アメリカはサッカー不毛の地と言われている。
いや、「言われていた」と言うべきだろうか。
世界に名だたるスポーツ大国でありながら、94年の自国開催のワールドカップ当時には、代表選手の多くが “サッカー協会所属” だったという、およそプロとしての体を成していなかったアメリカ代表。
しかし時代は変わって、今では国内プロリーグが整備され、ヨーロッパ各国で無数のアメリカ人選手たちがプロとしてプレーしている。
ちなみにアメリカで最も人気のあるスポーツはアメリカンフットボールである。
アメフトのプロリーグ、NFLの人気は他競技を凌駕していて、2004年に発表されたプロスポーツチームの資産価値の統計では、16位のニューヨーク・ヤンキース(メジャーリーグ)以外は上位33位までをすべてNFLの32チームが占めていた(Wikipediaより)。
アメフトに次ぐのが野球、バスケット、アイスホッケーで、これらはいわゆる4大メジャースポーツと呼ばれている。
サッカーは今のところ、4大スポーツに続く準メジャースポーツという位置付けだろうか。
ちなみに、アメリカ国内での競技人口という視点で見ると、サッカーは第4位の人気スポーツなんだそうだ。
ただこれは、アメフトなどのフィジカルコンタクトが多くて危険なスポーツに比べ、比較的安全なサッカーはその代替スポーツになるとして少年少女の間で盛んだということらしい。
また、日本と違って高校くらいまでは複数のスポーツをかけ持ちするのが一般的なアメリカでは、その一環としてサッカーがプレーされているという側面もある。
ともかく、やるスポーツとしては幅広く好まれているけども、見るスポーツとしては完全にメジャーにはなりきっていないという、日本で言えばバスケのようなポジションにいるのがアメリカにおけるサッカーだと言えるだろうか。
しかしそれでも、前述したようにプロリーグ「MLS」ができてから 15年が経ち、見るスポーツとしてのサッカーもゆっくりではあるけれど確実に定着してきている。
リーグの平均観客動員数は1万6000人を超え、中には3万人を超えるシアトル・サウンダーズのような人気チームも登場してきた。
また、以前はアメリカ国内でサッカーのワールドカップなどほとんど関心を持たれることはなかったそうだけれど、現在ではその状況もだいぶ変わってきていると聞く。
ワールドカップのアメリカ国内での放映権料が、南アフリカ大会とブラジル大会を合わせて4億ドルという巨額に達したことや、今大会初戦のアメリカ x イングランド戦の国内での視聴率が、MLBのワールドシリーズ(約11%)やNBAのファイナル(約10%)に迫る9%を記録したことからも、それはうかがい知れると言っていいだろう。
この試合も、そんな眠りから覚めつつ大国アメリカが、その底力を見せつけたようなゲームとなった。
見事な組織力を見せつけたアウトサイダー、スロベニア
しかし、はじめに主導権を握ったのはスロベニアのほうだった。
前半 13分、アメリカ DF陣の隙をつき、バイタルエリアでフリーとなったスロベニアの 10番、バルテル・ビルサがミドルシュートを突き刺して先制。
さらに 42分には、オフサイドトラップをかいくぐって GKと1対1になったズラタン・リュビヤンキッチがこれを決め、スロベニアが前半を 2-0とリードする。
世界的なプレーヤーが不在で、大会前はアウトサイダーと見られていたスロベニア。
しかし、かのイビチャ・オシムはこのスロベニアを注目すべきチームの一つに挙げていた。
はじめはボスニア出身のオシムさんが、旧ユーゴの同胞である近隣国をひいき目に見ているだけだろうと僕は思っていたのだけど、オシムの慧眼にはやはり狂いはなかったようである。
有名選手こそいないけれど、よく見るとスロベニアの組織力は際立っている。
中盤のプレスは速く、組織立っていて、攻撃の際も見事な連携からワンタッチパスを繋ぐ。
まさにオシム好みの洗練されたサッカーの香りを漂わせる好チームだ。
アルジェリアに勝ったことは決してフロックでは無かったと、このアメリカとの前半戦を見て良く分かったような気がした。
もしスロベニアが決勝トーナメントに進出したとしても、全く驚くべき結果とは言えないだろう。
眠りから覚めた「大国」アメリカ
しかし、アメリカが本領を発揮しだすのはここからである。
初戦でも優勝候補のイングランドに、先制されながらも追いついたアメリカ。
その粘り強さも、また本物だった。
2点を追うアメリカは後半立ち上がりの 48分、右サイドのライン裏に抜け出したエースのランドン・ドノバンが、狭いコースに弾丸シュートを突き刺す意地の一発。
これが決まって、理想的な時間帯に1点差に詰め寄ることに成功する。
そしてこのゴールは同時に、アメリカの反撃ののろしともなった。
これをきっかけにエースストライカーのジョジー・アルティドールらが積極的に攻撃を仕掛け、スロベニアゴールを立て続けに脅かす。
そして後半も残り 10分を切った 82分、後方からのロングフィードをアルティドールが頭で落とし、これをマイケル・ブラッドリーが決めて、アメリカがとうとう同点に追いついた。
一度は決まったかに思えた試合を振り出しに戻した、アメリカ代表の不屈の精神力。
初戦に続きこの第2戦でも、アメリカはその勝負強さを世界中に披露してみせた。
その後もさらに逆転を狙って攻めつづけたアメリカ。
しかし、スロベニアも必死の守りを見せる。
試合終了間際にはアメリカが逆転弾を叩き込んだように見えたシーンもあったものの、これは不可解なファウルの判定で取り消され、結局試合は 2-2の同点で幕を閉じた。
アメリカに見た大いなる胎動
このアメリカとスロベニアの両チームは、ともに大会前には大きな注目を集めてはいなかったチームである。
しかし、その両者の対戦となったこのゲームは、実に見ごたえのある好ゲームとなった。
特にアメリカの勢いは本物である。
去年のコンフェデレーションズカップで準優勝して世界をあっと言わせたアメリカだけども、それは決して偶然の産物ではなかった。
いよいよ覚醒の時を迎えようとしている「眠れる大国」アメリカ。
そこはもうサッカー不毛の地などではない。
おそらく 10年後や 20年後、恐ろしいほど力をつけたアメリカ代表の姿を、僕たちは見るようになるのではないだろうか。
現在のアメリカはまだ荒削りなチームだけども、そんな末恐ろしいまでの潜在能力を僕は感じた。
そして僕たちがこの大会で見ているのは、その大いなる未来へ向けての胎動なのかもしれない。
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