巷ではiPhoneがバカ売れしているそうである。
ちなみに僕も半年前の「本体実質0円キャンペーン」に乗せられて以来ユーザーの1人だったりするのだけれど、仕事柄もあってか僕の会社では、実に9割近くがiPhoneユーザーという、残る1割=1人の社員に妙なプレッシャーを与える環境になってしまっていたりもする。
余談ながら加入時にもらった「喋るお父さんスリッパ」は、図らずもそれを気に入ったウチの長男のおもちゃとなった。
ところが後から聞いた話では、ヤフオクに出すと2千円くらいで売れたらしい。なんだー、聞いてないよー、孫正義。
さておき、そんな iPhoneに代表されるように、舶来品のスマートフォンが席巻する携帯電話市場。
偉い人たちに言わせると、日本のメーカーがその潮流に乗り遅れた原因は、携帯電話が国内独自の進化を遂げたことによる「ガラパゴス現象」によるものなのだそうだ。
ガラパゴス現象。
どことなく若林源三を連想させる(いや、させないけど)小粋な語感だけれども、要するに生態系が独自の進化を遂げたガラパゴス諸島のように、世界から隔離されたまま市場が発展した時などに使う言葉なのだそうだ。
そしてサッカー界にも、このガラパゴス現象を体現してしまったチームがある。
今大会で久しぶりにそのベールを脱いだミステリアス軍団、北朝鮮代表である。
北朝鮮の見せた健闘
北朝鮮はJリーグでプレーする在日選手や、ロシアや中国でプレーする一部の選手を除いて、大半の代表選手がほぼ鎖国状態にある北朝鮮国内のリーグでプレーする「ミステリアス軍団」である。
あまりに情報が無いため不気味な存在だったものの、「死のグループG」に組み込まれたこともあって、今大会ではあまり注目も警戒もされていないチームの1つだった。
しかしその北朝鮮が、大会初戦で予想外の健闘を見せる。
優勝候補のブラジルを相手に 1-2 という接戦を演じ、世界を驚かせたのだ。
「北朝鮮あなどれじ」。
そんな印象を他国に植えつけた、非常にポジティブなイメージを抱かせる好ゲームであった。
ところがこのポルトガルとの第2戦で、そのイメージは鳩山政権を超えるスピードで崩壊してしまう。
7点差の大敗は、ワールドカップ史上7位タイのワースト記録。
今大会中でも、おそらく最多得点差のついたゲームになるだろう。
北朝鮮の選手たちに帰国後の懲罰が待っていないかも心配されるところだけども、実際に観てみればこの試合は、ついた点差ほどには内容に差のないゲームでもあった。
それでもこれほどの大差がついてしまったのは、北朝鮮が頑なに守り通してきた、「サッカー鎖国主義」。
そのひずみから生まれた「ガラパゴス現象」の賜物だったのである。
途切れてしまった集中力
ところで僕は、この試合をリアルタイムで観ることができなかった。
なのでTV観戦は「北朝鮮 7-0大敗」という結果を知ってからのことになった。
事前にそのスコアだけを見て、僕はおそらく100人中 99人がそう思うように、終始北朝鮮が主導権を握られ続け、サンドバックのようにボコボコに打たれまくった末に真っ白な灰となったような試合を想像していた。
しかし実際の試合内容は、意外にも拮抗した形で幕を開ける。
立ち上がりは強豪ポルトガルに対して北朝鮮もしっかりとチャンスを作り、ほぼ互角の戦いぶりを見せていた。
確かに考えてみれば、ブラジルに通用した戦術がポルトガルに通用しないという理屈は通らない。
北朝鮮はブラジル戦で得た自身を、序盤はしっかりとこのゲームでも活かせているように思えた。
ただし、そこはやはり実力上位国のポルトガルである。
ジワジワとチャンスの回数を増やしていくと、29分にはチアーゴのスルーパスからラウル・メイレーレスが抜けだして先制点をゲット。
およそ 30分で均衡は崩れる形となった。
ただ、北朝鮮もこの時点では集中を持続できていた。
勢いに乗るポルトガルの攻撃をしのぎ切り、前半は 0-1で折り返す。
まだ1点差、挽回のチャンスは充分にあるように思われた。
しかし後半に入ると、それまで繋ぎとめていた北朝鮮の緊張の糸は、プッツリと途切れてしまったのである。
53分にシモン・サブローサに追加点を許すと、ここから北朝鮮は崩壊街道まっしぐら。
次々とポルトガルアタッカー陣に裏を取られ、7分間で3失点。
ただ、4点差となり勝利が確実なものとなったところで、 ポルトガルのテンションも急速に沈静化していく。
逆に北朝鮮が反撃に転じ、チョン・テセを中心にいくつかのチャンスを作る展開となった。
ただそれでも個人能力の差は埋めがたいものがあり、北朝鮮はけっきょく得点を奪うことができない。
そして終盤、北朝鮮の攻撃意欲が減退したところで、再びその隙を突いたポルトガルがゴールラッシュ。
さらに3点を加点し、7-0の大勝で試合を締めくくったのである。
粉砕された44年前のノスタルジィ
この試合は、オールドファンからは「66年大会のリベンジの場」という視点からも注目されていた。
「66年大会?なに?」という方も多いだろう。
僕ももちろん生まれていない年なんだけど、この年の北朝鮮はワールドカップで快進撃を見せていた。
今大会と同じく全くのアウトサイダーでありながら、グループリーグでイタリアを破ってベスト8に進出。
ちなみにこのベスト8という成績は、日韓大会で韓国に塗り替えられるまで、ワールドカップにおけるアジアのチームの最高成績だった。
そして準々決勝でポルトガルと対戦した北朝鮮は、グループリーグの勢いそのままに、前半 25分までで 3-0とポルトガルをリードする。
北朝鮮、よもやの大金星か!?と思われたこの試合は、その後に伝説のストライカー、エウゼビオの4得点で試合をひっくり返したポルトガルが、けっきょく 5-3で逆転勝利を果たした。
そんな伝説のゲームから 44年。
それ以来の出場となる北朝鮮が、ポルトガルに半世紀ぶりのリベンジを果たすかも…という懐古主義者のロマンチシズムは、7-0というちょっとやり過ぎなほどのリアリズムをもって粉々に粉砕されたのである。
44年というとやはり長い時間である。
その年にオギャアと生まれた赤ちゃんたちが、今ではパパイヤ鈴木やマイク・タイソンの歳になっているほどの年月だ。
うん、我ながらいまいちピンと来ないぞ…!
ともかくその 44年間、北朝鮮代表はほとんど世界の表舞台に立つことはなかった。
その間、世界ではトータルフットボールが生まれ、マラドーナが現れ、プレッシングサッカーが主流となった。そして今ではバルセロナのような超絶ポゼッションサッカーまで登場している。
そんな世界のトレンドに、すっかり取り残された北朝鮮。
その姿はさながら、ガラパゴス携帯ならぬガラパゴス北朝鮮とでも言うべきものだった。
66年大会でも見せていたと言われる運動量と粘り強さの一端は、確かにこの大会でも垣間見えていた。
しかしこの第2戦目で、44年前の北朝鮮のシナリオは、大幅に書き換えられてしまったのである。
ポルトガルにつつかれただけではじけ飛んでしまった、風船のようなナイーブさ。
その原因となったのは、44年間「サッカー界のガラパゴス諸島」で独自の進化を狙ってしてしまったことから来る、失われた国際経験の弊害だった。
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