いよいよ決戦の火蓋が切られようとしている。
日本代表は今日の深夜に、決勝トーナメント進出を賭けてグループリーグ最終戦のデンマーク戦に臨もうとしている。
勝てば 16強、負ければグループリーグ敗退の決まる大一番。
4年に1回か、それ以上に希少な試合となる正真正銘の真剣勝負。
待ちに待ったこのゲームを前に、僕も身震いするほどの高揚感を覚えていたりする。
今回はその対戦相手となるデンマーク代表が戦った、この試合を振り返ってみたいと思う。
カメルーンの見せた高いモチベーション
初戦では低レベルな試合内容で日本に敗れたカメルーンと、守備に関してはオランダの猛攻をある程度しのいでいたデンマーク。
どちらも絶好調とは言えない両チームの対戦は、やはりどこかチグハグな動きを引きずったままの立ち上がりとなった。
両チームとも初戦で黒星を喫し、このゲームで連敗したら後がないチーム同士の対戦。
それでも、よりモチベーションが高かったのはカメルーンのように見えた。
グループ最強のオランダに負けたデンマークに比べて、格下と見ていた日本に足元をすくわれたカメルーンは、精神的にも崖っぷちに追い込まれていたように思う。
立ち上がりは、カメルーンのその緊張感が吉と出る。
前半 10分、何となくフワフワとした雰囲気の抜けきっていないデンマークが、最終ラインで緩慢なパス交換をしていた時、その一瞬の隙をついてカメルーンのピエール・アシル・ウェボがインターセプト。このボールがエースのサミュエル・エトーに渡り、どフリーとなったエトーが確実にミドルシュートを突き刺した。
相手のミスを突いた、最高の時間帯での先制点。
この得点で勢いに乗ったカメルーンはここから怒涛の猛攻を見せ、次々とチャンスを創り出す展開となる。
しかし、ここで勢いに乗り切れないのが今のカメルーンである。
いくつかの決定的チャンスを得点に結びつけることができないまま時間は過ぎ、徐々にペースダウンしてしまう。
そしてまた、デンマークに反撃を許す展開となってしまった。
デンマークの持つ「勝利の方程式」
デンマークは良くも悪くも「型」を持っているチームである。
勝利の「方程式」と言い換えてもいいかもしれない。
デンマークの必勝パターンは両ウイング、特に右ウイングのデニス・ロンメダールがサイドのスペースから起点を作り、そこからのクロスにセンターフォワードのニクラス・ベントナーが合わせる形である。
非常にシンプルでありきたりな攻撃ながら、それがロンメダールの爆発的なスピードと、ベントナーの高さという “分かっていても止められない” ものをベースにしているだけに、相手にとっては非常にやっかいである。
そしてこの試合でも、そのデンマークの「方程式」は遺憾なく発揮されていた。
デンマークが同点に追いついたのは 33分。
最終ラインのケアーからのロングパスが、右サイドに走り込んだロンメダールにピタリと合う。
ここからロンメダールが GKとDFの間に絶妙なクロスを上げると、走り込んだベントナーがスライディングで決めて、試合を振り出しに戻した。
その後は「絶対に負けられない」両チームが、交互に決定機を作るようなスリリングな展開となる。
しかしここでも、主導権を握ったのは「方程式」を持ったデンマークのほうだった。
61分、再び右サイドを突破したロンメダールが、右足クロスを上げると見せかけてインに切り返す。
そしてそのまま左足を一閃。
見事なミドルシュートが突き刺さり、デンマークが逆転弾を叩き込んだ。
このあと残り時間も少なくなる中、カメルーンもエトーを中心として必死に得点を狙いにかかる。
しかしデンマークも集中した守備でこれを抑えこむ。
けっきょくカメルーンの猛攻をデンマークが凌ぎ切り、試合は 2-1のままタイムアップ。
カメルーンは大会第1号での敗退が決まり、逆に勝ったデンマークは、続く日本戦での 16強への挑戦権を手にいれたのである。
日本代表はデンマークに勝てるのか?
では日本は、デンマークに勝てるのだろうか?
もちろん勝負はやってみなければ分からないけども、この試合を見る限りでは勝機は充分にあると僕は思う。
デンマークはディフェンス力に定評のあるチームだけども、センターバックに比べて両サイドバックのディフェンスは甘さが見えるように思った。
サイドと言えば松井大輔や大久保嘉人がカメルーン戦やオランダ戦で活躍したように、日本にとってもストロングポイントの一つである。
松井や大久保がここから攻撃の起点を作れれば、日本にも得点チャンスは生まれると思われる。
そしてデンマークの攻撃に関しては、その「方程式」をいかに封じるかがポイントになってくるだろう。
ロンメダールにいい形でボールを持たせてしまったら、そこから決定機を作られることは覚悟しなければいけない。
日本としては、その手前でチャンスの芽を潰す努力が必要になってくると思われる。
この試合でも、最終ラインのアッガーやケアー、アンカーのクリスチャン・ポウルセンらから、何度かいいボールが前線に供給されていた。
ここを抑えることが、日本がデンマークの「方程式」に持ち込ませないためのポイントになってくるのではないだろうか。
つまり前線からのフォアチェックがキーになってくると思われる。
しかしそれでも「方程式」に持ち込まれてしまった場合には、両ウイングと対峙する長友佑都と駒野友一、ベントナーとマッチアップする中澤佑二や田中マルクス・トゥーリオの頑張りが必要になってくるだろう。
ただ日本が持てる力を全て発揮すれば、デンマークは必ず勝てる相手だと僕は思っている。
唯一、気をつけなければいけないのは「油断」だろうか。
本大会に入ってからいい試合を続けたことで、国内では「必勝ムード」を通り越して、ちょっとした「楽勝ムード」が漂いつつある。
選手たちが同じ気分に陥っているとは思わないけれども、お隣の韓国もギリシャ戦での快勝のあと、大苦戦の末に決勝トーナメント進出の切符を手にいれた。
それだけワールドカップというのは難しいものだということを忘れてはいけないと思う。
まして日本は、大会前のテストマッチであれほど酷い試合を繰り返していたのだから。
日本が迎えようとしている「歴史的瞬間」
しかし気の緩みにさえ気をつければ、日本にも勝機は充分にあると僕は見ている。
およそ半日後に迫った決戦の時。
岡田監督は「こんな大舞台でこんな試合を経験できることは、人生でもそうあることじゃない。だから全力を尽くして戦おう」と選手たちを鼓舞したそうだけど、それは僕らにとっても同じことが言えるだろう。
日本は今、新たな歴史の1ページをめくろうとしている。
僕たちはその歴史的な瞬間の、立会人になろうとしているのである。
こんなビッグマッチをリアルタイムで体験できることは、そうそうある事ではない。
これぞまさに、サッカーファン冥利に尽きるというものだろう。
日本は今日勝つだろう。
いや、絶対に勝たないといけないのだ。
この試合で日本代表が歴史的な一勝を挙げ、日本サッカー界が新たなステージへの扉を開くことを、僕は心から期待している。
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