Photo by tallpomlin

『ヤッター!!!!』

そのとき僕が、日本がワールドカップ初出場を決めた時の名解説者・清水秀彦さんのような雄叫びをあげたことは言うまでもない。

そこにさらに、最近覚えたボルシア・ドルトムントのユルゲン・クロップ監督ばりの高速ガッツポーズが加わる。
サッカーファンの喜びの表現も、こうして年を追うごとに進化していくのだ!

ウズベキスタンで行なわれている AFC U-16選手権で、日本は勝った。

そしてこれは、単なる一勝ではない。

ベスト4進出を決めるとともに、来年の U-17ワールドカップの出場権を確定する、記念すべき一勝だったのである。

日本が迎えたタフな相手、イラク代表

先日、兄貴分の U-19代表がアジアで敗れたトラウマから、すっかりナーバスになっていた僕は、この U-16の準々決勝・イラク戦でもかなりの苦戦を予想していた。

そしてその予想自体は、おおむね間違いではなかったように思う。

イラクはタフなチームだった。

キックオフ前に選手が一丸となって円陣を組み、手を繋ぎながらピッチを走る姿からは、イラク代表のこの試合にかける意気込みがヒシヒシと感じられた。

いまだ戦争の傷跡が深く残る母国は、復興の真っ只中だ。

かつて日本が太平洋戦争を経験したあとに高度成長時代を迎えたように、戦争から立ち直るプロセスは、人間の精神力を鍛える効果があると僕は考えている。

もちろん、だからといって戦争を肯定しているわけでは全く無いのだけれども、いまのイラクの人々が、日本人の僕たちよりも多くの修羅場を体験して、強いメンタルを身につけているであろうことは、容易に想像がついた。

そして日本はそのイラクのモチベーションの前に、立ち上がりは押され気味のゲーム展開を許してしまう。

イラクの足技とハイテンションな攻守に、まずは主導権を握られる日本。

ただし、今回の日本も普通のチームではなかった。

初戦のベトナム戦で完璧に近い戦いぶりを見せて、成長著しい新興国に 6-0と圧勝。
今回の日本代表チームの完成度は、歴代の U-16代表チームの中でもかなりのレベルではないかと僕は思っている。

そしてこのイラク戦で日本は、ベトナム戦のチームをベースとしたスタメンを組んできた。

その結果、初戦で見せたあの力強いサッカーが、このイラク戦でも復活することになったのである。

一進一退のシーソーゲーム

先制点が生まれたのは 12分。

神田夢実のスルーパスから早川史哉がシュートを放ち、ここから日本はコーナーキックのチャンスを得る。
ショートコーナーからスローインを得た日本は、この流れから神田がクロス。
これが早川に当たってこぼれたところに、反応していたのはエースストライカー、南野拓実だった。

南野はこのルーズボールを、名前通り巧みなトラップでコントロールすると、その一連の流れから DFラインを突破。
次の瞬間、その目前にはシュートコースが広がっていた。

南野はこれを、冷静に蹴り込んでゴールゲット。

セレッソ大阪U-18所属、「ナニワのプリンス」の得点で、日本がまずは貴重な先制点を手に入れた。

しかし、イラクもその勝利への執念を見せつけるのに、そう時間はかからなかった。

日本の先制点からわずか6分後の 18分。

イラクは日本ゴール前での細かいパス交換から、中央突破を狙ってくる。

そしてイラクのトリッキーなパスに、日本の守備の要・植田直通が珍しくマークのミスを冒した。
植田の一瞬の遅れから裏に抜けだしたイラクのエースストライカー、ハッサン・アルフアディが、ゴールキーパーと1対1に。

これを決められて、日本が早々に 1-1となる同点弾を許してしまう。

2点を先制しながら逆転負けを喫した、U-19の苦々しい記憶が脳裏をよぎる。

実際、イラクは非常に良いチームだった。

特に中盤でのパス回しは巧みで、その崩しに日本は何度もヒヤリとする場面を作られる。

ただしイラクは、ひとつ大きな問題を抱えていた。
それはディフェンス面、特に中央の守りである。

イラクのセンターバック陣は、日本の速くテクニカルな攻撃に対応できず、あっさりと中央突破を許す場面が頻繁に見て取れたのだ。

この同点ゴールの直後にも、神田夢実のスルーパスから南野拓実が中央を突破して GKと1対1になる場面があったけれども、これは惜しくもゴールポストに嫌われる。

しかし得点への手応えを感じながら、試合は後半戦を迎えることとなった。

日本の乗り越えた難局

しかし日本は後半立ち上がり、立て続けにピンチを迎えてしまう。

1度はゴールキーパー、中村航輔が飛び出した間隙を狙われ、また1度はゴールマウスを捉える強烈なミドルシュートを浴びる。

地力のあるイラクの猛攻は、後半も難しいゲームになることを予感させるものだった。

それでもそんな中、均衡を破ったのはまたも日本。

54分、センターバックの岩波拓也からのロングフィードに、抜け出したのは右サイドバックの川口尚紀。

右サイドをえぐった川口は強引な突破でイラク DFを抜き去ると、そこからゴール前へグラウンダーのクロスを送る。

イラク GKと DFの合間をすり抜ける絶妙なクロスは秋野央樹にピタリと合って、これを押しこんだ日本が 2-1と再びリードした。

ちなみに今大会の日本のレギュラー4バックは、全員が代表チームでアタッカーからコンバートされた選手だそうだ。

岩波拓也と川口尚紀、2人のディフェンダーを起点に生まれたこのゴールは、足技の巧みな選手たちを “攻めれて・守れる” ディフェンダーへと鍛え上げた吉武博文監督の、隠れたファインプレーだったとも言えるだろう。

難敵イラクを相手に2度目の主導権を握った日本。

しかしイラクも、予想通り反撃に転じてくる。

球際の強さとキープ力を活かした猛攻を仕掛け、再三日本のゴール前へと迫るイラク。
その勢いに圧倒され、バタつく日本の DFライン。

再び同点劇が繰り返されるのか ーー。

そんな恐怖が日本を襲った。

しかし 64分、ひとつのプレーがその悪い流れを断ち切ることになる。

交代出場で入った石毛秀樹のミドルシュートがイラクゴールを襲うと、ここから試合の流れは変化を見せた。
これをきっかけに、再び日本は攻撃のリズムを取り戻していく。

守備でも落ち着きを取り戻して、イラクの攻撃にも冷静に対処ができるようになっていった。

そしてその好リズムの中、決定的な3点目が生まれる。

75分、中央でのパス交換からワンツー気味に DFラインを突破した南野拓実が、またも GKと1対1に。

南野の放ったシュートは GKの脇を抜けて、イラクのゴールに吸い込まれたのである。

これで 3-1。

その後イラクも再び攻めこんでくるものの、安定感を取り戻した日本のディフェンスラインは、センターバックの植田直通、岩波拓也の2人を中心にゴール前に鉄壁の堅陣を築く。

けっきょくイラクにそれを割らせないまま、試合終了のホイッスル。

日本が難敵イラクを退けて、悲願の U-17ワールドカップ出場権を手に入れたのである。

日本代表が手に入れた、悲願のワールドカップ出場権

試合後の日本の選手たちは、喜びと言うよりも安堵の表情を浮かべていたように見えた。

非常に難しい相手だったイラクとの死闘をくぐり抜けて、ワールドカップの出場権を得た実感が、初めてアジアを突破した若者たちには、まだ湧いてきていないようにも思えた。

その傍らには対照的に、敗戦に泣き崩れるイラクの選手たちの姿があった。

オールドファンにとって、「イラク」と聞いて思い出されるものの一つが、93年のアメリカワールドカップ予選『ドーハの悲劇』での敗戦だけれども、あの時の日本代表が見せた涙と同じくらい、重い涙がそこにはあった。

イラクの選手たちにとって、この試合はそれほどの重要性を帯びた試合だったということだろう。

彼らは自分たちのためだけでなく、復興を目指す「母国」を背負って戦っていた。

その夢は今回は破れたけれども、これをバネに、さらに良い選手へと成長していってほしいなと思う。

ともかく、日本は勝った。

初戦から見事な戦いぶりを披露していたサムライたちは、この修羅場でも素晴らしいほどの逞しさを見せつけたのだ。

そして彼らはこれで、いよいよ海を渡ることになる。

来年、U-17ワールドカップが行なわれる地はメキシコ。

中米のサッカー大国でも、若きサムライたちは素晴らしい戦いぶりを披露してくれることだろう。

そして忘れてはいけないけれども、この大会もまだ終わってはいない。

ここまできたら、目指すはもちろんただ一つ、アジアの頂点だ。

残るチームは、どこも強豪ばかり。

決して簡単なミッションではないだろう。

しかし、今の彼らであればやってくれるはずである。

それだけのポテンシャルを、このサムライたちは間違いなく、持っているはずなのだから。

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