ガーナと言えばチョコレート、オージーと言えばビーフである。
と意味ありげな入り方をしてみたけれど、上の1文にこれといって意味はない。
初戦では幸運な得点もあって勝利したガーナと、強豪ドイツ相手に大敗を喫したオーストラリア。
まずは初戦で明暗を分けたこの2チームが、運命の分かれ道となる第2戦で激突した。
ガーナを牽引する2人の天才
まず先制したのはオーストラリア。
まだキックオフの余韻も残る 11分、FKからのシュートのリバウンドをブレット・ホルマンが押し込んで1点目。
喉から手が出るほど勝利がほしいオーストラリアが、理想的なスタートを切った形となった。
ところがオーストラリアが歓喜に湧いたのもつかの間である。
得点から間もない前半 24分、ガーナのCKから放たれたシュートがオーストラリアのハリー・キューエルの腕に当たってしまい、これがハンドを取られてレッドカードの判定。
腕というよりは肩との付け根の部分に当たったようなボールで、キューエルにとっては気の毒な判定とも思われたものの、得点機会を完全に阻止してしまっていたことが痛かった。
けっきょくキューエルは退場となり、さらに PKまで決められて、オーストラリアにとっては一転して最悪の展開となってしまう。
その後は勢いに乗ったガーナが、個人技でオーストラリアを押し込む時間帯に。
ガーナの選手は素晴らしい個性を持った選手が揃っているけれども、特にアサモア・ギャンとアンドレ・アイェウの活躍が光っていたように思う。
アイェウはオールドファンにとっては懐かしい、かつてマルセイユでチャンピオンズリーグ優勝にも貢献したアフリカの “レジェンド”、アベディ・ペレの実子である。
父の所属したマルセイユのユースで育った期待の星は、自身も 09年の U-20ワールドカップでガーナ代表のキャプテンとして優勝を経験するなど、父に負けず劣らずの才覚の持ち主だ。
この試合でもアイェウの重心の低いドリブルは何度となくオーストラリアのDF網を突破し、オージーからすればかなりの驚異となっていたはずである。
そしてアサモア・ギャンは、僕の大好きなプレイヤーの一人である。
しなやかなドリブルテクニック、爆発的な瞬発力とバネ、スピード、当たりの強さと、フォワードに必要な能力を全て兼ね備えながら、その動きは神出鬼没そのもの。
フィールドのあらゆる場面に顔を出し、中盤の底に近い位置で組み立てに参加したと思ったら、次の瞬間には前線に出現してゴールを決めてしまう。
その動きはかつてのヨハン・クライフや、リベロの位置から得点を量産していた頃のルート・フリットを彷彿とさせるものがある。
フォワードながらも「3番」を着けていることにも象徴されるように、まさに「前線のフリーマン」と呼ぶにふさわしいプレースタイルだ。
そしてスレイ・ムンタリやスティーブン・アッピアーといったスター選手であってもレギュラーを確保できないガーナ代表にあって、ギャンは2大会連続で堂々たるエースストライカーとしてプレーし続けている。
僕はひそかにこのギャンを天才的なプレイヤーだと思っているのだけども、彼がこれまで所属したヨーロッパのチームはウディネーゼ、モデナ、レンヌといった中小クラブばかりである。
ビッグクラブでプレーしてもおかしくないくらいの才能の持ち主だと思うのだけど、それが実現しないのは彼のプレースタイルに理由があるのかもしれない。
その自由奔放なプレースタイルは、チームが「ギャンのチーム」と言えるほど彼が中心となれるチームでないと成立させるのは難しい。
そういうスタイルが許されるのが、ギャンの場合は中小のクラブしかなかったのかもしれない。
しかし現在のガーナ代表は、まさしく「ギャンのチーム」と言ってもいいチームである。
この試合でもギャンはPKを決めて1得点を挙げ、大会通算でも2試合2得点と結果を出している。
このギャンの出来が、ガーナの命運を握っていると言っても過言ではないだろう。
分け合った勝ち点1、その行方とは?
試合はその後もガーナ優勢で進んだのだけれども、オーストラリアは何度かの決定機を GKマーク・シュウォーツァーのスーパーセーブで阻止して追加点を許さず、試合はこのままドローで終了。
けっきょく両チームが勝ち点1を分け合った。
この結果、通算勝ち点を4としたガーナはグループ首位に立つ。
対するオーストラリアは最下位から脱出することに失敗。
最終戦で勝利すればまだ望みはあるけれども、ドイツ戦の大敗が効いて得失点差で不利に立つ。
決勝トーナメント進出にはセルビア相手に大量得点が必要になる、非常に厳しい立場に追い込まれた。
同じ勝ち点1ながら、その結果は明暗を分けた格好となった両チーム。
果たしてこの勝ち点1は吉と出るのか、凶と出るのか。
全ての答えは、最終戦で明らかになる。
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