宮崎駿の名作アニメ『風の谷のナウシカ』に、巨神兵というキャラクターが登場する。

世界を7日間で焼き尽くした巨人型の人造人間。
実際にはキャラクターというよりは、むしろ兵器に近い。
ナウシカ世代の僕にとって巨神兵の登場シーンは、自己の映画鑑賞史上でも有数の名場面の一つであった。

スペインやドイツでナウシカがどれだけ認知されているのかは知らないけれど、戦火に巻き込まれる少女の姿を描いたアニメーションと同様に、ワールドカップも戦争の物語であるらしい。

実際にイラクやイスラエルで行われている戦争を見て、大人たちは嘆かわしいことだと口にする。
でも世の中から戦争は無くならない。
サッカーを戦争になぞらえて、それに60億の老若男女たちが熱狂する大会、それがワールドカップ。

そう、人間はけっきょく戦争を辞められない生き物なのだ。
ナウシカが公開された 1984年もそうだったし、四半世紀が経った 2010年にも、それは何も変わっていないのである。

スペインのベスト4に感じた違和感

今大会はスペインにとって、実に 60年ぶりのワールドカップ4強進出だった。
しかしそのたたずまいに、どこか所在なさ気な違和感を感じたのは僕だけだろうか。
戦前は優勝候補の筆頭に祭り上げらたスペインも、この試合の前には、その評価はすでに過去のものとなっていた。

違和感の理由はそこにある。
開幕からピリっとしない試合を続けたスペインは、この試合の前には多くの人たちから優勝候補の称号を剥奪された、「追放された王」になってしまっていたのである。

それは例えるなら紅白歌合戦でよく見かける、「有名だけど、この1年の活躍の記憶がまるでない大御所演歌歌手」の姿に似ている。
彼らが「はあ〜ン」と歌い出した瞬間に感じる、あの違和感。
スペインのベスト4に僕は、そんな順当のように見えて、どこか場違いな気もする違和感を感じてしまったのだ。

対するドイツは、セルビア戦を除けば完璧な試合ぶりで4強まで勝ち上がってきた、飛ぶ鳥を落とす勢いの好チームである。

「名前だけで出ています」、セミリタイア状態のスペインに対して、若き才能が溌剌とした動きを見せるドイツ。
戦前の予想では「ドイツ有利」との声が優勢だった。

一部では「事実上の決勝戦」とも呼ばれたこの好カードはしかし、意外にもスペインの圧倒的な強さだけが際立った一戦となったのである。

覚醒した「眠れる巨人」

良い時のスペインはサッカーのチームではない。
ハンドボールのチームである。

まるで手で扱っているかのように自在にボールを操り、無力なカカシと化した相手DF陣を弄ぶようにゴールへの道筋を紡ぎ出していく。

そしてこの日のスペインは、見事なまでのハンドボールチームだった。

ドイツの監督・選手たちは思ったはずだ。
「反則だ、手を使ってるじゃないか!」。
しかしもちろん、審判の笛は鳴らない。
厳格なルールの門番は、我々からは手を使っているようにしか見えないものを、しっかりそれが脚によるものだと見極めていたようである。

フットボールというスポーツの前提を根幹から覆すかのように、全く違う次元のプレーでドイツを翻弄するスペイン。
カルレス・プジョルが奪った1点のうち、偶然が関与した部分はその時間帯と、得点者が誰だったのかということだけである。
あとはスペインに生まれるべくして生まれた、必然としか言いようのないゴールであった。

試合後、「ドイツ代表の野口五郎」ことヨアヒム・レーブ監督は、脱帽の体で完敗を認めた。
学究肌の理論派指揮官にとって、自チームよりも相手チームのほうが完成度が高いことを認めることは、勇気のいる行為だっただろう。

しかし対戦相手の指揮官に、つまらない自己弁護は無意味だと悟らせてしまうほど、この日のスペインは完璧だった。
文句なしに、スペイン代表の今大会におけるベストゲーム。
「眠れる巨人」が、とうとうまどろみの時間から目を覚ました瞬間だった。

ワールドカップのエンディングに待つ結末とは?

この快勝で、スペインは一躍、大会前の優勝候補筆頭の称号を奪回した。

決勝戦の相手はオランダである。
現在のスペイン代表の基盤となったクラブ、FCバルセロナ。
そのバルセロナのサッカースタイルの基礎を固めたのが、かのヨハン・クライフだ。
クライフのルーツであるオランダは、スペインとは兄弟のような関係にあるチームである。

この日の試合を見る限りでは、決勝戦の下馬評もスペイン優位が動かないものだと思われる。
しかし南アフリカを舞台にしたこの物語は、そんなシンプルなシナリオでは綴られていないのではないかとも、僕は想像するのだ。

「サッカーは良いチームが勝つとは限らない」。
「これがサッカーだ」。

この大会の中だけに限っても、僕たちはこのフレーズを何度となく使ってきたではないか。
スペインは素晴らしく良いチームである。
しかし、オランダも良いチームには違いない。
そして、両者ともに相手に付け入られる隙は充分にあると僕は見ている。

気になるのは決勝戦を戦うスペインが、この日と同じスペインなのか、それとも準々決勝までのスペインなのかということである。

前者であればスペインは優勝に大きく近づくし、後者であれば逆にオランダが有利だ。
そして僕は、決勝のスペインは後者かもしれないという可能性を捨てきれないのである。

巨神兵は長い眠りから目覚め、迫り来る王蟲の大群を焼き払った。
しかし映画の巨神兵はその直後、まだ不完全だった肉体が崩壊し、その輝きは一瞬の火花を燃やしただけで散った。

スペイン代表は、サッカー界の巨神兵なのだろうか?
誇り高き軍団ドイツを、圧倒的な火力で焼き払ったところまでは映画と同じである。

では決勝では、彼らの肉体は崩壊してしまうのか?
それとも見事にシナリオを書き換え、この世界の王者として君臨するのだろうか?

彼らがドイツに見せつけた強さが「真の覚醒」なのか、それとも「一瞬の炎」だったのか。
その答えこそが、このワールドカップという壮大な物語のエンディングを決定づけるのである。

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