チリと言えば「細長い国」という印象が強いだろう。
僕も昔は、チリといえばそういうイメージだった。

そのチリは、サッカーの世界では南米の中堅国として知られている。
かつてはレアル・マドリードでリーグ得点王に輝くなど、世界的なストライカーとして活躍したイバン・サモラーノのような有名選手を輩出した国でもある。

ただ、今のチリ代表にはサモラーノほどのビッグネームは見当たらない。
南米予選をブラジルに次ぐ2位で通過した実力派のチームだけども、あまり情報がなくイメージの湧きにくいチーム。
それが大会前の、僕のチリに対する印象だった。

そんなチリが、28年ぶりのワールドカップ出場を果たした中米のホンジュラスと対戦するこの試合は、僕的にはそれほどそそられる要素の多くないゲームに映っていた。

しかし蓋を開けてみてビックリである。
そこに入っていたのは何と!誕生日プレゼントの手編みのマフラー…でも、小学生のころに埋めたタイムカプセル…でもないけれども、驚くほど完成度の高い、観客を魅了するアタッキングフットボールだったのである。

ホンジュラスを圧倒したチリの組織力

ホンジュラスはメキシコの南のあたりに位置する、中央アメリカの小国である。

小国と言っても、メキシコ以外に大国と言えるような国がない中米の中では、実力派の中堅国という扱いになる。

そんなホンジュラス代表チームの歴史の中でも、今大会のチームは「史上最強チーム」と呼ばれているんだそうだ。
確かにイタリア・セリエAチャンピオンのインテルでも活躍したダビド・スアソを始め、イングランドのトットナム所属のウィルソン・パラシオス、同国史上最多の 130を超える代表キャップ数を誇るアマド・ゲバラなどのタレントが揃っている。

対するチリは、2007年の U-20ワールドカップで3位に輝いた、才気あふれる若手が主体のチーム。

実績ではチリが上回るけど、現メンバーの経験値ではホンジュラスに分がある。
このカードは地味ながらも接戦の勝負になるんではないかと、僕は戦前に予想していたのである。

しかし実際には、ゲームはほとんどチリの一方的なペースで展開することになった。

チリは僕の予想を上回るほど洗練されたチームだった。
中盤でリズミカルにパスを繋ぐのは南米らしいスタイルだけども、そのディティールは南米のスタンダードとはちょと違っていた。
超絶技巧の足技を主体に華麗なパスを繋いでいくと言うよりは、チーム全体が非常に組織立った動きを見せ、連動感のある動きからパスを繋いでいくスタイルである。
それはどちらかと言うとオランダのような、ヨーロッパの香りが漂うアタッキングフットボールのように僕には映った。

そのチリの組織的な攻守の前に、ホンジュラスはほとんど防戦一方に回った。

そして前半 33分、チリのエース、マティアス・フェルナンデスのスルーパスから、右サイドをオーバーラップしたマウリシオ・イスラが抜け出し、そこからのクロスをFWジャン・ボセジュールが決めて、チリが先制点をゲットする。

後半もその流れは変わらず、チリがほぼ全面的にゲームを支配する展開となる。
それでも屈強なディフェンダーたちの頑張りや、GKノエル・バジャダレスのスーパーセーブもあって、何とか守備では1失点で持ちこたえたホンジュラスだったのだけど、攻撃に関してはエースのダビド・スアソを故障で欠いたこともあって、ほとんどまともなチャンスを作れなかった。

けっきょく試合はこのまま終了。
チリが点差以上の実力差を見せつけて、この中南米対決を制した。

そしてこの魅惑のチームを創り出したのが、チリ代表のアルゼンチン人監督、マルセロ・ビエルサである。

世紀の変人監督、マルセロ・ビエルサ

ビエルサ監督は「戦術マニア」として知られる。

相手チームの1選手についてまとめた資料が、電話帳のような分厚さになっていたというようなエピソードも持ち、母国アルゼンチンでは「エル・ロコ(き●がい)」という何とも有り難くないニックネームをいただいた変わり者である。

ベレス・サルスフィエルドを率いてリーグ優勝するなど、国内では手腕を高く評価されていたビエルサが世界的に有名になったのは、1998年から母国アルゼンチン代表の監督となった頃だろう。

ビエルサのチームは2002年ワールドカップの南米予選で快進撃を続け、圧倒的な強さで本大会への出場を決める。
当時はガブリエル・バティストゥータやアリエル・オルテガ、ファン・セバスチャン・ベロンのようなワールドクラスのスターを多く抱えていたこともあって、アルゼンチン代表は本大会でもフランス代表と並ぶ優勝候補の筆頭に挙げられていた。

しかし周囲の期待に反し、アルゼンチンはグループリーグで敗退の憂き目にあう。
注目されたことで対戦国から徹底的に研究されたことと、両ウイング + センターフォワードを置くビエルサの3トップシステムが、がっちり中央を固められた場合の2次3次攻撃の厚みに欠けるという弱点が露呈してしまったことが敗因の一つだった。

期待外れの結果に終わったことでビエルサは解任されると思われたけれども、予想に反してビエルサは大会後も続投。
そして2年後のアテネオリンピックで優勝し、見事に汚名を返上する。
しかしこの大会後に、また逆の形で予想を裏切って代表監督を辞任。
このあたりでもなかなかの変人っぷりを披露した。

そして 2007年から、ビエルサはチリ代表監督に就任する。

アルゼンチンと比べれば陽の当たらない国で指揮をすることで、ビエルサはもう過去の人になったようなムードも漂っていたものの、彼はまだ死んではいなかった。
ビエルサはチリ代表で見事なチームを完成させて、このワールドカップに乗り込んできたのである。

チリが秘める「サプライズの可能性」

8年前のアルゼンチンと比べると正反対の、全くノーマークの立場でワールドカップに臨んだチリ代表。
しかし変人監督ビエルサにとっては、これくらいのポジションからのほうが世界をアッと言わせるには都合がいいのかもしれない。

僕にとって今大会のチリ代表は「小さなサプライズ」になった。
そして今後の活躍次第では、今大会で最大の驚きとなる可能性を秘めている。

次期日本代表監督にも名前の挙げられているビエルサ監督。
彼の作ったチームが決勝トーナメントに進出して本物のサプライズを起こすには、明日のスイス戦が大きなターニングポイントとなるだろう。

ただ仮にチリが1次リーグで敗退したとしても、彼らのサッカーが素晴らしく面白いことに変わりはない。

試合前には全く期待していなかったこのカード。

しかしやっぱり、ワールドカップに面白くない試合など存在しないのである。

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