャビ・エルナンデスやアンドレス・イニエスタのように、縦・横・斜めと自在にパスを繋ぐ日本のスタイルは、バルサのそれを彷彿とさせる。
ただし僕個人としては、この日本代表チームが「U-17版のバルセロナだ」とは思っていない。
それはバルサよりもさらに、このチームに似ているチームを知っているからだ。
「南海の刺客」を一蹴した日本
フランス、アルゼンチン、ジャマイカと組んだグループBを見事に1位で通過した日本。
その甲斐あって、日本が決勝トーナメント1回戦で対戦することになったのは、グループDで3位(実際はアメリカと同率2位で抽選)となったニュージーランドだった。
グループリーグ3試合で2失点と、ディフェンスに定評のあるニュージーランドだけに、立ち上がりは両チームがハイプレスをかけあう展開となる。
しかしそんなゲームが日本のものとなるのに、それほど時間はかからなかった。
試合が進むに連れて、徐々にニュージーランドのプレスをかいくぐり、得意のパス回しを見せるようになっていく日本。
そしてジワジワと、ニュージーランドに攻撃面でもプレッシャーをかけるようになっていった。
そうやって迎えた前半 20分。
右サイドの高い位置でプレッシャーをかけてボールを奪った石毛秀樹が、そのままドリブル突破を見せてからクロスを上げる。
するとこのボールが何とゴールの左上隅に直接突き刺さって、日本が思ってもみない形で 1-0と先制点をあげることに成功したのである。
さらに2分後の 22分には、望月嶺臣の浮き球のスルーパスに抜けだした秋野央樹がゴール前に折り返し、ここに詰めていた石毛秀樹が再びゴールゲットして 2-0。
ニュージーランドはこれまで他のカテゴリーでもそうであるように、体格を生かした堅守を活かしてロースコアゲームに持ち込むことで勝ち上がってきたチームだ。
それだけにこの日本戦でも、とにかくディフェンスに細心の注意を払いながら勝機を見出す作戦を練ってきていたはずだった。
逆に言えば失点を極力抑えなくては、ポゼッション能力の高い日本を相手に勝ち目はない。
そのことを人口400万人の島国に住む彼らは、痛いほどよく理解していただろう。
しかし半ばアンラッキーな形での先制点を奪われた瞬間、若きニュージーランド代表の緊張感は、プッツリと切れてしまったのである。
そしてこれ以降、日本は面白いようにパスを回せるようになっていった。
縦横無尽のパスワークで中盤を完全に支配する日本。
ニュージーランドはディフェンスのポイントを絞れなくなり、日本のポゼッションの前に完全にサンドバックと化す。
32分には松本昌也のスルーパスに抜けだした石毛秀樹のシュートのリフレクションを、早川史哉が詰めて 3-0。
続く 41分にはオウンゴールが決まり、4-0で前半を折り返す。
後半も日本の勢いは止まらず、56分には松本昌也のパスから、左サイドをオーバーラップした室屋成がグラウンダーのクロスを上げ、これを交代出場の南野拓実が押しこんで 5-0。
最後は 80分、秋野央樹のスルーパスから早川史哉が決めて 6-0として、このゴールラッシュを締めくくったのだった。
真の「レジェンド」への条件
完膚無きまでの大勝劇で1回戦を突破し、財前宣之や中田英寿を擁した ’93年大会の「ベスト8」という成績に並んだ日本。
18年前の大会が日本のホームで開催されていたことを考えれば、アウェーで戦う今大会では、名実ともに「日本の史上最強の U-17チーム」になったと言っていいだろう。
ただしこれで、「すわ優勝か!?」と騒ぎ立てるのは、僕はまだ早いと感じている。
「ワールドカップに出てくるチームの中で、弱いチームはいない」と言われる。
それは一面の事実ではあるけれども、だからと言って、全てのチームが同等の実力ではないのもまた真実だ。
ニュージーランドはウズベキスタン、アメリカ、チェコという比較的組み合わせに恵まれたグループDを戦い、そこでアジア3位だったウズベキスタンの後塵を排し、アメリカと同率2位でグループを突破してきたチームだ。
実力的には日本がグループリーグで戦ったフランスなどよりも落ちると考えられ、ゲーム展開に恵まれた部分もあるので、大勝したからと言ってそれを鵜呑みにすることもできない(って、ちょっとひねくれ過ぎでしょうか??)。
アルゼンチンやフランスがそのネームバリューから想像されるほどピリっとしたチームではなかったこともあって、日本は今大会、まだ一度も「真の強豪」とは戦っていないのである。
ただ、次のラウンドで待ち構える相手は、いよいよ本物だろう。
サッカー王国ブラジル。
このブラジルの壁を乗り越えることができれば、日本は掛け値なしに「世界の強豪」の仲間入りを果たす。
そしてその時に初めて、「優勝」の2文字も見えてくるのではないだろうか。
ちなみに僕が、この U-17日本代表チームがバルサ以上に似ていると感じるのは、2010年ワールドカップで優勝したスペイン代表チームだ。
圧倒的なポゼッション能力を誇りながらも、リオネル・メッシや、ロナウジーニョのような極上のアタッカーが居るわけではない。
それでも世界に誇る中盤と、鉄壁のディフェンスラインを武器に、世界の頂点に立った稀有なチーム。
なお、僕は昨年のワールドカップのスペイン代表チームに強さを感じながらも、その前線の破壊力と決定力の物足りなさから「優勝はしないだろう」と予想していた。
もしその時と同じように、今回のU-17ワールドカップでも僕の予想が外れるようであれば。
その瞬間に日本は、いよいよ世界の頂点に立っているのかもしれない。
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