僕らが岩渕真奈から与えられているもの/なでしこリーグカップ・Bグループ@日テレ・ベレーザ 4-4 INAC神戸レオネッサ

東海道線に乗って向かったのは平塚だった。

実家のある関東に帰省をしたこの週末。
日曜日に足を運んだのは、日テレ・べレーザの試合である。
お目当ては言うまでもなく、小さな天才・岩渕真奈選手。

関西ではなかなか観る事のできないそのプレーを観に、今回は平塚競技場に足を踏み入れた。

湘南ベルマーレのフラッグ02@日テレ・ベレーザ VS INAC神戸_201008

地域密着の進む平塚の街

横浜出身の僕にとって、平塚は同じ出身県内の街である。
でも僕はこれまで、平塚には2回くらいしか行った事がない。

湘南エリアの中央に位置するこの都市には、海もあるし、有名な七夕祭りもある。
それでも夏を過ぎると、平塚の街は「店じまい」。
とりたてて何もない住宅街に様変わりしてしまう。

久しぶりの平塚は、相変わらずのんびりした街だった。

湘南ベルマーレのフラッグ03@日テレ・ベレーザ VS INAC神戸_201008

そこそこ栄えている駅前。
でも少し歩くと、シャッターの閉まった百貨店と、シャッターの閉まった店の並ぶ商店街が続く。
嫁さんの地元の和歌山に、よく似ているなと思った。
典型的な地方都市の風景である。

荷物が多かったので、駅構内のコインロッカーに預けようとした。
ロッカー脇の地べたで、どこかのオッサンが大の字になって昼寝をしていた。
なかなか都心の駅ナカでは見られない、ダイナミックな光景である。

外に出ると今度は別のオッサンが、餌に群がるハトの群れを「ふん!!ふん!!」という鼻息とともに、うちわで追い払っていた。
何か現状に不満でもあるのだろうか。
ちょっとしたカルチャーショックを感じるくらい、平塚の街はくたびれていた。

でもそんな平塚にも、誇れるものができたようである。
湘南ベルマーレ。

湘南ベルマーレのフラッグ01@日テレ・ベレーザ VS INAC神戸_201008

駅から競技場に向かう道すがら、アーケードの脇にはベルマーレのフラッグがズラリと並ぶ。
さらに歩道に目をやると、ベルマーレのマスコット「キングベルI世」が描かれたタイルが、ちょくちょく設置されていたりもする。

キングベルI世@日テレ・ベレーザ VS INAC神戸_201008

僕は7~8年前にもベルマーレの試合を観に来たことがあったのだけど、その時は今ほど街を挙げて応援するようなムードは感じられなかった。
地域密着は確実に進んでいるようだ。

と、ここで一つの疑問が。

なぜ平塚で、東京をホームタウンにするべレーザのホームゲームが開催されるのだろう?

確かになでしこリーグでは、神奈川県をホームにするチームはない。
べレーザの選手にも、大野や永里などこの周辺地域の出身者も多いので、全く縁がないというわけでもない。
それにしてもである。

べレーザがヴェルディの妹分であることは、女子サッカーに興味がある人なら誰でも知っている。

既にベルマーレが強力に根を張っている土地にライバルチームの妹分が出かけて行って、ファン層を開拓できるとフロントは本気で思っているのだろうか?
むしろ、本来の地元である東京のファンを失うというリスクのほうが大きいのではないのか。

Jリーグでもかつて、横浜マリノスや鹿島アントラーズなどが、東京のファンの開拓を狙って必要以上に国立でのホームゲームを開催し、白けた地元ファンを流出させてしまった過去がある。

なぜ何年も前に結論付られた過ちを繰り返そうとするのだろうか。
再建する気なら、まずそこから始めるべきじゃないか?といらぬ心配をしてしまった次第である。

8点が入った乱打戦

そんな事を考えながら歩いていたら、会場に到着。

入口の横ではヴェルディのイヤーブックを販売していた。
岩渕真奈と高木俊幸の「美男美女対談」が載っていると話題になっていたけれど、大阪在住者にはなかなか入手機会のなかった幻の一冊。
ここは迷わずゲットする(もちろん 1,000円は払いましたよ!)。

試合開始までの間、イヤーブックに目を通す。
高木俊幸クン、イケメンでスカしてそうな印象だったけど、意外と気合いの入った奴じゃん。
ぶっちーの素朴な人柄もよく出ていて、なかなか好印象な記事だった。
その中で目を引いた、新しい岩渕語録をいくつか発見。

「(注目されることは)怖いですよ。いつ誰に見られてるか分からないですもん。」
「(プレーについて家族から)いろいろ言われるのは嫌かな。」
「(高木俊幸が「文章が好きじゃない」、というのを受けて)うちも字が苦手(笑)。」

なるほど。ここでちょっと我が身を振り返ってみる。

→「テレビやスタジアムでそのプレーに注目し(怖いですよ)」、
→「プレー面の課題などを偉そうに指摘し(いろいろ言われるのは嫌かな)」、
→「それをブログなんぞに書いてしまう(字が苦手・笑)」、
僕のような人間は……

うん、ちょっと胸が苦しくなってきたところで、イヤーブックを閉じる。
そんなこんなで試合開始だ。

岩渕真奈・入場@日テレ・ベレーザ VS INAC神戸_201008

ちなみに僕は岩渕ファンなのでべレーザを応援しているけど、なでしこ一部リーグ唯一の関西のチーム、INAC神戸も同じように応援している。
だからこの試合は中立の目線で観戦をすることにした。

試合前の整列@日テレ・ベレーザ VS INAC神戸_201008

試合は立ち上がり早々、べレーザの先制点で幕を開ける。

南山千明のスルーパスから岩渕真奈が抜け出し、中に折り返したところを大野忍がゲット。
ぶっちーは見事にアシストを記録。自分でも打てたんでは?とも思ったけれど、ゴールになったのでオッケーだろう。

岩渕真奈・アシスト後@日テレ・ベレーザ VS INAC神戸_201008

ただその5分後、INAC神戸も小川志保のゴールですぐに同点に追いつく。

しかしべレーザは 43分、再び大野がゲット。さらに前半ロスタイムのオウンゴールもあって、2点をリードして折り返した。

後半、INACは立ち上がりから髙瀬愛実を、58分には中島依美を投入。
2人とも U-20ワールドカップで岩渕と共に戦った戦友だけども、この交代がズバリ的中する。

まずゴール前で得たフリーキックを、INAC神戸の那須麻衣子が直接決めて1点差。
そして極めつけは3点目。
中島のスルーパスからラインの裏に抜け出した高瀬が、GKと1対1に。
これを GKの頭上を越えるループシュートで冷静に決めて、INACが再び同点に追いついた。

しかしべレーザも、リーグ戦首位の意地を見せる。
ゴール前の混戦から近賀ゆかりが執念の勝ち越し弾を入れて、残り4分でベレーザが3たびリードを奪う。

しかしこの日のINACの粘りは、半端ではなかった。
89分、執念を執念で返す川澄奈穂美の同点弾。

3度許したリードを3度追いつくという滅多に見られない展開で、INACが土壇場でドローに持ち込んで試合は終了した。

岩渕真奈・試合後@日テレ・ベレーザ VS INAC神戸_201008

挑戦を続ける岩渕真奈

両チーム4点を奪い合う乱打戦。
試合自体は、いわゆる大味なゲーム展開だった。
女子の場合こういう試合になることが多いのは、男子に比べてスペースが広い上に、GKの体格的にゴールマウスも広くなるからだろうか。

ただそれでも、両チームの最後まで諦めない精神力は見応えのあるものだった。

個人的に光っていたように感じた選手は、2得点の大野はもちろんだけど、べレーザでは南山、INACでは川澄。
南山選手は以前から注目していたんだけど、華奢ながら実にクレバーでテクニカル。
僕の好きなタイプの選手である。

ちなみに岩渕真奈選手はどうだったのだろうか。
アシストも決めたし、個人的には悪い出来ではなかったと思う。

ただ、U-20のメキシコ戦のような大活躍を目の当たりにした後では、どうしてもその最高のパフォーマンスと比べてしまう。
その意味では、本人もこの日のプレーに満足はしていないだろう。

試合後のピッチには、一人うつむいて頭を掻きながら、トボトボ歩く岩渕の姿があった。
神戸で観たときには笑顔が見られた試合後だけど、この日は不機嫌そうにロッカールームへと消えていった。

岩渕真奈の苦悩@日テレ・ベレーザ VS INAC神戸_201008

心理的には、ほぼ負けに等しい引き分け。
ノーゴールに終わった自身のプレー。

色々な悔恨の念が頭をよぎっていたのだろうか。
U-20も含めて、いつしか岩渕の苦悩する姿に「慣れ」を感じるようになってしまった。

ただ、相手の激しいマークにも腰を落としてボールキープするような、体を張ったプレーも目立ってきたように思う。
本人が必死で殻を破ろうとしている姿は、この試合からもヒシヒシと伝わってきた。

ちなみに、この試合の数日前にはベレーザの練習を見にいった。
真緑の芝が生えそろったグラウンドが4面。
初めて見るよみうりランドの施設は、ビックリするぐらいに立派だった。

考えてみれば、かつては男子も女子も国内で無敵を誇ったチームを輩出した練習場。
立派なのは当たり前なのだけど、それにしても。
ヴェルディ/ベレーザが無くなる云々以前に、こんな立派な練習場を使わないまま放置することは想像がつかない。
それこそ日本のサッカー文化にとっての損失だと思った。

ここでも岩渕は、練習中から激しい当たりを受けながらも、ボールに食らいついていた。

僕たちが与えられているもの

平塚競技場からは、まっすぐ駅まで帰った。

岩渕真奈の苦悩する背中を見たからか、それとも小雨がパラツキそうになってきた曇天の空模様のせいか。
なぜか気分が晴れなかった。

駅のロッカーに着くと、さっきのオッサンがまだ寝ている。
でも傍らには、3時間前には無かったコンビニの寿司とワンカップ。
何かお祝い事でもあったのだろうか。

電車の中で試合のことを思った。

岩渕真奈が苦悩から解き放たれた姿を見れるのは、いつの日になるのだろうか。

周りからはいろいろ言われているだろう。
僕を含むファンたちも、各々が好き勝手なことを至るところで口にする。

「怖いですよ。」

インタビューでの岩渕の言葉が頭をよぎる。

みんな岩渕真奈に期待している。
期待するから、苦言も呈す。
でも冷静に振り返れば、相手はたった 17歳の高校生なのである。

自分が 17歳の時、どんな人間だっただろう。
僕の場合は、恥ずかしくて振り返りたくもない。
今よりもっと怠惰で、生意気で、ネガティブなどうしようもない奴だった。
自分の欠点を自覚しながら、それを他人のせいにばかりして、逃げてばかりいた 17歳の頃。

でも同じ年齢の岩渕真奈はいま、周囲の雑音を 360度から浴びながらも、必死で自分自身の限界に挑戦しようとしている。

同時に、スター選手にしか味わえない、一種の孤独感とも戦っているのではないだろうか。
自分が 17歳の頃には考えられなかったことだ。

今の自分はどうだろうか。

車窓から湘南の海を見ながら、僕はその答えを探した。

横浜で乗り換えて、新横浜で新幹線を待った。

次の日からはまた仕事だ。
学校は夏休みだから、ぶっちーは体を休める時間があるだろう(でも練習はあったみたいだけど)。
それでも、苦悩の日々から開放されるわけではない。

自分も頑張ろう。

ふとそう思った。

17歳の少女が自分の課題と向き合いながら、もがき苦しんでいる。
僕には当然、それを助けることはできない。
そして置かれている立場も、取り組んでいる仕事もまるで違う。
でもせめて、自分の人生を、同じくらい頑張ることはできるはずだ。

僕が岩渕真奈について語り続けようとする以上は、せめて彼女に負けないくらい、毎日自分の課題と向き合い、努力をしようと思った。

30過ぎの男が 17歳の女の子に、すっかり触発されてしまった格好である。
情けない限りだけど、それでも僕は岩渕真奈に感謝した。

岩渕真奈・プレー中@日テレ・ベレーザ VS INAC神戸_201008

イヤーブックに書かれた「字が苦手」の言葉。
当然、このブログなんぞを本人が読むことはないだろう。

でもあえて書きたいと思う。

岩渕はいま苦しんでいるのかもしれない。
それでもチャレンジを続ければ、きっと壁は乗り越えられるはずである。

そしてその挑戦する姿を見て、感動したり勇気をもらっている人たちもいる。
そのみんなが、岩渕真奈に感謝していると思う。
彼女が挑戦し続ける限り、彼らは岩渕真奈を応援するだろう。

だからあなたは、決して一人ではないのだと。

迷惑なファンのおせっかいかもしれない。
でもそういう人たちの存在が、どんな形であっても、いつか本人の力になってくれればいいなと思う。

故郷の駅のホームで、そんな事を思った。

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