同級生だった女の子と久しぶりに再会したら、見違えるほど綺麗になっていた ー。
恋愛マンガにありがちなこのシチュエーション、皆さんは現実で体験したことはおありだろうか?
ちなみに僕は逆パターンなら何度か経験がある。
学生時代はあんなに可愛かった子が、同窓会で再開した時には疲れた主婦になっていた ー。
三十路を過ぎると、”サプライズ” とは現実の厳しさを突きつけられたという事と同義語になってくるのだ。
しかし今、そんな衰えとは無縁の、伸び盛りのティーンエイジャーたちが世界の舞台で戦っている。
U-20女子ワールドカップ。
FIFAワールドカップの興奮も覚めやらぬ中、「世界一の少女たち」を決める大会がドイツで開幕したのである。
進化した末恐ろしい才能、岩渕真奈
彼女を初めて観たのは2年前だった。
2008年の第1回 U-17女子ワールドカップ。
この大会で、チーターよりも速いスピードでピッチを駆け抜けた少女は、15歳にして大会のMVPに選ばれた。
このとき以来、僕は女子サッカーに興味を持つようになった。彼女はそのきっかけを与えてくれた選手でもある。
その選手の名前は、って?
もちろん未来の女子サッカー界を背負って立つスーパーガール、岩渕真奈サンです。
この2年間で岩渕真奈はA代表にデビューし、所属する日テレ・ベレーザの 10番となり、メディアからも引っ張りだこで取り上げられるようになった。
たぶん彼女自身から見える視界も、2年前とは激変したことだろう。
かつてはヤンチャで少年のようにも見える “小猿ちゃん” だった表情も徐々に変化して、まだあどけなさを残してはいるものの、だんだんと大人の女性へと近づいてきたようにも思える。
そんな岩渕がこの2年でどれほど成長したのか?
再び世界と対峙した時、どれほどの違いを見せつけることができるのか?もしくはできないのだろうか?
U-17では無双のプレーぶりで「神の領域」に達していたそのスピードとテクニックが、より上のカテゴリーでも通用するのかどうか。
この大会はそういう意味で、岩渕にとって試金石となる大会だと僕は見ている。
そして僕にとっての、この試合の最大の焦点もそこにあった。
結論から言うと、2年ぶりに世界大会で観た岩渕は、相変わらず「神」だった。
正直なところ、試合前には僕は、岩渕は2年前よりは苦戦をするのではないかと予想していた。
U-17の年代から U-20の年代にかけて、対戦相手となる選手たちのフィジカルは大きく成長しているはずである。
一方、2年前から身長も体重もほとんど変わっていない岩渕は、フィジカル面でハンデを背負うのではないかと考えていた。
また岩渕自身も、A代表でもベレーザでも思うようなプレーができず、伸び悩んでいる時期だったということもある。
そして何より2年前と比べて、岩渕への注目度が俄然高まっていることが大きい。
無名の存在だった U-17当時と違って、今や世界の女子 U-20年代の関係者で、岩渕の名前を知らない者はいないだろう。
気がつけば世界中の DFからマークされる存在となった岩渕真奈。
その包囲網をかいくぐって世界大会で活躍するのは、かつては同世代で世界ナンバーワンになった彼女といえども、簡単なミッションではないと思われたのである。
しかし “ドリブル天使” の成長ペースは、僕の想像を遥かに上回っていた。
この試合で観る岩渕真奈は、最近までの伸び悩みが、単なる悪い夢だったかのように感じられるほどキレキレだった。
代名詞であるドリブルの切れ味は健在。
そしてそれ以上に目を引いたのが、スルーパスのセンスが飛躍的に向上していたことである。
岩渕は、自分がキツいマークに遭うことを予測していたのではないだろうか。
そして、それに対する対策を既に準備していたのだ。
ドリブルで突破しようとする岩渕を、メキシコ DF陣は当然のようにマークしてきた。
しかし岩渕は彼女に集中したマークの裏をついて、2~3人の DFを引きつけたところでフリーになった味方にスルーパスを通す。またはドリブルに行くと見せかけて、少し外したタイミングからスルーパスを通す。というプレーをかなりの頻度で披露していた。
そしてそのプレーは特に前半、見事なまでに決まり、決定的チャンスを何度となく演出していたのである。
岩渕のドリブルの威力は、世界中が知るところだろう。
当然相手はそこを潰しにかかる。
しかし岩渕がさらに、その裏をかくスルーパスを身につけてきたとあっては、相手としては DFの際の的を絞れない。
マークにはつくものの、ドリブルを警戒して激しく体を寄せられない。
かと思って多少距離を空ければ、そのスペースを利用してスルーパスを通される。
この二刀流のアタックに、メキシコは完全に翻弄されていた。
僕がもしこの試合で初めて岩渕を見たのだとしたら、「なんだこの子のプレーは!?ありえねー!!」と思っただろう。
幸いその衝撃は2年前に体験していたのだけど、それでもこの試合で僕は、岩渕真奈の「進化」というまた新しい衝撃を受けた。
天才と呼ばれるプレーヤーたちでも、得意なプレーを封じられた時には、そこで伸び悩んでしまう選手たちも少なくはない。
むしろその挫折を乗り越えられずに、消えてしまう選手たちのほうが多いくらいかもしれない。
しかし岩渕真奈は、その壁をあっさりと乗り越えてみせた。
いや、もしかしたら人知れず悩み苦しんだ時期もあったのかもしれない。
それでもそれを感じさせないあたりが、彼女が並外れた天才であることの証左である。
正直この日のプレーは、もともとファンだった僕からしても、岩渕真奈の才能を改めて見直すほどのものだった。
これだけ引き出しが多く、しかもそれをあっさりと見につけてしまえる(ように見える)選手は、男子の世界にもそうザラにはいないだろう。
もしかしたら岩渕真奈は、ファンの僕たちが思っている以上の才能の持ち主なのかもしれない。
この試合の岩渕はパサーとしての活躍が目立っていたけども、得意のドリブル突破も随所に披露していた。
そして試合終了間際には、同点ゴールとなる起死回生のミドルシュートも決めている。
まさに八面六臂の大活躍。
信じられないことに、これでまだ 17歳なのである。
これほど注目されながらも、未だに底が見えないその才能。
僕は「末恐ろしい」とは、この選手のために作られた言葉なのだという新しい事実を知った。
劣勢を追いついたヤングなでしこ
試合そのものはといえば、岩渕を中心にして攻める日本が全般に主導権を握る展開。
そして前半 19分、岩渕の左サイドのドリブル突破から加戸由佳がつぶれたこぼれ球を、高瀬愛実が豪快に叩き込んで日本が先制する。
しかしその後はメキシコのカウンターを浴び、主に日本の左サイドを崩されて3失点。
メキシコは前線に突破力のある選手を揃え、カウンターからの個人技で強引にゴールを狙いに来た。
そういったガツガツ来るスタイルには不慣れであろう日本の DF陣は、失点シーンでは混乱しているようにも僕には思えた。
日本も岩渕の創造的なプレーから何度も決定的チャンスを作ったものの、メキシコの15歳の GKサンティアゴの神がかり的なセーブにも阻まれて、前半はけっきょく 1-3の劣勢で折り返す。
しかし後半、CKからのオウンゴールで1点を返すと、エースの見せ場は試合終了間際に待っていた。
88分、バイタルエリアでボールを受けた岩渕はショートドリブルを挟んでスペースを作ると、右足を一閃。
これがこの日は大当たりだったサンティアゴの壁を破り、メキシコのゴールに突き刺さったのである。
規定年齢より3歳若い大エースの一発で、日本は難しいゲームを辛くも同点で終えることとなった。
岩渕真奈の持つ課題
試合自体は、ハッキリ言って日本の勝ち試合だった。
にも関わらず、決定機を何度も外した挙句にカウンターから2点をリードされ、試合終了間際に何とか追いつく苦しい展開。
ドラマチックと言えばドラマチックだったけれども、この試合で勝ち点2を失ったことは決して褒められた話ではないだろう。
この後、グループリーグではナイジェリアとイングランドとの対戦が待っている。
どちらもメキシコと同等かそれ以上の強豪と見られるだけに、最悪の事態はまぬがれたとはいえ、正直なところこの試合で勝ち点3を奪えなかったのは痛かった。
ただ、内容で負けていなかったのは事実なだけに、フィニッシュの精度とカウンターへの対応という2つの課題を修正することができれば、日本は残り2戦を連勝できる力はあると見ていいだろう。
そしてそのキーマンとなるのは、間違いなく岩渕真奈である。
岩渕がこの日に見せたのと同じような無双の大活躍をナイジェリアやイングランド相手にも実践できれば、勝機は開けてくるだろうと思われる。
ただ、もちろんその岩渕にも課題がないわけではない。
一番の課題は決定力であると僕は思う。
見事な同点ミドルを決めたとは言っても、それ以上の数の決定機を、前半の岩渕は外していた(まあ、チャンス自体は本人が作ったものだったりするんだけども)。
そして前半でキッチリ加点しておければ、この試合は勝てていたはずである。
結果的に勝てなかったということに対しては、厳しいけれども岩渕がこのチームにおける絶対的なエースである以上は、その責任を負わなければいけないだろう。
あとこれは強いて言えば…というレベルの話だけれども、個人的にはもう少し単独での勝負を仕掛けてもらいたかったようにも思う。
もちろん、的確な状況判断でパスを選択し、そこからビッグチャンスが生まれた事も多々あったので一概にそれが悪かったとは言えないのだけれども、周りを使おうとし過ぎるがあまり、自分で突破を狙える、またはシュートを打てる場面でもそうしなかった場面も何度か散見されていた。
ただ本田圭佑も言っているとおり、世界で認められるには何と言ってもまず「ゴール」である。
自分で突破して、自分でゴールを狙う。
岩渕はその難易度の高いプレーを実践する能力を持つだけに、もっとそこで勝負して欲しかったという気持ちも、僕の中ではちょっぴりあったのも事実だったのである。
岩渕真奈、その進化の最終ステージへ
しかし僕が思うに、岩渕はいま成長段階の「第2ステージ」に突入した時期なのではないだろうか。
つまり、その最大の武器であるドリブル突破に目覚め、それに磨きをかけたのが第1ステージ。
さらにいま、そのドリブルという武器を逆手にとって、相手の裏をかくパスセンスを身につけて行っているのが第2ステージ。
そして最終の第3ステージでは、人を使うというオプションを身につけた上で、再び単独突破と得点力を磨き抜いていくのではないだろうか、と僕は思っている。
例えるなら、これまでは昆虫で言えば幼虫の段階、「スーパー幼虫ちゃん」である。
そしていま彼女は、「スーパーサナギちゃん」へと進化した。
ちょっとあんまりなネーミングじゃないかと感じるその気持ち、よく分かります。
しかし安心していただきたい、サナギの後には彼女は、華麗に舞う蝶へと進化するのである。
蝶のように舞い、蜂のように刺す。
まさに彼女のプレースタイルにぴったりじゃあないか!
ただもちろん、この成長プロセスは僕の妄想に過ぎないし、選手の成長はそんなに大雑把に分類できるものでもないのだろうけど、何となく僕はそんな気がするのである。
ともかく岩渕真奈という計り知れない才能が、いまだに成長を続けていることは間違いない。
女子だから・男子だからということは関係なしに、これほどまでに観客を楽しませられる選手がいることを、僕はサッカーが好きな人もそうでない人にも、全ての人に知ってもらいたいと思う。
岩渕真奈は間違いなく、それだけの価値のある選手である。
そして僕は日本にこんな選手が出現したことを、そしてその成長をリアルタイムで目にすることができる幸福を、これからも楽しんでいきたいと思う。
それがきっと、岩渕真奈という「天からの贈りもの」を授かった僕たちに与えられた、最高の喜びになるはずなのだから。
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