ワールドカップは 32ヶ国が参加して行われるトーナメントである。
そのために各大陸で予選が行われているわけだけども、強豪国の全てが順当に本大会に勝ち上がってくることはほとんど無い。
必ずと言っていいほど、大陸予選で多少の波乱が起こるのが普通だ。
そしてこの南アフリカ大会でも、いくつかの有力国が予選を突破できなかった。
僕の中でその筆頭株がロシアである。
かつてオランダ代表や韓国代表をワールドカップのベスト4に導いた名将、フース・ヒディンクが指揮をとったロシア代表。
僕が「ヒディンク・ロシア」を初めて観たのは2年前のユーロ2008の舞台だった。
テクニカルなパスサッカーを実践したスペインの優勝が話題をさらったこの大会。
しかし、僕にとってはスペイン以上に衝撃を受けたのがロシアである。
スペインに比べれば無名の選手の集団だったロシア代表。
選手個々のテクニックレベルも比べるべくも無い差があった。
しかしヒディンクによってアタッキング・フットボールの組織を植え付けられたロシアは、サイドバックまでがウイングのようにガンガン攻め上がり、フィールド全体を使った攻撃サッカーで快進撃を見せる。
けっきょく準決勝でスペインに敗れたけれども、無名集団の見せたアグレッシブなサッカーは、スペインに負けないだけの強烈なインパクトを残した。
そしてロシアは、今大会でも僕が最も観たかったチームの一つだったのである。
しかし、ロシアはワールドカップ予選のプレーオフでまさかの敗退を喫し、南アフリカでロシアを観るという僕の願望は叶わぬ夢となった。
そのロシアをプレーオフで破り本大会に駒を進めたのが、この試合に登場したスロベニアである。
大舞台で実現したマイナー国対決
メジャー国が予選で敗退すれば、その代わりに本大会に登場するのは、どちらかと言うとマイナーな国ということになる。
スロベニアと聞いて、その国の概要をサラッと答えられる日本人は多くはないだろう。
スロベニアはイタリアとクロアチアに挟まれた地域にある、いわゆる「旧ユーゴスラビア」の国である。
人口は約 200万人で、栃木県とほぼ同じ人口規模の小国だ。
ちなみに僕も Wikipediaで調べてからでないと、こんなことはスラスラ答えられなかったりもする。
そんな国が人口約 1億4,000万人の大国ロシアを沈めたのだから、サッカーは分からないものである。
しかしそんなマイナー国を拝めるのもワールドカップの楽しみの一つだろう。
ちなみにスロベニアは8年前の日韓大会にも参加していたけれども、このチームがわずか8年で再びワールドカップの大舞台に登場したのは小さな驚きだった。
対するアルジェリアは、フランスの英雄ジネディーヌ・ジダンがルーツを持つ国として名高い。
アルジェリア移民2世のジダンはフランス代表でプレーしたけれども、現在の代表チームにはその逆に、フランスで生まれ育ちながらアルジェリア代表を選んだ選手も少なくない。
しかしそのアルジェリアもワールドカップは 24年ぶりということで、世界的にはマイナー国の域を出ないだろう。
この試合は、そんな馴染みの薄いマイナー国同士の対戦となった。
勝負を分けた「不規則なバウンド」
この両チームはマイナー国とは言え、選手たちはイタリア・ドイツ・フランス・イングランドのようなメジャーリーグでプレーしている選手が多い。
それだけに思っていたよりもテクニックレベルも高く、パス回しも上手いという印象を受けた。
DF陣にも屈強な選手が揃っていて、簡単には崩されないというイメージである。
しかし両チームともに、攻撃に変化をつけられるような「違いをつくれる選手」に乏しくて、攻撃は単調なプレーに終始した。
こういう展開になってくると、なかなか守備は崩れない。
試合は 0-0 のまま展開し、スコアレスドローも見えてきた 79分、ここで事件が起こる。
スロベニアのロベルト・コレンが放ったシュートは、アルジェリアGKファウジ・シャウシの手前でワンバウンド。
するとシャウシがこれを後逸してしまい、シュートはサイドネットに突き刺さった。
イングランド戦に続いて、今大会早くも2度目となる、GKのミスによる失点。
今大会の公式球「ジャブラニ」は軽すぎて不規則な変化をするということで、大会前から各国GKを中心に批判的な声が多かった。
その不安が早くも露呈してきた形である。
この試合の失点シーンも、シャウシのポジショニングミスもあったけれども、手前で予想外のバウンドをしたことも失点を生んだ要因の一つだったろう。
運命を左右する「運」の存在
この「マイナー国対決」を制したのはスロベニアだった。
対するアルジェリアは、アメリカに勝ったとしてもイングランド相手に引き分け以上の結果が求められる、非常に苦しい状況に追い込まれた。
両チームの明暗を分けた「不規則なバウンド」。
そんな運に恵まれたかどうかも、ワールドカップを勝ち抜くための、大きなポイントの一つになってくるのだろう。
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